衣料ロスに悩むファストファッション各社が注目、身体完全フィットのジーンズをオンデマンド縫製する「Unspun」

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Unspun 3人の共同創業者:左から、CEO  Walden Lam 氏、CPO Beth Esponnette 氏、CTO Kevin Martin 氏
Image credit: Unspun

世界的にフードロス問題が注目を集めている。その念頭には数十年後にやってくるかもしれない食料問題があって、恒常的に供給量の1割以上を廃棄してしまっている日本にとっては改善が急がれる社会課題の一つだ。そして、もう一つの由々しき問題が衣料ロス問題である。統計にもよるが、世界の出荷供給量の約半分が廃棄に回されてしまっているとのデータさえある。

流行の影響を受けやすい衣料分野では、あらかじめ多めに商品が生産・供給され、シーズンを過ぎればブランドは値崩れを懸念して二次流通に載せることこともなく、多くの商品は末路を迎える。衣料のアップサイクルやリサイクルのスタートアップも生まれているが、最初に商品が生まれる製造プロセスの現場には、まだまだイノベーションが必要かもしれない。

香港のファッションスタートアップハブ「The Mills Fabrica(南豊作坊)」で生まれ、現在は香港とサンフランシスコの2都市に活動拠点を置く Unspun は、3D スキャンとデジタルファブリケーションで、この問題の幾分かを解決しようしている。Unspun のスマートフォンアプリを使って10秒間のボディスキャンをするだけで、独自開発のアルゴリズムにより、身体に完全フィットするジーンズを自動製造して届けてくれるのだ。

ファッションをオンラインで売るビジネスには、ユーザが購入前試着できないという大きな欠点がある。ファッションコマース各社は、この欠点を補うために購入後にも返品を自由に受け付ける態勢を取っているが、特定のユーザにカスタムフィットやテーラーメイドで作られた衣料は、返品されてもその商品を他の人に売れないため、返品は受け付けていないことが多い。

この問題を解決するために、Unspun では AI プラットフォームを使ってパターンを作成し、そのパターンが出来上がったら、ユーザのアバターに着せて、どういう見栄えになるかを事前に確認できるようにしている。(共同創業者で CEO の Walden Lam 氏)

Unspun のポップアップストア
Image credit: Unspun

試着とまではいかないものの、ユーザはこの見栄えをアプリで確認したら、型紙やパターンデータが、トルコや中国にある世界の4つの製造拠点に送られ、ロボット縫製機によりジーンズが製造され、注文したユーザの手元にジーンズが届く仕組みだ。かくして、Unspun は在庫を全く持たず、ユーザの身体に完全フィットしたジーンズを、衣料ロスへの関心の高い欧米の消費者に安価に届けることを実現している。

Unspun のムダを出さない技術とビジネスモデルは、特にファストファッションブランドから注目を集めているようだ。同社は2017年にH&M とデニム部門と提携し、昨年には 元 Levi’s のデザイン責任者 Jonathan Cheung 氏をのアドバイザーに迎えた。先月、創業6年目で実施したプレシリーズ A ラウンドでは、Product Hunt の CEO Josh Buckley 氏のファンドのリードで750万米ドルを調達した。

現在はシリコンバレーのテックコミュニティ、それにヨーロッパのサステナビリティに関心を持つ人々からの関心が高い。今後、アメリカにも製造拠点を作る計画だ。(Lam 氏)

Unspun はこれまでに、アメリカ、香港、ロンドン、アムステルダムでポップアップストアを通じ、潜在顧客とのリアルなタッチポイントでマーケティングを図ってきた。近年は特に、新進気鋭のファッションブランドやデザイナーと提携した事業拡大に力を入れており、リテール各社とも話を進めてきたという。来年には、日本への本格進出も目指しているようだ。

Unspun は、ヨガウェアブランドのルルレモンでアジア太平洋地域の事業戦略責任者だった Walden Lam 氏、オレゴン大学で助教授を勤めた Beth Esponnette 氏、コロラド大学ボルダー校で機械工学の学位を取得した Kevin Martin 氏らにより共同創業。その後、ハードウェアアクセラレータ HAX に採択された。Martin 氏は今年、米 Forbes 誌による「30歳以下の30人」の一人に選ばれた。

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