挫折からの再起、カスタマーサクセスのHiCustomerが「2打席目」サービス、Arch(アーチ)公開

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ニュースサマリ:カスタマーサクセス管理プラットフォーム「HiCustomer」は6月1日、カスタマーサクセスにおけるオンボーディングに特化した支援プロダクト「Arch(アーチ)」の正式公開を伝えている。ArchはSaaSなどを提供する企業が導入企業に対して操作方法などを支援する「オンボーディング」業務を効率化する。操作方法やオンボーディングタスク、面談した動画のシェアやKPIの共有など、導入支援に必要な情報を一元管理し、顧客と共有ができる。利用は月額3万4,000円からで初期費用は無料。2週間の無料期間が設定されている。

話題のポイント:この記事に先立って転載させてもらった記事が大きな話題になったHiCustomerが、新たなプロダクトをお披露目しました。そもそもHiCustomerは、SaaSを展開する企業のカスタマーサクセス(CS)を支援するプラットフォームとしてデビューしたのですが、各社におけるCSはカスタマイズ要件のオンパレードであり、SaaSとして展開するには少し相性が悪かったようです。

特に彼らが挑戦した顧客の可視化というテーマは以前の取材でも課題と感じていました。カスタマーサクセスチームのために対応すべき顧客をアラートなどで通知し、適切な対応を促すことでLTV(ライフタイムバリュー)の最大化を支援するというものだったのですが、例えば顧客企業の抱えるエンドユーザーが満足したかどうかを測定する場合、定性的な要素が多分に含まれることもあり、これを標準化してひとつのプロダクトに押し込めることは難しかったんですね。

CSと一言で表現しても各社やり方はそれぞれ、という結果だったということなんでしょう。この辺りは彼の書いた振り返りのブログで詳細に語られています。

Arch画面イメージ

その点、今回のArchはフォーカスをさらに絞った点で優れています。SaaS企業におけるオンボーディングの課題は主にコミュニケーション用のツールが分散していることにあります。導入支援を受けた側の企業はその結果を決済者と共有し、ツールの利点や投資効果などを説明する必要がありますが、これらの情報がバラバラだと確かに体験は悪くなります。Archはこのコミュニケーション課題に絞った結果、効率化に成功したというわけです。現在、導入が進んでいるそうですが、概ね好意的なフィードバックを得ているというお話でした。

HiCustomerの代表を務める鈴木大貴さんは元々、アーキタイプにてスタートアップ投資を手がけていた人です。支援側として数々の失敗を見てきたはずの彼が、やはりその罠にハマるという経験も含め、インタビューで赤裸々にお話いただいています。

ポッドキャスト全文

BRIDGE編集部・ポッドキャストではテクノロジースタートアップや起業家に関する話題をお届けいたします。今回の取材ではカスタマーサクセス支援を手がけるHiCustomerの鈴木大貴さんにお話を伺いました。

顧客を可視化し、カスタマーサクセスをクラウドで支援するというコンセプトで2018年に立ち上がった同社は、順調な立ち上がりの一方、スケールという壁にぶち当たります。思った成長が描けずチームの士気は低下。組織崩壊の危機に直面します。

残り資金も少なくなる中、鈴木さんたち経営陣はここから冷静に状況を見極め、改善の一手を打ち始めます。今回、公開された新サービスArchはそんな再起のプロセスを経て公開されました。投資家としても活動していた鈴木さんはどのような方法を取ったのか、そのあたりも含め、ぜひ彼の声をお聞きください。

2019年に資金調達したHiCustomer(写真はプレスリリースから)

組織崩壊の件をブログを公開されていました。eNPS(従業員エンゲージメントのスコア)がすごいことになったそうですがちなみにこれって正常値ってどれぐらいなんですか?

鈴木:eNPSの数値はマイナス100から上限が100なんですが、日本って割と低めに答えるんで、実は日本の平均値がマイナス30前後だったような気がするんですよ。

それがマイナス100となったということで、スタートアップの魔法が解けたなと思った瞬間はどういう時でしたか

鈴木:(noteにも)書いてある通り、DMが来てもうパチンって感じですよね。徐々にというか、兆候もあったりするので、1on1でメンバーと話をしていて最初こう、イケイケどんどんだったのがあれ?みたいな。本当大丈夫ですかね?みたいな。なんかそういう会話が増えてきた時とか、全社ミーティングで俺、けっこう槍玉に上がってんだ〜、なるほど〜っていうのの積み重ねで最後にパチンときましたね。

泣きそう。では組織がマズイなと思ってからどのようなプロセスを考えました

鈴木:魔法が切れてバチンとなったらタイミングがまあ、多分ここが底だろうなと思ったんですね。で、上がっていっているっていうことをメンバーも含め、僕も含め何によって認識していくかっていう風に考えた時に、一番大きいのって例えば売上が増えるとか、お客さんが増えるとか、なんかデカい調達するとか分かりやすいじゃないですか。

ただ、この分かりやすい結果が出るまでの時間軸、ラグが相当にあるなという風に思ったんで、もっと手前のしかも、誰もが見てわかりやすい数値化された指標、これがまあちょっと上がってきてるな、っていうのの繰り返しで行くしかないなと。

それで eNPSが-100って綺麗に出たんですね。それで測ってみてちょっと上がったから、なんかちょっと良くなってんじゃない?プロダクトの利用データとか見てちょっと改善して上がったよね?とか。なんかこういう「ちょっと進んでる?」みたいなものを意識しながら可視化して、もうみんなでやったねっていう、このリズムを作るってことはめっちゃ意識しましたね。

小さな成功って大切ですよね

鈴木:いやー本当そうなんですよね

ランウェイ(売上)についてはコンサル仕事で繋いだ

鈴木:そうですね。やっぱり最初はプロダクトを売る会社だったので、そこからコンサルティングってともすると、なんか本当にプロダクトとかスケールどうするんだっけ?みたいな議論というか、心配になるじゃないですか。

ただまあ、スケールも何も作ってくれるエンジニアいなくなっちゃってましたから。じゃあ、どうするかみたいな感じになると一旦、自分たちが生き残る期間を増やすっていうことを考えた時、調達をするのか、足元で稼ぐのかっていう話があり、調達するにせよ、俺たちに誰が何がうれしくて出すんだって話なので。

鈴木:なので、一旦コンサルでちゃんとこう、足元で自分たちがやってきたことで、お客様に価値提供をする。稼ぎながらちゃんと喜んでくれるんで、それもまたなんかメンバーでやればちゃんとこうなるよね、というのもあってモメンタムを回復することができた。ひとつ大きな材料だったかなと思いますね。

コンサルで繋ぐとプロダクトに戻れなくなるのでは

鈴木:いろんな選択肢あったんですけど、何にせよそんなに怖くはないかな?っていう風に思っていて。

自分たちがやってきたことと全然違う領域でコンサルとなると、またちょっと話は違ったと思うんですね。ただ、本当に隣接領域のコンサルをやって、更にこっから得たノウハウを絶対プロダクトの方に持ってこれるよね、っていう確信があったので、まあ多少時間かかったとしても絶対またプロダクトの方をやるという覚悟というか、決めたんであんまり怖くはなかったですね。

前職では投資家としても活動していましたよね。投資家と起業家のギャップをどう感じましたか

鈴木:前職のころ、やはりシードアーリーの起業家の方々コミュニケーションさせてもらって、最初は「ホントこの人大丈夫?」みたいな人たちがこう、短い時間でグーッと成長して顔つきがキリッとしてくるんですよ。世の中にある情報って、例えばあのアメリカのあのスタートアップやベンチャーキャピタルが言っている内容、ブログの記事等あるじゃないですか?

あれ、全部本当なんですよ。

本当に本当のことを書いてるなと思ってるんですが何故だろう、踏んでしまう。

踏んじゃった

鈴木:全部踏みましたからね。何なんだろうなあと。不思議ですよね。

ありがとうございます。では今日の本題であるArchについて教えていただけますか

鈴木:HiCustomerという、社名と同じプロダクトを2018年リリースして、3年以上経ちました。

1個目のプロダクトはSaaS企業の中の人たち、カスタマーサクセスの方々が、自分が担当してるお客さんがプロダクト使えてるかな?とか解約リスクどのぐらいあるかな?みたいなものを見るダッシュボードだったんです。

今回、新たに準備をしている「Arch」というものは同じく、カスタマーサクセスの支援プロダクトなんですが、ダッシュボードではなくて、顧客接点側のプロダクトとなっています。

具体的に言うと、Archでお客さん専用のページを簡単に作ることができるようなものとなっておりまして、この作ったページにお客さんを招待して、例えばオンボーディングのプロジェクト管理をしたりとか、その手前のプリセールスのご提案のプロジェクト管理をしたりとかできるものです。自社とお客さんの双方のステークホルダーを1箇所に集めて異質な情報を一元的に管理をすることで、業務をスムーズにして摩擦を減らし、最終的にはLTVを最大化する。こういったことを狙ったプロダクトとなっております。

オンボーディングでコミュニケーションする際のツールが一元化された

鈴木:そうですね、おっしゃっていただいた通り、カスタマーサクセスを進める上で、ステークホルダーが当然複数いるという風に思ってるんです。

お客さんで導入の意思決定をする人、導入プロジェクトを推進するっていう責任者のレイヤー、あとはそこからこう使ってっていう風に言われて操作をするユーザーのレイヤーがあって、ユーザーのレイヤーがこれ、分からないって時に例えばそのウェブ上のメッセージが出てみたいな「how」を伝えるという所って結構あるかなという風に思ってるんです。

また、上位の人たちに対して、そもそもこのプロダクトを何で導入するのかとか、どういう風に使っていくのか?みたいな「why」の部分ってやっぱりなかなか従来の仕組みだと担保が難しかったんじゃないかなと思っています。

それらを僕たちのこのページ上で自社とお客さん双方でコラボレーションしながら、必要ドキュメントなのか、テキストなのか、タスクの手順なのか、こういうものが入ってる状態で、認識合わせながらプロダクトの導入を進めるということができるような、そんなイメージのものになってます。

どういう課題感からここに辿り着いたんですか

鈴木:お客さんが持ってる課題っていうところで言うと、そもそも自分たちのプロダクトを解約されてしまう理由のうち、大体25%ぐらいに収斂するんですけど、25%がなんだかんだいってオンボーディングうまくいってなかったよね、っていうデータなんです。

カスタマーサクセスって解約率を下げるとか、アップセル、クロスセル、LTV最大化っていう風に事業数値に対して当然みなさん手を入れていくんですけれど、もっともっと手前のオンボーディングという工程をより密に、低コストでお客さんの成功体験をいかに作るか。また、その手前でお客さんが正しく自分たちの要件に合ったシステムをちゃんと選択できてるのか?という、上流の方に大きな課題があるなと思っていたので。

顧客の反応は

鈴木:フィードバックとしてはお客さんが普段現業があって忙しい中、Archがない状態だとバラバラとメールとかこれ見ておいてください、メディアチャネルがバラバラの状態でコミュニケーションされているものが一元的に管理されるので、ステークホルダー間でこれをいつまで誰がやった、みたいなものが可視化されるようになります。

そうなると、お客さんの真剣度も上がって、オンボーディングの成功率時間がグッと短くなったとかですね。まさに狙い通りのフィードバックをいただいています。本当にベータから終わって正式リリースっていうタイミングなんですが、自信を持ってお話ができるような状態になってるんじゃないかなと思ってます。

今後の課題は

鈴木:僕たちのプロダクトを使ってくれるお客さんの種類、顧客セグメントと呼ばれるようなものをめっちゃ細かく細分化して、もう各個撃破という戦略で進めようとしております。また、ビッグビジョン的なところで言うと、SaaSのオンボーディングだけではなく、普遍的なカスタマーサクセス みたいなテーマにもチャレンジしたいなと思っているので、なんかその辺も一定の溝があるかなと思っており、そこを超えていくっていうのは考えています。

ありがとうございました。期待しています

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