日本におけるプライベートエクイティは最悪の事態?【ゲスト寄稿】

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mark-bivens_portrait本稿は、フランス・パリを拠点に世界各地のスタートアップへの投資を行っているベンチャー・キャピタリスト Mark Bivens 氏によるものだ。彼は、日本で Shizen Capital(旧 Tachi.ai Ventures)のマネージングディレクターを務める。本稿は Bivens 氏の許諾を得て翻訳転載した。英語によるオリジナル原稿は、BRIDGE 英語版に掲載している。(過去の寄稿

This guest post is authored by Mark Bivens. Mark is a Paris- / Tokyo-based venture capitalist. He is the Managing Partner of Shizen Capital (formerly known as Tachi.ai Ventures) in Japan. The original English article is available here on Bridge English edition.


Hurricane Sandy hits Massachusetts.
A public domain image. Photo by Marilee Caliendo/FEMA via Picryl

先月、私は VC(ベンチャーキャピタル)業界の人間でありPE(プライベートエクイティ)業界の人間ではないので、プライベートエクイティについて論評する場合、読者は私の言葉を冷静に受け止めてくれるはずである。私は、日本の現場で、ある現象を観察しており、それを共有することが重要だと考えている。

まず、現在のマクロ経済の背景について、多くの専門家(専門家と実務家の両方)が意見を述べている。ほとんどの先進国では、大規模なインフレが進行しており、アメリカのインフレ率のコア指標である消費者物価指数(CPI)は最終的に8.6%に上昇した。

政府、特にインフレ抑制を主要な任務とする中央銀行は、気がつけば時代に取り残されていた。その結果、米国連邦準備銀行、それに続く欧州中央銀行とイングランド銀行は、利上げと量的引き締めを継続的に行い、資産価格を急落させることになった。

G7 諸国で例外的な状況にあるのは、日本だけである。どの程度の幅のバスケットを使うかにもよるが、日本の CPI インフレ率はわずか2.5%しか上昇せず、計算から食品とエネルギーを取り除くと、インフレ率は現在わずか0.3%であり、アメリカの同等の指標よりも20倍も低い。

そのため、日銀はイールドカーブ・コントロール政策を維持し、10年物国債の利回りを事実上25bp(0.25%)に抑えている。日本が低金利を維持する一方で諸外国が利上げや引き締めを行う、この激しい格差の影響は、以前にも書いたように、20年ぶりの安値となる急激な円安として現れている。

円相場の下落を受け、市場では日銀が自国通貨を買い支えるためにイールドカーブ・コントロールを緩めるのではないかという憶測が流れている。しかし、東京のコンセンサスは、日本のインフレが手に負えなくならない限り、日銀はこの方針を維持する以外にないだろう、というものである。しかも、日銀の黒田総裁は来春に最後の任期を迎える。黒田総裁の最後の9カ月間に急激な政策転換が行われる可能性は低いと思われる。

ここで、プライベートエクイティの話に戻ろう。 プライベートエクイティ取引が成功した場合、最大3つの方法で価値を生み出すことができる(VC は3つしかないと冗談を言うが、ここでは我慢することとする)。

  1. 経営効率化
  2. マルチプル・エクスパンション
  3. レバレッジ

経営効率化とは、リストラクチャリングにより、経営効率を上げることができることを意味する。不採算資産の売却、コスト削減、買収、経営陣のインセンティブの調整などは、PE ファームが経営権を取得した後に企業にもたらすことができる方法の一つである。

マルチプル・エクスパンションとは、EV/S や EV/EBITDA(それぞれ企業価値/売上高、企業価値/EBITDA)のマルチプルがより高くなるように企業を変革することである。より高いマルチプルは、戦略的フォーカスの強化、コーポレートガバナンスの改善などの内部的要因と、成長または人気が回復しつつあるセクターへの投資などの外部的要因の両方によって達成することができる。

レバレッジとは、PE バイアウトでターゲット企業を買収するために、かなりの部分を借入金で賄うことを意味する。例えば、1億ドルの企業買収の場合、典型的なレバレッジド・バイアウトでは、PE ファンドから3,000万ドルの株式、貸し手から7,000万ドルの借入金が必要とされるかもしれない。

ご想像の通り、上の2つまたは3つ全ての要素を組み合わせることで、投資リターンのプロファイルを飛躍的に向上させることができる。例えば、前述の1億ドルの企業が EBITDA の5倍で評価されているとしよう(EBITDA = 1億 / 5 =>2千万)。この取引は、PE ファンドから3,000万円、外部から7,000万円の借入金でおこわなれたとする。もし PE ファンドが業務効率化によって EBITDA を2,000万ドルから3,000万ドルに増加させ、同時に戦略的集中とセクターの成長によって、この会社の EV/EBITDA 倍率が5倍ではなく、7倍に正当化できた場合、この会社の企業価値は2億1,000万ドルとなる。この価格で買い手を見つけることができれば、PEファンドは4.67倍((2億1,000ドル-7,000万ドル負債)/3,000万ドル)の投資資本利益率を得ることができるのである。

上のプライベートエクイティの価値創造の3つの要素から日本を見ると、日本の市場は非常に魅力的に見える。

名前を挙げるまでもなく、多くの既存企業が不採算事業を抱えていることは周知の事実であり、それゆえに事業再編の機会があり、その結果、経営効率を上げることができるかもしれない。さらに、日本の新しい ESG コンプライアンス要件により、一部の企業は事業再編を余儀なくされ、場合によっては事業部門を切り離すことがあるかもしれない。

マルチプル・エクスパンションの原理では、金利上昇で資産価格が下落し、EV/EBITDA 倍率は世界的に全く逆の方向に動いている。欧米では日本以上にマルチプル・エクスパンションの圧縮の力が働いている。

しかし、低金利環境のおかげで、日本のデットファイナンスは世界の他の国々と比べて相対的に割安であり続けている。安価なレバレッジでバイアウト案件を組成することができる日本は、プライベートエクイティの価値創造の観点からは、非常に魅力的である。

さらに、日本におけるプライベートエクイティビジネスに対する認識は、外資系ファンドであっても徐々に改善されつつある。海外の PE ファンドの目には、日本市場は、信頼できる法の下、安全なものとして映っているのだ。

表面的な分析に過ぎないが、現在の環境において、日本はグローバル PE ファンドにとって魅力的な市場であることは明らかである。

その兆候は既に現れている。今回の株主総会シーズンでは、過去最高の77社が株主からの提案を受け、その多くが外資系ファンドによるものだった。3月にはスウェーデンの EQT が Bering Private Equity Asia を買収し、日本での事業拡大を明言した。東芝の200億ドル規模の買収が目前に迫っており、その動向が注目される。

これらのデータがより大きなトレンドとなるかどうかはまだ分からないが、もしそうであれば、日本国内の PE ファームにとって競争が激化する可能性がある(シンジケートで共同投資することが多い VC と違って、プライベートエクイティはどちらかというと単独で投資することが多い)。非公式に聞いたところによると、彼らは警戒していないようだ。

これは私の分野からかけ離れているかもしれないが、私はこのような仮説的な思考を試すことを楽しんでいるので、以下に日本国内の PE ファームに対する私の勝手な(おそらく歓迎されないであろう)アドバイスを述べる。日本のベンチャーキャピタルファンドのようなアップストリームの関係を構築することである。

日本の市場は外国人にとって不透明であり、現地にいる方が有利である。全てのベンチャー企業がプライベートエクイティのターゲットになるわけではないが、エンタープライズ SaaS のような高成長企業など、PE によるビルドアップ戦略の補完的なターゲットとなるセクターはよくある。このような関係を構築することで、競争が激化した入札が始まる前に将来のディールフローのための土台を築くことができるのである。

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