favy、マンションを救う(1)OMOカフェ事業の船出と疑問

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favyが8月1日にオープンしたサブスクコーヒー店「coffee mafia 有明」

ニュースサマリ:飲食店向けデジタルマーケティング支援などを手がけるfavyは7月29日、地域や商業施設向けのにぎわい創出ソリューション「OMOカフェ」の新規出店とサービス提供開始を伝えている。OMO(オンラインとオフライン融合、オムニチャネル)型カフェは、モバイルオーダーやサブスクリプション(月額課金)による顧客情報管理などを組み合わせることで、オンライン(アプリ)とオフライン(店舗)を効率的に繋げることのできる仕組みを提供する。会員の来店頻度や嗜好などがデータとして残るため、マンションのような地域に密着した店舗の場合、店員の入れ替わりがあっても顔馴染みのような対応が可能になる。

favyはこれまでにもサブスクリプションや、レストランデジタル化の仕組みを外部向けに提供してきた。3月には東日本旅客鉄道(JR東日本)が提供する定額制サービス「JRE パスポート」に同社のソリューションが採用されおり、JR東日本が手がけるエキナカ、駅ビルの店舗中心にサービスの提供を開始している。

今回はこういったデジタル化支援に加え、飲食店舗の立ち上げからデザイン設計、施工、テナントのリーシングなど、オフラインに関わる部分までを含め、ワンストップで提供している。サービスの提供先となったのは東京建物で、導入の対象となった物件は有明地区にある「Brillia Tower 有明 MID CROSS」1階テナント部分。地域貢献施設として指定されていた場所にfavyがOMO型カフェ「coffee mafia 有明店」を出店している。

利用するユーザーは、店頭でのキャッシュレス決済に加え、月額3,000円でコーヒーが利用できるサブスクリプションサービスや、事前注文できるモバイルオーダーを利用できるほか、店舗内に設置されたセントラルキッチンにて需要に合わせたメニュー作りや店舗運営ができるとしている。同社では今後、商業施設やマンションなどの飲食店区画に対し、同様のサービスを提供していく。

話題のポイント:飲食店メディアから始まってレストランのデジタル化支援、気がついたらエキナカのサブスクインフラから横丁の店舗構築までと、もう人材以外は全方位カバーしてきたんじゃないかと思えるfavyですが、個人的に二つの点で大変興味深い話題になりました。

ひとつはやはりコロナ禍における復活劇です。以前の取材で代表の高梨巧さんにお話伺いましたが、興味深いを通り越して起業家の生存能力の高さ・サバイブする胆力を見せつけていただく形になりました。新サービスについても「とある課題」にヒットする内容でこれは後述いたします。

もう一点は、このOMOカフェが導入されたマンションに私が住んでいる、ということです。

それでは住人として、そしてテックの取材者として長年お話伺っている高梨さん・favyの取り組みを紐解いてみたいと思います。

OMOカフェ事業の船出と疑問

favyの主力事業となった「favyサブスク」

favyはそもそもメディアで小規模な飲食店の情報化を支援する事業から開始した、2015年創業のスタートアップです。

その後は自分たちでショーケース的な店舗を作り、そこでのノウハウを元に会員制で店舗運営ができる「favyサブスク」サービスや、レストランのデジタル化支援を「RaaS(レストラン・アズア・サービス)」としてまとめて展開してきました。前回取材時に書きましたが、このサブスク事業が現在の彼らを支える柱になっています。

足元の店舗数は、小規模飲食店を集めていた時の8,000店舗(favy有料の利用店舗)には及ばないものの、現在、favyサブスクソリューションを利用している店舗数は約3,200店舗以上に回復しており、売上などの事業規模については、エンタープライズ向けの事業貢献もあって、コロナ禍前の水準にほぼ戻ったそうです(コロナ禍で事業は9割減、飲食店「DX」favyはどう復活した)。

今回、マンションに出店したOMOカフェ事業はその延長上にあるもので、これらデジタルインフラに加え、自分たちで店舗の設計からリーシングまで、東京建物と共同で請け負うというタイプのものになっています。

つまり大切なポイントは、favyは店舗運営はしても一般的な飲食チェーンとは事業構造が異なる、という点です。

強風の中開催された記者発表会とテープカット(写真左から東京建物の浅沼正樹さん、favy代表取締役の高梨巧さん)

こういう背景もあってか今回、記者発表会の現場でもメディア記者たちが店舗経営の「持続可能性」について質問を投げかけていました。

要は「本当にできるんですか?」という疑問です。

というのも、飲食店の成立条件で大きな負担になるのは家賃と人に関する問題です。今回出店するマンションは商業施設のような人通りはなく、単純に人通りだけを考えれば決して有利な立地とは言い難い場所にあります。専門的な取材をしてきた不動産、経済誌の記者からすると「?」が大量につく発表だったのかもしれません。

加えて私は住人でもあるのである程度の内情も知っています。このマンションは昨年に入居が始まった新築なのですが、分譲販売時に謳われていたこのテナントの誘致が全く計画通りに進んでいませんでした(元々は今年春頃のオープン予定)。住んでる手前、色々な方面で情報を集めていましたが、いわゆる大手チェーン系のカフェは軒並みNG回答だったようです。ちなみに会見でその点をお聞きしたところ、金額は非公開ながら店舗構築や家賃については東京建物を通じた調整があったと回答がありました。

とは言え、大手が豊富な経験から出店を見合わせた場所にどうしてfavyは入るという経営判断をしたのでしょうか?そこにはマンションやこういった地域が抱える別の課題と、コロナ禍によって大きく変化した消費スタイルがあるように思います。

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