値上げしたNFT会員証のワケーーNOT A HOTEL28億円調達、成長の鍵は「ChatGPT」「NFT」「金融」(2)

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価格が上がったNFT会員証のワケ

(前回からのつづき)ホテルにもなる別荘、という仕組みの裏には前述の通り、濱渦さんたちが考える「100%稼動するホテル」という考え方があります。たまにしか使わない別荘をホテルのように貸し出して稼働率を上げる。これそのものは目新しいアイデアではないのですが、そこはNOT A HOTEL、タダでは出してきません。

NFT会員証のアイデアは、ブロックチェーン・暗号資産に疎い方にはピンとこないどころか、胡散臭いアイデアに見えたかもしれません。しかし、この本質のひとつは管理コストです。彼らは47年間に渡る会員管理の仕組みをこのわずかな期間に構築したのですが、それは利用履歴を刻み込むブロックチェーン技術があったからです。

そしてこの狙いはいい方向に成果を出したようです。元々、1泊3万円の想定価格でNFT会員証を売り出したのですが(※販売開始当初は125万円)、現在、この価格を185万円に改定しています。これは現在、OpenSeaなどで取引されているキーの最低価格(※NFTのフロア価格)が6万円台に推移しているからだそうです。濱渦さん曰く、ホテル宿泊料自体は10万円台で出しても問題ないレベルなので、計算上は会員証の価格を470万円近くまで上げても大丈夫ではないかと言っていました。

また、今回の増資でも資金使徒に開発力強化が挙げられていましたが、ここには自社でのウォレットやマーケットプレイスの検討も含まれているようです。OpenSeaが取引の大半だそうなのですが、どうしても一般マス層にMetamask等のウォレット利用はハードルが高くなります。

また、この辺りのエコシステムが充実することで考えられるのが住環境の流動化と新たなビジネスのチャンスです。NOT A HOTELが単なる変わり種の別荘販売であれば天井は決まりますが、この住環境の流動化・マーケットプレイスが実現すれば巨大な市場が新たに創造されることになります。それを支える鍵こそがNFTなのです。

GPT-3によるオンラインコンシェルジュの現実味

好調ぶりが目立つNOT A HOTELですが死角がないわけでは当然ありません。特に拡大の道のりはまだまだ試行錯誤が必要なようです。自前で土地購入から事前販売、建設を担当した那須や青島の方法は、クオリティの面で最高級の結果を生み出しましたが、どうしてもスケール感には限界があります。ここまで3年かかったあの2軒を来期中に10軒やります、と言われてもなかなか眉唾です。

そこで編み出したのが福岡と沖縄で実施したパートナー制度です。福岡のスキームはホテル物件の土地取得や物件に関する企画・建設を現地パートナーが手掛け、ホテルと住宅を切り替えることのできるソフトウェア・運営ノウハウおよび、稼働後の運用をNOT A HOTELが手がけることになるパターンです。稼働後はNOT A HOTELが運営する他のリゾートと同様にこの福岡の物件もオーナーは共同で利用ができるようになります。こちらは現在、第二期の販売が開始しているところです。

もうひとつが既存の物件をNOT A HOTELにするパターンです。沖縄の高級ホテルブランド「UMITO」シリーズを12カ月単位のシェア購入可能にし、ホテル貸し出しによる収益化や他のNOT A HOTELとの相互利用もできるようにしました。

ただ、濱渦さんにお話を伺うと、どうしても既存のホテルブランドがある場合、それとNOT A HOTELのブランドとの兼ね合いが難しい場面もあるらしくこの辺りは改善したいとされていました。

オペレーションについても同様です。別荘・ホテルという性質上、オペレーション人材は当然、その土地の方々にお願いする必要があります。しかし、ここに適切な人材が確保されているとは限りません。そこで濱渦さんたちはここに可能な範囲でテクノロジーを活用することにしています。

例えば物件の管理は建物固有のスイッチ類を極力減らし、タブレット端末の共通したインターフェースにしています。これにより、どの物件に入っても「あれ、照明スイッチどこだっけ」という迷いをなくす工夫をしています。当然、あれこれどこですか的な問い合わせも減ることになります。

そして極め付けがチャットによるオンライン・コンシェルジュです。特にここ1カ月ほどで一気に話題になったChatGPTの登場は大きな影響を与えています。上記に貼り付けた動画は実際にGPT-3を叩いて彼らのオンラインコンシェルジュに問い合わせた現在開発中の内容だそうです。

GPT-3の特徴は非常に人間らしい自然言語による質問・回答が実現できる点です。運用には間違った情報への対応や元となるソース、例えば宮崎の観光情報などが必要になると思いますが、簡単な質問であれば実用レベルに限りなく近いと思っていいのではないでしょうか。

現在、NOT A HOTELには毎月1,000件レベルで問い合わせがあり、濱渦さんたちの計画では4期目となる来期に100億円の販売目標を掲げるそうです。今回出資しているオープンハウスとは連携して土地仕入れと上物の物件・サービス構築を分担する方向で進めているらしく、これだけの短期間でもさまざまな打ち手を講じてきた彼らだけに、実際にどのような山の登り方をするのか大変楽しみです。

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