ティム・クック氏が「Apple Vision Pro」を紹介した際、メタバースという言葉を使わなかったのはなぜか?

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Image Credit: Apple/GamesBeat

Apple CEO の Tim Cook 氏は5日、MR(複合現実)ヘッドセット「Apple Vision Pro」を紹介した際、「メタバース」という言葉には触れなかった。

今回 Apple が M ヘッドセットを発表することは容易に予想できたが、それが実現したのが、AR/VRヘッドセット「Apple Vision Pro」の発表である。

そして Cook 氏は、このヘッドセットが「空間コンピューティングの新時代(new era of spatial computing)」を到来させると語ったが、メタバースについては言及しなかった。

Cook 氏は以前、講演の中で「メタバースは人々が理解していないから未来ではない」とメタバースという言葉を揶揄したことがある。2021年秋に Facebook を Meta と改名し、Mark Zuckerberg 氏がこの言葉を全面的に採用したことを彼が攻撃しているのではないかと私は感じた。

そして、Zuckerberg 氏が Stephenson 氏の本の数十年後に、先にそこに到達したので Cook 氏は、他人のアイデアを追いかけているように思われたくなかったのだ。そして、Zuckerberg 氏のメタバース採用は、ここ数ヶ月で1万人以上の解雇を余儀なくされた Meta のように、今のところ成功しているとは言えないだろう。インターネット上の荒らしは、Zuckerberg 氏のアバターと彼のメタバースビジョンを揶揄するのが大好きだ。

Zuckerberg 氏の発表以来、多くのヘイターがメタバースは誇張されすぎていると主張し、あまりに物足りない、詐欺まがいの発表に失望している。メタバースという言葉の検索は、この1年で激減している。現実問題として、それなら Cook 氏は、一般的な言説の中で下火になりつつある言葉は別として、新しい説明や言葉を作った方がいいのではないだろうか。

それに関しては同感である。誰も、自分の真新しい作品を、すでに人々がハイプウェーブの一部と判断したものと比較されたくないものだ。

メタバースの候補者たち。Cook 氏は勝てるか。

Neal Stephenson 氏は30年前、SF 小説「Snow Crash」の中で「メタバース」という言葉を作り出した。そして、Stephenson 氏自身も、この言葉の使用を守るために、より積極的になっている。彼は、インターネットの周りにさらに壁で囲まれた庭を作ることを意図する企業によって、この言葉が共用してしまうことを望んでいないようだ。その代わりに彼は、メタバースの所有権を分散化するために使用できるブロックチェーン技術を用いたオープンなメタバースの提唱者になっている。

Epyllion の CEO Mathew Ball 氏は、発表前のツイートで次のように述べている。

(Cook 氏がメタバースという言葉を使う可能性は)0に近いです。Jobs 氏が iPhone の発表でスマートフォンと言ったとも思えません。メリットがないのです。

Ball 氏はメタバースを次のように定義している。

3D 仮想世界の持続的かつ相互接続されたネットワークで、最終的にはほとんどのオンライン体験への入り口となり、また物理世界の多くを支える。

Cook 氏はもちろん、今日の Apple Vision Pro の説明中も「オープン」や「開放性」という言葉には触れていない。こうして、いつか空の星のようにたくさんある仮想世界の宇宙であってほしいと願うメタバースという言葉が、2兆8,900億米ドルの会社で使われない理由がわかるような気がする。

Cook 氏はダミーではない。メタバースは他の人が広めたものだが、Cook 氏は Apple がこの技術をすべて先に発明したと思わせたいのだとしたら、私もその言葉は使わないだろうと思う。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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