外科医が手術中に使えるMRグラス開発、Surglasses(台湾骨王)が650万米ドルをプレシリーズA調達

Surglasses は、手術室でアイアンマンのメガネを使うように、外科医が切開の位置と深さを MR で直接確認できるスマートグラスを開発した。
Image credit:  Surglasses

現代人は手術の傷がより小さくなることを望んでおり、医師にとっての課題は増している。傷を小さくするためには、外科医は切開する位置を確認するために X 線装置と投影画面を必要とするが、これは外科医が手と目を別々に使って作業しなければならないことを意味し調整力を試される。

こうした問題を解決するため、Surglasses(台湾骨王)は、手術室でアイアンマンのメガネを使うように、医師が切開の位置と深さを MR(混合現実)で直接確認できるスマートグラスを開発した。このプロダクトはすでに FDA と TFDA(台湾食品薬物管理署)の認証を取得し、先ごろ、プレシリーズ A ラウンドで650万米ドルを調達した。

電気工学の教授が退職——家を売り、バイオテクノロジーと医療材料ビジネスに転向

Surglasses(台湾骨王) CEO Minliang Wang(王民良)氏
Image credit: Hou Junwei(侯俊偉)

Surglasses の CEO Minliang Wang(王民良)氏は、もともと大学の電気工学科の教授で、コンピュータビジョンを専門としていたが、学術プロジェクトと医療機関との協業がきっかけで、手術室に入るようになった。巨大な機器の術前組み立てに外科医と1日1時間以上付き合うのは、非常に骨の折れる作業だったという。

当時、Google のスマートグラスが登場したとき、Wang 氏は、医師が軽量のメガネで手術中の患者の3D 画像を見ることができれば、手術の大きな改革になると想像し始めた。友人の医師と雑談していたとき、このアイデアを話したところ、「もし、それが作れるなら買うよ」と言われ、その言葉が起業のきっかけになったという。

Wang 氏はまた、各国の医師のニーズを知るために世界各地の展示会にも足を運んだ。

この製品アイデアが市場のニーズ、それも世界的なニーズに合致していることが確認できた。

Wang 氏はそう笑顔で語った。

しかし、ハードウェアとソフトウェアが融合された新しい医療機器を開発するのは容易なことではなかった。 Surglasses の初期立ち上げ費用は非常に高額で、ハードウェアの構築とソフトウェアの開発を行わなければならなかった。

私は以前の計画立案の経験から、資金がもつのは5年間だと判断し、その間に製品を作らなければならなかった。(Wang 氏)

教育機器から始め、手術室で使える MR グラスへ

台湾の主な医学部のリソースが限られていることに着目し、Surglasses は教育用デジタル解剖台「Asclepius」を開発した。
Image credit: Surglasses

Wang 氏はまず、「バーチャル手術教育」から市場参入することを決め、教育用デジタル解剖台「Asclepius」を開発した。この機器は、収益からキャッシュフローを生み出すだけでなく、医師が手術手順や習慣を理解するのにも役立つ。

教育機器の認証プロセスは医療機器よりも簡単で、この製品は発売後すぐに Surglasses に安定した利益をもたらした。しかし Wang 氏は、手術用の MR スマートグラスを作ることでしか、手術室の現状を変えることはできないと常に考えている。

Wang 氏によると、教育面では、手術計画やデジタル解剖学は医療機器の手術ナビゲーションと密接に関連しているため、これら2つの製品ラインの開発は、互いに補完関係にあると述べた。2018年に開発した第一世代製品「Foresee-X」にはナビゲーション機能は備わっていなかったが、最近開発された新製品「Caduceus S」がこの問題を解決した。

外科医は手術に先立ち、患者の CT や MRI を撮影して患部の位置を特定するが、手術中の患者の姿勢は撮影時と異なるため、例えば横向きから仰向けになるなど、この情報をそのまま投影モデルの作成に利用することはできない。 Surglasses のソフトウェアアルゴリズムはこの問題を解決することができる。第一のキーテクノロジーは、アルゴリズムを使った「バーチャル解剖」だ。患者の各骨関節を分解し、撮影時とは異なる患者の姿勢状態に合致させ、その誤差は2mm以下だ。

第二のキーテクノロジーは「リアルタイムトラッキング」だ。患者の体は手術中に動くことがあり、ソフトウェアはリアルタイムで新しいポジションを計算する必要がある。このアルゴリズムは、針の長さなど主要メーカーの医療機器データも連携し、手術中のメスや針の位置を追跡する。

Surglasses の手術用スマートグラスは、距離がわかる MR と連携しているので、単に浮遊画像として表示される通常の AR グラスと異なり、焦点のズレが生じることがなく、AR 酔いも発生しない。

MR を活用することで手術時間を30%短縮し、整形外科医の放射線被曝時間を平均70%削減できる。

通常の AR グラスはただ浮いて見えるだけだが、Caduceus-4 は MR 技術で距離感がわかる手術用グラスだ。
Image credit: Surglasses

アメリカと台湾の FDA 認証を取得、医学部から着手し医療現場に参入

Wang 氏の Surglasses 5ヵ年計画が実現し、デジタル解剖教育機器「Asclepius」は台湾に加え、ヨーロッパやアメリカなどでも販売を開始した。Caduceus S はアメリカと台湾で FDA 認証を取得し、さらに台湾の医療機器市場に迅速に普及させるため Johnson & Johnson と提携した。

今回のプレシリーズ A ラウンドは、Taiwania Capital(台杉投資)がリードし、集誠資本、500 Global、Sustainable Impact Accelerator Venture Capital(仮訳、永続影響力加速器創投)など、多くの有名ベンチャーキャピタルが参加した。調達した資金を使って、Surglasses は Caduceus S の研究開発を加速させるほか、製品の販売チャネル開拓に向け、海外展示会に積極的に参加していくとしている。

起業に関する簡単な Q&A

Q: 起業してからのベスト3を教えてほしい。

創業当初から市場調査に力を入れ、コンセプトをまず理解し、市場からのフィードバックを得ることで、製品のポジショニング精度を高めてきました。会社の使命と目標に情熱を持ち、一丸となって成功を追求する、モチベーションの高いチームの構築に成功したこと。市場の需要の変化に素早く対応し、製品と戦略を柔軟に保つための調整を素早く行えること。

Q:次の目標を達成するために、チームに足りないリソースは何か?

次の目標を達成するために、私たちのチームに欠けているのは、特に技術研究開発、市場開発、アフターサービスの面で、より優秀な人材です。

Q:起業して学んだことは何か? これまで起業して何を学んだか?

起業することで、チームを編成し、共通の目標に向かって協力することの重要性を学びました。私たちはさまざまな分野で働き、市場や顧客からのフィードバックから貴重な情報を得、需要の変化に対応するために製品や戦略を素早く修正する必要があります。このプロセスには、論理的思考力、協調性、コミュニケーション能力が必要です。

【via Meet Global by Business Next(数位時代) 】 @meet_startup

【原文】

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