ドコモ流オープンイノベーション——栗山副社長が語った、データ×リアル・越境ビジネス・web3戦略 #BDashCamp

SHARE:
NTT ドコモ代表取締役副社長で CFO・CIO・CISO・CPO・CCO を兼任する栗山浩樹氏
Image credit: Masaru Ikeda

本稿は、11月8〜10日に開催されている B Dash Camp 2023 Fall in Fukuoka の取材の一部。

NTT ドコモは今週、2023年4~9月期の決算会見の中で、今後3年間で成長分野に1兆円を投資することを明らかにした。通信に限らず、インフラ系の事業会社は総じて人口オーナスの影響を大きく受けることになる。これらの企業にとって、インフラ以外の事業を開拓することは急務だ。NTT ドコモは最近、調査会社大手インテージホールディングスとマネックス証券の子会社化を明らかにした。

新分野を切り拓くメインプレーヤーはスタートアップであるから、NTT ドコモが買収するスタートアップは、今後さらに増えることになるだろう。福岡で開催されている B Dash Camp 2023 Fall in Fukuoka 2日目のセッションで、NTT ドコモ代表取締役副社長で CFO・CIO・CISO・CPO・CCO を兼任する栗山浩樹氏は、同社が進めるオープンイノベーションの戦略について語った。

モデレータは、B Dash Ventures 代表取締役の渡辺洋行氏が務めた。

データプラットフォームとリアルビジネス、両方持つことの強み

NTT ドコモは2015年、ドコモ・バイクシェアを設立し、自転車のシェアリングサービスを始めた。それまで自転車のシェアリングと言えば、国内外共にスタートアップの独壇場だったが、先進国でシェア1位の通信キャリアが参入したことに驚きを持って受け止められた。ドコモ・バイクシェアは長きにわたって赤字だったが、直近で3期連続の黒字を達成し、債務超過も解消できる兆しが見えた。

自転車シェアリングをはじめモビリティは、NTT ドコモにとってスマートシティの入口という位置付けだ。NTT ドコモは、デジタルマップ世界最大手の Here Technologies(オランダ)に出資したほか、親会社の NTT が自動運転技術の May Mobility(アメリカ)に出資し、日本国内での独占販売権を獲得したことを明らかにしている。

人とかモノが動いたとき、それを地図上にプロットして、そのオペレーションをどう効率化するか、カスタマーサクセスを高めるか、ということが重要です。我々が持っているモビリティのデータも活用できます。スマートシティがいいのは、産業、行政、教育環境などが全て一緒になっている。プレーヤーは、データプラットフォームとリアルビジネスの両方を持っていることが重要なんです。(栗山氏)

B Dash Ventures の渡辺洋行氏と、NTT ドコモの栗山浩樹氏
Image credit: Masaru Ikeda

国境を越える通信キャリアを目指して

我々は海外に行った時でも国内と同様にスマートフォンを使えるが、それは国際ローミングで契約関係にある現地の通信会社が提供しているサービスによるものだ。通信事業は、基本的には国境を越えないというのが通説だったが、栗山氏はこれを覆す例の一つとして、アフリカで普及する M-PESA を挙げた。M-PESA はケニアの通信キャリア Safaricom が開発したフィンテックアプリだ

Safaricom は、先進国ほど ATM が普及していない社会で、給料の受取、代金の支払、送金のアプリとして開発された。現在では Safaricom がケータイエリアをカバーするケニアだけでなく、アフリカ各国で利用できる。API 経由でサードパーティーがデータを取得できるので、データを元に与信しローンを提供するスタートアップが現れるなど、一大エコシステムが形成された。

GoTo や Grab など、東南アジアでモビリティのギャップから事業を始めたテック大手は、今ではアプリをスーパーアプリ化し、一連のサービスの中で金融機能も提供するようになった。今のところ、日本国内では日本のテック大手が提供するスーパーアプリ、または、それに準じたアプリを使うことが多いが、この分野での下剋上が起こる可能性は誰も否定できない。

ユーザとして日本国民だけを見ているわけではありません。グローバルで一生懸命提携を進めているのは、そんな理由からです。このままだと、5〜10年後には東南アジアのテック大手がやってきて、日本は彼らの市場になっていく。それはそれでもいいんですが、我々もその時に、価値あるものを日本だけでなく世界に提供してくことが必要だと思っています。(栗山氏)

B Dash Ventures 代表取締役の渡辺洋行氏
Image credit: Masaru Ikeda

NTT ドコモの Web3 ビジネスのゆくえ

NTT ドコモは7月、web3 の社会実装を NTT Digital を設立した。俊敏性が売りのスタートアップに比べれば、いずれの大企業も web3 のビジネスには石橋を叩いて渡っている感はあるが、NTT ドコモと競合関係にある KDDI は、すでに Web3 サービス「αU(アルファユー)」を発表し、今年の初めから NFT マーケットプレイスや暗号資産ウォレットをローンチした。

栗山氏は、NTT ドコモとしても今後、自らウォレットや取引所(DEX)を手がける可能性について言及した。

ウォレットはうちで作ります。それを前提にして、トークンにも進めます。そして、エクスチェンジも作ります。フルラインで自前で作りたいと思っています。これは金融インフラに近いものなので、価値を認識して、貯めて、代替して、お預かりして、配分していくシステムなので、自分で進化して、自分でコントロールして、自分でセキュリティを管理できるもないとダメだと思うんです。(栗山氏)

NTT ドコモはすでに NTT Digital の提携先として、大企業から Web3 スタートアップまで13社のパートナーを発表している。NTT ドコモが手がけるウォレットや DEX やトークンは、栗山氏の話にもあったセキュリティというのが、その性格を特徴づける一つのキーワードになるようだ。こうした側面については、今後もスタートアップとの協業を積極化する可能性を栗山氏は示唆した。

Members

BRIDGEの会員制度「Members」に登録いただくと無料で会員限定の記事が毎月10本までお読みいただけます。また、有料の「Members Plus」の方は記事が全て読めるほか、BRIDGE HOT 100などのコンテンツや会員限定のオンラインイベントにご参加いただけます。
無料で登録する