SXSW(サウスバイサウスウエスト)をヒントに、2011年に福岡で始まった「明星和楽」は、今年で13年目、そして、今回で18回目を迎える。縁あって初回から見守ってきた立場からすれば、スタートアップという言葉さえ知らなかった人々が、このイベントへの参加を機に起業するなど、福岡をスタートアップ都市に変貌させる上で一翼を担うようになったようだ。
明星和楽は福岡で開催されるのが基本だが、ごくまれに出張遠征し他の街で開催している。これまで唯一開催されたのが、2014年の台北の西門紅楼での開催。日本の原宿と言われる西門町、それに今をときめく橋本環奈氏が在籍していた福岡を代表するアイドルグループ「Rev. from DVL」をゲストに招いたこともあり、エンタメ要素をふんだんに取り込まれた一大イベントだった。
今回はそれから9年ぶりの開催で、会場は Social Innovation Lab(社会創新実験中心)。かつては台湾の空軍基地だった場所が政府によってリノベーション・一般開放され、現在は、スタートアップハブとして活用されている。台湾政府主導のスタートアップ支援の一つである Taiwan Startup Hub(新創基地)もここに拠点を置いている。
明星和楽では毎回テーマを設定しているが、今回は「境界線を曖昧にする」。ここでいう境界線(border)にはいくつかの文脈が含まれているが、国境を意識しないノマドな生き方、業種業態を超えたコラボレーション、そして、人種や性別を超えた働き方や暮らし方など、多岐にわたる話題が4つのセッションで取り上げられ、福岡や台湾を代表する起業家らが多数登壇した。
日台のスタートアップ連携についてのセッションでは、クラウドファンディング × e ラーニング「Hahow(好学校)」の Arnold Chiang(江前緯)氏、web アプリ制作の Fontech の Robert Huang(黃敬傑)氏、 テックニュースポータル「INSIDE」とレシピサイト「iCook(愛料理)」の共同創業者 Fox Hsiao(蕭上農)氏らが参加した。コザスタートアップ商店街を運営する Link and Visible の豊里健一郎氏がモデレートした。
Hahow は2015年、Fontech は2012年と、ここ10年くらいの歴史を持つスタートアップだが、iCook の Hsiao 氏は登壇者の中でも起業家としてのキャリアが長い部類だ(筆者が最初に会ったのは、おそらく、2010年1月に Asiajin で台北ミートアップ)。日本のメディアジーンとの合併が発表された TNL Media Group(関鍵評論網媒体集団)が2018年に INSIDE を、また、2022年に iCook を買収している。
台湾には多くの日本企業が進出していたり、日本や台湾を横断してスタートアップ投資を行っている Headline がいたり、また、台湾は市場が小さいため、日本への市場進出を図ろうとするスタートアップが少なくない。台湾スタートアップが日本市場進出を、豊里氏が拠点を置く沖縄から始めるか、明星和楽のお膝元である福岡から始めるか、いきなり東京から始めるかなどの議論がなされた。
コンテンツをテーマにセッションでは、NetFlix シリーズ「サンクチュアリ -聖域-」で一躍有名になった映画監督の江口カン氏、台湾・中華圏でインフルエンサーマーケティングを展開する CAPSULE の埴渕修世氏(中文でのニックネームは小哈)らが登壇し、アジアにおけるコンテンツ作りの可能性について議論した。
江口カン氏は福岡出身だが、主催者によると明星和楽の記念すべき第一回にも登壇していたそうだ。江口氏は、映画も、音楽も、小説も、「コンテンツという一つの言葉で括って語られるのがあまり好きではない」と話し、より多様性をもってエンターテインメントが広がっていく動きに期待を込めた。台湾で創業した CAPSULE は活動拠点を台湾に残しつつ、今年3月に本店を福岡に移転している。
Members
BRIDGEの会員制度「Members」に登録いただくと無料で会員限定の記事が毎月10本までお読みいただけます。また、有料の「Members Plus」の方は記事が全て読めるほか、BRIDGE HOT 100などのコンテンツや会員限定のオンラインイベントにご参加いただけます。無料で登録する