2024年上半期テック投資動向:好調なAIとサイバーセキュリティ、1.7億ドル集めたフィンテックのTallyは事業を停止

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2024年前半のテック・スタートアップへの投資状況レポートが Crunchbase に掲載されていたので概要をまとめてみる。国内でも2021年を境にテックバブルが弾け、公開市場との株価調整から主にレイターステージでの資金調達に変化が起こっている。一方のシード・アーリーは数年後の状況を見据えた種まきであることから、復調自体は早いとされている。特に北米ではサイバーセキュリティと AI 分野への大型投資が目立つ一方で、一部の著名なフィンテック企業の閉鎖も報告された。シリーズ A と B の資金調達が増加傾向にある中、投資家たちはより慎重な姿勢で市場に臨んでいるようだ。

サイバーセキュリティ企業への大型投資

Deep-Live-Cam で有名人に七変化するデモ動画。流石に荒い感じもするが精度は高い

2024年8月、サイバーセキュリティ業界に大きな動きがあった。セキュアコンテンツ企業の Kiteworks が Insight Partners と Sixth Street から4億5,600万ドルの資金調達を実施した。この資金調達により、同社の評価額は10億ドルを超えたとされる。Kiteworks は顧客が信頼できる相手と機密データを共有するためのプラットフォームを提供している。この資金調達に先立ち、Abnormal Security も2億5,000万ドルのシリーズ D 資金調達を完了し、評価額51億ドルに達した。これらの大型資金調達は、サイバーセキュリティ分野への投資が再び活発化していることを示している。

Crunchbasaeによると、2024年第2四半期のサイバーセキュリティ分野への投資総額は44億ドルに達し、前四半期比63%増、前年同期比144%増となった。この数字は2022年第1四半期以来の最高水準である。サイバーセキュリティ分野への投資の復活は、この領域への危機感が待ったなしとなっていることのあらわれでもある。国内ではニコニコ動画を舞台とした「KADOKAWAショック」が記憶に新しいが、例えば昨日お伝えした Deep-Live-Cam のようなツールが一般に普及するような状況も追い討ちをかけている。

企業や個人のデータを守るための技術開発に、投資家たちが期待を寄せていることに疑いの余地はないだろう。

シリーズ A と B の資金調達状況

引き続きCrunchbaseの調査によると、2024年前半、米国のシリーズ A と B 資金調達に興味深い傾向が見られたようだ。総額は315億ドルに達し、前年同期比34%増となった。しかし、この増加は主に大型案件と特定セクターに集中している。特に、xAI の60億ドルのシリーズ B 資金調達が大きく寄与している。この資金調達を除外しても、2024年前半の総額は2023年の半期を上回っている。注目すべき点は、大型ラウンドの増加である。5,000万ドル以上の大型シリーズ A ラウンドは2021年のピーク時以降減少傾向にあったが、2024年に入って再び増加している。

これらの大型シリーズ A の約3分の2はヘルスケア・バイオテクノロジー分野で、次いで AI 分野が続いている。シリーズ B も同様の傾向を示しており、ヘルスケア・バイオテクノロジーと AI が主導している。一方で、金融サービス、e コマース、交通分野など他のセクターへの投資は大幅に減少している。

主要投資家の動向

2024年7月の米国ベースの企業への投資状況を見ると、全体的に静かな月となった。唯一二桁の投資案件数を記録したのは Andreessen Horowitz で、11件の投資を行った。同社は過去3か月間で30件の投資を発表しており、7月には3件の大型ラウンドをリードまたは共同リードしている。最大のものは宇宙スタートアップ Astranis への2億ドルのラウンドだった。General Catalyst は9件の投資を行い、前年同月の3倍の件数となった。同社は4件のメガディール(1億ドル以上)をリードまたは共同リードしている。

Sequoia Capital も9件の投資を行い、年間を通じて一貫して月平均7件程度の投資を維持している。Lightspeed Venture Partners は8件の投資を行い、そのうち5件をリードまたは共同リードした。特に注目すべきは、Lightspeed が4件のラウンドをリードまたは共同リードし、合計で約6億6,200万ドルの資金調達をリードしたことである。これらの数字から、主要投資家たちが慎重ながらも積極的に投資を続けていることがわかる。特に AI やヘルスケア分野の有望なスタートアップに対しては、大型の資金提供を行う姿勢を見せている。

Andreessen Horowitz の明暗

Anysphere が開発中の GitHub Copilot の競合「Cursor」に資金が集まる

a16z の投資状況で明暗が分かれた特徴的な案件があったので共有したい。

まずはトレンドにのっている AI 関連からだ。AI コーディングアシスタントを開発する Anysphere は、GitHub Copilot の競合となる「Cursor」を開発し、Andreessen Horowitz と Thrive Capital をリード投資家として6,000万ドル以上のシリーズ A 資金調達を完了した。この資金調達により同社の評価額は4億ドルに達したとされる。TechCrunchの記事によれば Microsoft の GitHub Copilot は既に年間3億ドル以上の収益を生み出しているとされ、約300万人の開発者が利用していると推定される。この成功を受けて、Cognition、Poolside、Magic、Augment など多くのスタートアップが参入し、競争が激化している。投資家たちは、開発者の生産性を向上させる AI ツールに大きな可能性を見出しており、この分野への投資はしばらく今後も続くと予想される。

一方、苦戦したのがフィンテックだ。

クレジットカード債務の管理と返済を支援する Tally が、資金不足により事業を停止することを発表した。Tally は2015年の設立以来、合計1億7,200万ドルの資金を調達し、最後の評価額は8億5,500万ドルだったようだ。同社は当初、消費者向けアプリを通じてクレジットカード管理と低金利ローンの提供を行っていたが、2024年4月に B2B 事業モデルへの移行を発表していた。しかし、新たな資金調達に失敗し、事業継続が困難になったようだ。Tally の閉鎖は、この10年で飽和したフィンテック領域の厳しい競争環境と資金調達の難しさを示していると言える。今後、フィンテック企業は顧客ニーズへの適切な対応と財務の健全性維持のバランスを取ることが求められるだろう。

via Crunchbaase、TechCrunch

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