もはや家族、人間並みの健康管理を愛犬にも——鹿児島発Buddycareが目指すペットヘルスケア革命

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Image credit: Buddycare

7月末に鹿児島を訪れる機会を得たので、今週は数回にわたり、鹿児島のスタートアップを取り上げます。

ペットの健康管理をデータとテクノロジーで革新しようとするスタートアップが注目を集めている。共同創業者で CEO の原田和寿氏は、総合商社で15年間の勤務を通じ、さまざまな業界での事業開発・事業投資に従事。丸紅のアメリカ子会社での CFO を経て、2021年に Buddycare を設立した。原田氏へのインタビューを通じて、同社の事業と今後の展望を探った。

犬のヘルスケアを改善する使命

Buddycareは、「1日でも長く健康に暮らせる社会を実現する」というミッションを掲げ、犬のヘルスケア改善に取り組んでいる。原田氏は、自身の経験からこの事業を始めた理由を次のように語る。

一緒に犬と生活していて、最初はペットという感覚もあったんですが、長く一緒にいると、完全に家族の一員になっていて、家族なわけですから、当然ながら、1日でも長く元気でいてもらいたい。そこに対して、自分がアクションすることで1日1日を豊かにできればというところからスタートした会社です。

原田和寿氏

現在の日本社会において、ペットの存在感は増している。原田氏によれば、日本では、犬猫の数の方が15歳未満の子供の人口よりも遥かに多くなっていて、この統計はペットが家族と同じように大切にされている社会を如実に映し出しているという。

この現状は、ペット関連産業の成長潜在力を示すとともに、ペットの健康管理の重要性を浮き彫りにしている。

しかし、ペットの健康管理には課題が多い。特に、生活習慣病の予防や早期発見が難しいのが現状だ。原田氏は、その理由をこう説明する。

犬の場合、適切な健康管理というのが本当にわかっていないんです。それで、皆さん試行錯誤されて、残念ながら、犬が亡くなった後に、多くの方が後悔されています。その理由は、病気になる前段階、生活習慣の領域のデータがどこにも溜まってないからです。

こうした〝未病〟の段階での対策アプローチは、人間の医療分野でも同様に存在する。しかし、人間の場合は長年の研究と膨大なデータの蓄積があるため、予防医学や生活習慣病対策が進んでいる。一方、ペットの分野ではそのようなデータの蓄積が不足しており、科学的根拠に基づいた健康管理が難しい状況にある。

フレッシュフードとデータ活用

「Buddy FOOD」
Image credit: Buddycare

Buddycare が目指すのは、ペットの日常的な健康データを収集・分析し、それに基づいた適切な健康管理方法を提供することだ。同社はこれを「ヘルスケアプラットフォーム」と呼んでいる。このアプローチは、人間の健康管理分野で近年注目されているデータドリブンのヘルスケアの考え方をペットの世界に応用したものと言える。データ収集のアプローチは主に3つある。

まず、同社が提供するサービスやソリューションを通じたデータ蓄積だ。現在、フレッシュフード「Buddy FOOD」やおやつ「Buddy TREATs」を展開しており、これらのサービス利用を通じて自然とデータが蓄積される仕組みを構築している。このアプローチは、ユーザに負担をかけずにデータを収集できる点で優れている。

さらに、全国1,300の動物病院と提携しており、将来的には病気になる前と後のデータを繋ぐことを目指している。動物病院との連携は、専門的な医療データの収集と、獣医師の専門知識の活用という点で重要だ。最後に自治体との連携。自治体が実施しているワクチン接種の機会に、Buddycare のサービスを紹介してもらうことで、より多くの飼い主にヘルスケア情報が届くようになる。

同社はモバイルアプリ「Buddy LOG」を開発し、ペットの体重や活動量、食事などのデータを時系列で記録できるようにしている。また、血液検査結果などの医療情報もデジタル化し、経時的な変化を追跡できるシステムを構築中だ。これらのツールは、ペットオーナーが日常的に健康管理に関与できるようにするとともに、長期的なデータ蓄積を可能にする。

「Buddy LOG」
Image credit: Buddycare

Buddycare の主力製品の一つが、フレッシュフードの Buddy FOOD だ。同社のフレッシュフードは、人間の食品と同等の安全基準で製造されている。これは、ペットを家族の一員と考える現代の飼い主のニーズに応えるものだ。原田氏は、従来のペットフードとの違いを次のように説明する。

ペットフードは、従来から雑貨としての扱いなんです。衛生基準や安全基準も、食品衛生法に比べてかなり低い。ペットが家族になってきている中で、それはすごく大きな矛盾だと思っていまして、家族だったら自分が食べて安心できるものを食べさせてあげたい、と思うわけです。

栄養面はもちろん、ペットの年齢に応じて商品をデザインしたり、病気の犬でも食べられるメニューを用意したりするなど、きめ細かな対応を行うことで他社との差別化を図っている。このような製品開発は、単に高品質なペットフードを提供するだけでなく、ペットの個別性に応じた栄養管理を可能にする、人間の栄養学や個別化医療(パーソナライズド・メディシン)の流れにも似ている。

Buddycare が目指すのは、単なるフード販売ではない。収集したデータを活用し、個々の犬に最適な健康管理プログラムを提供することだ。人間向けの健康管理アプリやウェアラブルデバイスが果たしている役割を、ペットの世界で実現しようというアプローチだが、原田氏は、その構想を次のように語った。

これからの1年、特に注力していきたいなと思ってるのが、1頭の犬の変化のデータを使ったサービスの開発です。例えば1ヶ月で体重が5%増えていたら、これは良くない兆候なので、警告を出して、「こういうことやった方がいいですよ」というアドバイスを提供するサービスに繋げていきます。人間で言うライザップのような感じですね。

将来的には、同社ではこれらのデータを統計的に分析し、犬の正しい健康管理方法を定義することを目指している。そのデータは、動物病院での生活習慣改善プログラムの提供や、ペット保険の開発にも活用できる可能性がある。これは、ペットの健康管理を個別化するだけでなく、ペット医療全体の質を向上させる可能性を秘めている。

Buddycare のグロース戦略

Image credit: Buddycare

Buddycare はこれまでのところエクイティでの資金調達は実施しておらず、社債発行(地元金融機関がスタートアップの社債を引き受けてくれる仕組みがあるそうだ)や政策金融公庫の資本性ローンなどで資金を調達している。いわゆるブースストラップモードのスタートアップだ。原田氏は、その理由をこう説明する。

とりあえず、ビジネスの鉄則で、最初はデットで行けるうちはデットで行くべきだという、僕自身の方針に従っています。前職の丸紅でエクイティ投資の仕事をしていたので、投資する側から見て、エクイティ投資を受けた場合の、良い部分も面倒な部分も両方が見えていたので。

Buddycare が自社のペースで成長を目指しているのは、短期的な成長よりも長期的な価値創造を重視する姿勢の表れとも言えるだろう。現在の売上の約8割はオンラインでの直接販売によるものだが、動物病院経由の販売も徐々に増えている。また、動物薬の代理店と提携し、営業活動を強化している。この多角的な販売戦略は、さまざまな顧客層にアプローチする上で効果的だ。

Buddycare は、今後デバイス開発にも注力する予定だ。体脂肪計や非接触型のバイタルサイン測定デバイスの開発を進めている。これらのデバイスは、より詳細かつ継続的なデータ収集を可能にし、ヘルスケアプラットフォームの機能を大幅に拡張する可能性がある。同社はアジア市場への進出も検討しているが、中国や台湾などでは肉類の輸出規制があるため、東南アジアでの展開を考えているという。

Buddycare は鹿児島に本社を置きつつ、将来、東京にも拠点を設ける予定だ。ペットの健康管理にデータとテクノロジーを駆使して切り込もうとする努力が、多くのペットと飼い主の幸せにつながることを期待したい。この分野では、ペット向け健康管理サービスを展開する Buddy Cloud が今月、KUSABI からの調達を発表したPETOKOTOバイオフィリアなども広義では競合になり得るだろう。

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