創業2年でユニコーン「ElevenLabs」AI音声で広がる多言語ポッドキャストの可能性ーー今週気になったサービス14まとめ【TechDaily Weekend】

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TechDaily は筆者が毎日実施しているテックニュースの斜め読みをまとめたもの。グローバルで気になる資金調達、テックトレンド、スタートアップニュースをまとめて共有する。週末は特に気になったスタートアップをひとつ選んでお届けする。しばらくは不定期連載。

みなさんこんにちは!BRIDGEの平野です。今週から開始したテックトレンドななめ読みの TechDaily ですが、週末はその中でも特に気になった一社をピックアップして共有してみたいと思います。初回は音声合成AI の ElevenLabs から。

ポーランド出身でGoogle や Palantir での経験を持つ Mati Staniszewski 氏と Piotr Dabkowski 氏によって設立されたこの企業は、言語の壁を越えた高品質な音声生成技術の開発に取り組んでいます。

2022年創業ながら今年1月のシリーズBラウンドで評価額を10億ドル以上に伸ばした成長株です。リードしているのが Andreessen Horowitz(a16z・共同リードで Nat Friedman氏(元 GitHub CEO)やDaniel Gross氏が参加)で、このラウンドには 、Sequoia Capital などなど名だたる投資家が顔を並べていることからも注目度の高さをうかがうことができます。主力製品は、高度な音声合成、音声設計、およびクローン技術を用いたテキスト読み上げ(TTS)プラットフォームで、主な機能はこんな感じ。

  • 多言語対応:ElevenLabs の技術は 30 以上の言語をサポート
  • 高品質な音声合成:AI を駆使した音声合成技術により、人間の声に近い自然な抑揚やトーンを再現
  • ボイスクローニング:ユーザーの声を短時間のサンプルから複製し、その特徴を保持したまま新しいコンテンツを生成
  • リアルタイム音声変換:リアルタイムで音声を別の言語や声質に変換
  • カスタマイズ可能な音声デザイン:ユーザーは音声のピッチ、スピード、感情表現などを細かく調整することが可能

いやいや、テキストスピーチって枯れた技術じゃ?と思ったのは私だけじゃないかもしれません。実際、Google Text-to-Speech をはじめ、Amazon から Microsoft から独立系までテキストスピーチで検索すれば山盛りのサービスが出てきます。国内では「ずんだもん」が有名ですね。生成 AI でお化粧直ししただけと思いきや使ってみるとなるほど使いやすい。テキストスピーチというより、合成音声全般を扱ったプロシューマー向けサービスといった感じです。

実際に使ってみたんですが、まず、インターフェースが直感的で使いやすいです。Googleなどのサービスはそもそも開発者向けということもあってサービスインターフェースが十分に準備されていません。ElevenLabs はちょっとしたテキストをポッドキャストにするなどクリエイターエコノミーに属するユーザーが対象の印象があります。料金も5ドルからとお手柄。API を通じて他のアプリケーションやサービスと統合することも可能で、開発者にとって柔軟性の高いソリューションとなっています。

今週には32言語に対応するテキスト読み上げアプリ「Reader」を全世界で提供開始し、ユーザーがアップロードしたテキストコンテンツを様々な言語や声で聴くことを可能にしています。実際に私たちの英語サイトを音声にしてみたところこんな感じで出力してくれました。

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ChatGPT の音声アプリを使ったことがある方であれば、英語のテキストスピーチ精度(会話の感じ)がほぼ人間に近づいていることは理解いただけると思うんですが、それでも改めてこうやって出力してみると少なくともネイティブでない人間にとっては問題ないレベルで聞こえてきます。ただ、日本語で出力してみると結構怪しくて、このあたりは言語によって差があるかもしれません。

あと、ちょっとまだ使い道がわかってないのが音声から音声への出力で、別の人の声にしてくれる機能があります。私がポッドキャストで話した音声を別の合成音声に変換できるもので、これはこれで配信者の方は使えるのかも。

一般的な用途についてはゲームキャラクターの音声生成やローカライゼーション、教育分野では、E ラーニングコンテンツの音声ナレーション、さらに、メディア業界では、ニュース記事の音声化やポッドキャストの制作など、コンテンツの多様化に大いに役立ちそうです。私たちも簡単な国内スタートアップのニュースであれば音声にしてポッドキャスト配信してもいいかなと思いました。

こんな感じで来週もまたテックトレンドで話題になっているスタートアップのニュースをまとめて、気になる一社をご紹介いたします。では、それ以外のスタートアップ調達をまとめたので以下に共有いたします。

今週の注目テック調達:バーティカル AI 領域

CodeRabbit(調達額:1,600万ドル)

CodeRabbit は、 AI を用いたコードレビューの自動化に特化した企業。同社のシステムは、従来の静的解析ツールとは異なり、「高度な AI 推論」を用いて「コードの意図を理解」し、「実用的な」「人間のようなフィードバック」を開発者に提供する。

この技術により、ソフトウェア開発プロセスの効率が大幅に向上し、開発者の生産性が向上すると期待されている。しかし、 AI によるコードレビューの品質については議論も存在し、人間のレビューの重要性も指摘されている。 CodeRabbit の今後の課題は、 AI レビューの精度向上と、人間の専門知識との適切な融合を図ることである。

Goodfire(調達額:700万ドル)

Goodfire は、生成 AI モデルの内部動作を可視化する「メカニズム解釈可能性」技術の開発に取り組んでいる。同社の CEO である Eric Ho 氏は、この技術を「 AI モデルに対する脳外科手術」と表現している。 Goodfire の技術は、 AI モデルの意思決定プロセスを人間が理解可能なインターフェースで説明し、モデルの内部メカニズムに直接アクセスして意思決定プロセスを変更することを可能にする。

これにより、 AI の「ブラックボックス」問題に対処し、より安全で信頼性の高い AI システムの構築を目指している。この技術は、 AI の透明性と説明可能性が求められる金融、医療、法律などの分野で特に重要となる可能性がある。

Trunk Tools(調達額:2,000万ドル、シリーズ A )

Trunk Tools は、建設業界向けの AI ソリューションを提供する企業。同社は建設文書の自動整理と質問応答システムの開発に特化しており、複雑な建設プロジェクトの文書管理を AI で効率化し、作業の遅延や手戻りを減らすことを目指している。創業者の Sarah Buchner 氏は12歳で大工として働き始めた経験を持ち、業界の課題を熟知している。建設業界はデジタル化の遅れが指摘されてきた分野だが、 Trunk Tools の技術により、プロジェクト管理の効率化、コスト削減、安全性の向上などが期待されている。

Eppo(調達額:2,800万ドル、シリーズ B )

Eppo は企業が特定のユースケースに合わせて AI モデルを評価およびカスタマイズすることを可能にし、 AI モデルの ROI を計測する上での意思決定を支援するツールを提供する。AI の導入を検討している企業や、既存の AI システムの性能を向上させたい企業にとって重要なツールとなっている。特に、大規模言語モデル( LLM )の台頭により、企業固有のデータや要件に基づいて AI モデルを調整する必要性が高まっており、 Eppo の技術はこの需要に応えるものである。今後は、より多様な業界や用途に対応した AI モデル評価手法の開発が課題となるだろう。

TipRanks(買収額:2億ドル)

TipRanks は、 AI と自然言語処理を用いて金融市場データを分析し、投資家向けの洞察を提供する。同社のプラットフォームは、アナリストの予測、企業のファンダメンタルズ、インサイダー取引、ヘッジファンドの動向など、多様なデータソースを統合し、投資家に包括的な市場分析を提供する。TipRanks の月間アクティブユーザー数は5,000万人を超え、個人投資家だけでなく、 Nasdaq 、 Robinhood 、 CIBC 、 Morgan Stanley などの大手金融機関も顧客として獲得している。 Prytek による2億ドルでの買収は、 AI を活用した金融分析技術の価値と将来性を示している。今後は、より高度な予測モデルの開発や、暗号資産市場など新たな金融領域への展開が期待される。

Defcon AI(調達額:4,400万ドル)

Defcon AI は、軍事物流の最適化や作戦計画の立案を支援する AI システムを開発している。同社の技術は、複雑な軍事オペレーションの効率化と意思決定の迅速化に貢献すると期待されている。 Defcon AI の創業チームには、元米空軍高官や防衛省の要職経験者が含まれており、軍事分野の専門知識と AI 技術を融合させた独自のソリューションを提供している。しかし、 AI の軍事利用には倫理的な議論も存在し、技術の発展と並行して、透明性の確保や国際的な規制の枠組みづくりも重要な課題となっている。今後は、平和維持活動や災害救助など、より広範な安全保障分野への AI 応用も期待されている。

The Rounds(調達額:2,400万ドル、シリーズ B )

The Rounds は、再利用可能な容器を使用した定期的な日用品配送サービスを展開する。同社は「家庭用品の補充係」というコンセプトを掲げ、週単位で必要な日用品を定期的に顧客に届ける。 The Rounds の特徴は、 AI を活用して顧客の消費パターンを予測し、過剰在庫や品切れを最小限に抑える効率的な在庫管理を実現している点。また、使い終わった容器は回収され再利用されるため、 e コマースの環境負荷軽減にも貢献している。

さらに、 The Rounds は地域の生産者や小規模ビジネスとも連携し、ローカル経済の活性化にも寄与している。この持続可能な配送モデルは、大手 e コマース企業による市場独占への対抗策としても注目されている。今後の課題は、サービス地域の拡大と、より多様な商品ラインナップの提供である。

フィンテックの大物がそろそろ IPO か

Revolut(評価額:450億ドル)

Revolut は、2015年にロンドンで設立されたネオバンクで、現在は欧州で最も価値の高い非公開テクノロジー企業の一つとなっている。今週のセカンダリー取引で評価額が 450 億ドルを到達した。同社は、マルチカレンシー口座、決済・送金サービス、暗号資産商品、保険など幅広いサービスを提供しており、従来の銀行サービスに不満を持つ顧客を中心に急速に利用者を拡大している。

Revolut の成功は、デジタルバンキングの需要の高まりと、フィンテック企業の台頭を象徴している。最近、英国とメキシコで銀行ライセンスを取得し、事業拡大を加速させている。今後は IPO の可能性も取り沙汰されており、米国上場を検討しているとの報道もあるが、英国政府は国内での上場を促している。

新興国とサステナビリティ

Waza(調達額:800万ドル、シード資金)

Waza は、アフリカの企業や貿易業者向けのクロスボーダー決済と流動性管理プラットフォームを開発している Y Combinator 出身の企業。同社のプラットフォームは、6大陸にわたるビジネス支払いと流動性管理を促進し、多国籍企業、輸入業者、トレーダー、そして他のフィンテック企業や開発者向けにサービスを提供している。

Waza の創業者 Maxwell Obi 氏は、クロスボーダー決済の文脈における貿易において、迅速な支払いと製品の到着が重要であると強調している。創業からわずか5ヶ月で月間支払い額が7,000万ドルに達し、年間取引額は7億ドルに上るなど、急速な成長を遂げている。 Waza の技術は、アフリカ経済の国際化と成長に重要な役割を果たすと期待されており、今後はさらなる機能拡充や対応地域の拡大が課題となるだろう。

Jumia(調達額:9,960万ドル、セカンダリー株式売却)

Jumia は、アフリカの e コマース市場をリードする企業で、「アフリカの Amazon 」とも呼ばれている。同社は最近、9,960万ドルのセカンダリーにおける株式売却を完了し、成長加速と収益性向上を目指している。 Jumia の CEO である Francis Dufay 氏は、この資金が「バランスシートをさらに強化し、収益性への道を進みながら成長軌道を加速するのに役立つ」と述べている。

Jumia の第2四半期の顧客数は200万人で、前四半期比6.0%増、前年同期比では横ばいとなっている。しかし、 Dufay 氏は「我々の顧客基盤はまだ比較的小さく、四半期あたり約200万人のアクティブな消費者がいますが、我々は6億人以上の人々がいる市場で働いています。顧客基盤についてはもっと多くのことができる」と述べ、アフリカの e コマース市場の潜在性を強調している。

Root(調達額:800万ユーロ、シード資金)

Root は、ドイツ・ベルリンを拠点とし、農業サプライチェーンの脱炭素化を目指すプラットフォームを開発している企業。同社は食品・飲料会社が農業サプライチェーンの一次データを収集することを支援し、各製品の環境フットプリントをモデル化することで、サプライチェーン全体の「排出ホットスポット」を可視化する。

Root の共同創業者である Eric Oancea 氏は、食品業界が汎用ソフトウェアソリューションや市場ベンチマークを使用する気候コンサルタントから脱却し、サプライチェーンから実際の活動データを収集するシステムやプロセスへ移行する必要性を強調している。今後は大手食品企業との提携拡大や、より詳細な排出量予測モデルの開発が期待される。

Web3と宇宙

Gamee(調達額:不明)

Gamee は Web3 ゲーミング企業で、 TON Ventures から投資を受け、 Telegram ミニアプリの開発を進めている。同社は TON ブロックチェーンを活用し、デジタル資産やトークンを Telegram プラットフォーム上のゲームに統合することを計画している。Gamee の現在のユーザー基盤は非常に強固で、 WatBird ミニアプリに接続された TON ウォレットを使用するプレイヤーが400万人を超えているという。同社は今後、 TON ゲーミングエコシステムでの活動をさらに拡大し、追加のゲーミングおよび Web3 コミュニティ、 GameFi 投資家、 Telegram ユーザーを取り込む計画を立てている。 Gamee の取り組みは、メッセージングアプリとブロックチェーンゲームの融合という新たな潮流を示している。

Starpath Robotics(調達額:1,200万ドル)

Starpath Robotics は、月面水採掘計画を推進する宇宙開発企業である。同社は、月面の水氷から液体酸素を精製し、宇宙船の推進剤として供給することを目指している。この技術は、月面での持続可能な人類の活動を可能にする重要な要素となる可能性がある。

特に、 SpaceX や Blue Origin などの民間宇宙企業が月面着陸計画を進める中、月の資源利用は将来の宇宙探査や宇宙での経済活動の基盤となると期待されている。 Starpath Robotics の取り組みは、宇宙資源の利用という新たなフロンティアを切り開くものであり、技術的課題だけでなく、国際的な法規制や倫理的な問題にも直面することが予想される。今後は、実際の月面での実証実験や、他の宇宙開発企業との協力体制の構築が重要な課題となるだろう。

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