キャピタリストはあくまで応援団。CAVのおかん的?ベンチャーキャピタリスト 佐藤真希子さんにインタビュー

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CAVでベンチャーキャピタリストとして活躍する佐藤真希子さん

シードからシリーズA投資を主に行っているベンチャーキャピタル「サイバーエージェント・ベンチャーズ」(CAV)。同社は、つい先日、3億円のシード企業支援枠「Seed Generator Fund」を発表したばかり。そんなCAVで、ベンチャーキャピタリストとして8年のキャリアを持つのが、佐藤真希子さんです。

「さとまき」の愛称で知られる佐藤さんは、個人的にもIT業界でとってもパワフルだと思う女性の1人。ベンチャーキャピタリストとして、女性ならではの感性や視点が活きると話してくれました。3人目の妊娠で臨月のお腹をさすりながら、「ベンチャーって、癖になる」とサラッと言い退けちゃうところが何とも さとまきさんらしい。

これからも沢山のスタートアップを支援していきたいと話す彼女に、天職だと言う今の仕事のこと、イケてるスタートアップの見極め方、仕事と家庭の両立について伺いました。

サイバーに新卒1期で入社、こだわりは「ベンチャー」

三橋:だいぶお久しぶりです。今日はよろしくお願いします。改めて、佐藤さんのご経歴を聞かせていただけますか?

佐藤:2000年4月にサイバーエージェントの新卒1期生として入社しました。サイバーエージェントの創業が98年の3月で、内定をもらった99年5月には社員数は20名程。その頃既に、新卒採用で20人ほど内定を出していたことを考えると、信じられないくらいアグレッシブに採用していましたよね。ベンチャー支援している私からすると驚愕です。ちなみに、私達が会社を大きくするぞって意気込んでいたんですが、入社する1ヶ月前に上場しちゃったんですけど(笑)。

三橋:サイバーエージェントの中ではどんなお仕事をされていたんですか?

佐藤:入社してからは、5年半ほどインターネット広告代理店部門で営業やマネージメントを経験しました。会社が大きくなる事はとても楽しかったのですが、立ち上げをやりたいと思って、子会社に出向し、そこで事業立ち上げを経験後、CAVに異動したのは2006年10月でした。

三橋:いつも自ら希望されて、ベンチャーに近いところに移ってらっしゃるんですね。これまで、いくつも人生の岐路に立ったことがあると思うんですが、そういう時、どんな風にアクションを起こしてきましたか?

佐藤:そうですね。ベンチャーって癖になるんですよ。子会社に異動した後も、今までの経験を使って、もっとアグレッシブにベンチャーと関わるためにはどういう道に進むべきなのか悩んでいて、色々な方に相談しました。その時に、メンター的存在でいつも相談にのってもらっている元上司の株式会社サイバーバズ社長の高村彰典さんから、「ベンチャーキャピタリストなら、佐藤がやりたいことができるんじゃない?」とアドバイスをもらって。それで、CAVの前身であるシーエーキャピタルに異動しました。

私は学生時代にチアリーディングをしていたんですが、ベンチャーキャピタリストをしていて気付いたのは、チーム一丸となって目標を達成するのが好きなだけじゃなく、頑張っている人を応援するのが好きなんだって。なので、ベンチャーキャピタリストという職業は、自分にとって天職だと思っています。

三橋:具体的に、今のベンチャーキャピタリストとしての仕事内容を聞きたいです。

佐藤:ベンチャーキャピタリストにも色々なタイプの方がいらっしゃると思うんですけど、CAVはスタートアップのシード期への投資が多いので、事業アイディアを一緒に考えるところから、登記のアドバイスや資本政策に至るまで一緒にやることもあります。今は、スタートアップを10社ほど見ていますね。関わり方には強弱がありますし、中には役員に入っている会社もあります。

三橋:CAVのインキュベーションオフィスに初めてお邪魔した時に、当時入居されていた「Snapeee」を運営するマインドパレットのチームにご挨拶したことを覚えています。確か、佐藤さんのご担当ですよね?

佐藤:そうですね。私はマインドパレットの社外取締役で、営業担当役員でもあります。前回のファイナンス前には、ちょうど適切な人材がいなくて、営業部門を全て見ていた時期もありました。営業、広告のメニュー開発、採用、人事評価まで、寝ずにやりましたね、寝ていても夢に出てくるぐらい(笑)。私は営業部門出身なので、営業は誰にも負けないという自負があって。支援先のニーズにより、そんな風に濃く関わることもありますよ。

ユーザーであり、出資者でもある

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三橋:佐藤さんはご自身のミッションについてどう捉えていますか?

佐藤:IT業界をメインに担当している女性のベンチャーキャピタリストは、ここ、4、5年を見ても本当に増えてないんですよね。片手で数えられるくらい。でも、女性ならではの感性や視点、また、女性だから理解できるビジネスもあると思っています。だから、そこは誰にも負けない分野にしたいですし、出資せずとも、率先して支援していきたいなと思っています。もっと女性経営者やママ経営者が増えればいいなと思っています。

三橋:女性経営者の出資先にどんなところがあるのか伺ってもいいですか?

佐藤:最近出資したスタートアップだと、端羽英子さんのスポットコンサルティングサービス「Visasq(ビザスク)」があります。また、出資先ではありませんが、甲田恵子さんの子育てシェアサービス「AsMama」や、尾崎えりこさんが立ち上げた「新閃力」は立ち上げ当時からアドバイスさせていただいています。また、「iemo」の村田マリさんは、サイバーエージェントの同期でもあり、ママ友でもあり、尊敬している戦友でもあります。

IT業界にいると女性経営者というだけで目立つ部分がありますが、女性だからという特別視は特にありません。ただ、母親であり起業家であることは、夫や家族の理解だけでなく、本人の覚悟と背負っているものが全然違うなと思っていて。色んなものを守りながら同時に攻めてもいるというか。また、従業員100人の会社にしたいとか、上場会社にしたいとかというモチベーションではなくても、自分の子ども、次の世代のための未来を作って行きたいという思いが根幹にあるんです。母親でありながら起業ってすごく大変ですけど、それをやりたい、やっている人はできる限りサポートしたいと思っています。

三橋:先ほど、女性ならではの視点というお話がありましたけど、例えば、どんな時にそれを感じますか?

佐藤:例えば、CAVの田島さんによく言われるのは、サービスのUIやUXに対する感度ですね。世の中のサービスの多くは女性をターゲットにしていて、だから、ユーザー目線で見ることができるんだと思います。お惣菜の定期仕送りサービスの「おかん」もCAVの支援先なんですが、自分の子どもが食べてみた時にこんな感じだったとかフィードバックもできますし、男性では気が付きにくいちょっとした不便を見つけやすかったり、カスタマーサポートを含めた細かい改善点にも気がつける。そういうのを見つけたら、投資先であるかは関係なく、即効で連絡して伝えますね(笑)。あとは、社内の雰囲気とか人間関係によく気がついたり。まさにちょっと口うるさい「おかん的」な感じかもしれない。

三橋:佐藤さんのバイタリティとかパワーを見ていると、ご自身で何か事業をスタートしそうな感じもするんですが、どうですか?

佐藤:人生をかけてやりたい課題が見つかれば、チャレンジしてみたいなという気持ちはありますね。海外のベンチャーキャピタリストなどを見ていると、事業家だった方も多いですし。経営者として自分で実際に経験したからこそ、より有益なアドバイスができる。私もサイバーエージェントでの経験や、キャピタリストとして経営者のそばで仕事をしてきた経験が活きていますけど、自分が経営者だからこそ学べることもあると思うので、そういうキャリアがあってもいいのかなと思います。ただ、起業は生半可な気持ちではできないと思うので、その際は覚悟を決めないといけないとは思いますね。

大切なのは「見ている目線の高さ」

三橋:ベンチャーキャピタリストという職業の醍醐味はなんでしょう?

佐藤:まず、ビジネスを立ち上げている人たちの志ですよね。強烈な思いとか、前向きな意志のそばで仕事ができる。一緒にいると元気になれるし、力をもらえるし、とにかく楽しいんです。そのプロセスを何かしらの形でサポートして、チアして、彼らが輝いていく姿や事業が大きくなっていったり、様々なバックグラウンドを持った優秀な人達と出会えるし。「さとまきさんって厳しいけれど、いてくれて良かった」と言われるとやっぱり嬉しいじゃないですか。色んな方面から、世の中が良くなって行くお手伝いができるので、今の仕事はまさに天職ですね。

三橋:今の仕事に感じている難しさとか、それを克服するためにしていることはありますか?

佐藤:そうですね。キャピタリストって、あくまでも応援団なんです。会社経営やプロダクト作りってケースバイケースだから、誰も答えは持っていない。でも、経験上、こっちの方がいいんじゃない?と思う時に、上手く導いたり、経営者が気付いていない部分に気づいたり、また経営者にそこに気づかせるというスキルも時に必要だと思っています。あとは、常に客観的な立場で俯瞰して事業や経営を見ること。コミットしすぎると見えなくなりがちなので、厳しいけど客観的に判断しないといけないこともあると思っています。

三橋:そういう時、どんなやり方が有効だと思いますか?経営者が素直になれるというか、気づけるようにしてあげるには。

佐藤:私が直接言うより、経営者同士のアドバイスが一番参考になると思っています。やはり経営者にしかわからないことは沢山あるので。よく私は、経営者同士で学び合う機会をセットしたりしています。例えば、女性に特化したキャリア支援サービスの「LiB」も出資していますが、代表の松本さんが「スペースマーケット」の重松代表に経営戦略のアドバイスをしたり、逆もしかり。お互い別の経営者が客観的に見ることでもたらされる気づきは色々あると思っています。

三橋:佐藤さんが考える、イケてるスタートアップの条件みたいなものがあれば教えてください。

佐藤:8年間で何千人という経営者に会ってきて思うのは、立ち上げ当初から見ている世界、叶えたい野望や夢が大きいだけでなく、それを公言している人の方が、紆余曲折あっても最後には成功している気がします。見ている目線の高さですかね。

三橋:うまくいくチーム、強いチームに関してはどうですか。

佐藤:チームは、経営者とはまったく違う素質を持った人の集合体であるべきだと思っています。同じような人たちが固まってしまいがちですけど、そこはダイバーシティが大切で。意識して、色んな人たちを採用していかないと強くなれない。クラウドワークスを見ると特に思いますね。シリアルアントレプレナーの吉田さんが代表で、学生起業家だった若手の成田さんがいて、上場会社子会社でCFOとして活躍されていた佐々木さん、フリーランスで活躍されていたエンジニアの野村さんがいて。女性の執行役員の田中さんもいらっしゃいます。やはり、多様性を意識したチーム作りは、グローバル展開していく上でも大事ですね。

家庭と仕事の両立のコツは「こだわらないこと」

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三橋:佐藤さんの人生のターニングポイントっていつでしょう?

佐藤:学生時代かな。当時、まだ東大生だったOisixの高島宏平さんに出会っているんですよ。97年頃に彼が立ち上げた学生ベンチャーに出入りをするようになって、インターネットビジネスを考えたり、企業に提案に行ったり。学生でも世の中を変えたり、会社を作ったりできるんだって知ったんです。でも、その頃チアリーディングがすごく忙しくて、「関わりたいけど、忙しいから無理だよ」って言ったら、宏平さんに「さとまき、時間は作るものだから、やりたいと思うならやればいいじゃん」って言われて。その一言を聞いてからは、やりたい事に対して言い訳できなくなった(笑)。あと、そこで経験したベンチャーでのアグレッシブな感じが、ベンチャーで熱い人と仕事がしていたいと思うようになった始まりですね。

三橋:さて、ご家庭のことを少し聞かせてください。佐藤さんはベンチャーキャピタリストで、旦那さんの重松さんは「スペースマーケット」というスタートアップを運営されていて、とてもパワフルなカップルですよね。

佐藤:そんなことないですよ(笑)。でも、会社を立ち上げてからも、家庭における旦那の役割は変わっていないです。朝、子供たちを起こして、着替えて、朝食を食べさせて、保育園に連れていくのは旦那の仕事。私は保育園の準備や朝食をセットしたら、あとは旦那さんにお任せしちゃってます。そこは唯一、子供たちとの時間なので、子供たちも楽しみにしていますし、譲れません(笑)。私は家事全般と、お迎えと夜の子ども達の面倒を見ています。それに、私の母親や重松の両親もかなり手伝ってくれています。また、第2子が産まれた後の1年間は、家事をアウトソースしていましたし。今みたいにリーズナブルな家事代行サービスもなかったから、Craigslistにベビーシッター募集を出してフィリピン人の家政婦さんと直接面接して来てもらっていました。仲介業者はいないので、自己責任で家の鍵も預けていたし、今考えるとかなりアグレッシブだったかも(笑)。

三橋:仕事と家庭を両立するコツみたいなものはありますか?

佐藤:こだわらないことかな。基本的には、あきらめる(笑)。そうじゃないとやっていけないですよ。夜ご飯も毎度作ろうとしないで、外食する時はするし。完璧にしようとか、自分で全部しようとしないことですかね。旦那さんも、何も言わないですし。言ったらブーメラン的で跳ね返って来るから言わないだけかもしれないけど(笑)。

三橋:お子さんが生まれて、仕事観や人生観って変わりましたか?

佐藤:かなり変わりましたね。教育分野への関心が強まったし、子どもに対して、仕事をしている母親として見せたい背中、みたいな視点が生まれました。家族もベンチャー企業みたいなものだと思うんですよ、「チーム重松」。子どもの名前をつける時も、どういう子に育ってほしいかを考えてつけることで2人の思いがすり合わせられていったり。将来的にどんな家族になりたいのか、どういう夫婦でいたいか、それには短期・長期でどうしていくのか等も話し合います。重松家には重松家のビジョンがあるから、大変だとわかっていても、子供も3人欲しかったですし。今は私が支える側で、重松が起業してチャレンジする側で。今後、それが反対になることもあるかもしれません。

三橋:ずっと仕事をしていきたい、頑張りたいという女性へのメッセージやアドバイスがあればお願いします。

佐藤:業界に女性が少ないからか、普段から、20代後半の女子からキャリアについて相談もらうことが多いんです。結婚している人もいれば、していない人もいるし色々ですけど。でも、独身の間に、どれだけのことにチャレンジして成果を残してきたかはやっぱり重要だと思います。スポットコンサルティングサービスの「Visasq(ビザスク)」にも、自分のスキルをタグで登録する仕組みがありますけど、そのタグのバリエーションをどれだけ持っているかは強みの1つになるのではないでしょうか。プロノバ代表の岡島さんの講演は参考になるので、ぜひ読んでみたらいいと思います。

三橋:今日はどうもありがとうございました。

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