モバイルの都で世界の起業家達が躍った一週間〜MWC2015周辺スタートアップ関連イベントから #MWC15

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3月2日〜5日の4日間、スペイン・バルセロナでは、世界中から10万人が訪れる毎年恒例のモバイル業界のお祭り「Mobile World Congress(MWC)」が開催された。例年は2月に開催されるが、今年は ZTE(中興)や Huawei(華為)といった中国勢が展示企業の多くを占めたため、旧正月を外す形で開催日程が3月にずれ込んだようだ(ちなみに、2016年は2月に開催されることが決まっている)。

そのような事情から、イベント開催期間中、バルセロナの街は参加バッジを胸につけた中国人参加者の姿が目立った。MWC メインイベントについては有名メディアが幅広く取り上げてくれるので、THE BRIDGE の出る幕は無い。ただ、個人的には、MWC が特に魅力的なのは、MWC よりもその周辺で連日行われるミニイベントの方だ。メインイベント会場が静けさを取り戻す夕方頃になると、連日のようにバルセロナ市内各所ではパーティーやピッチイベント開催される。スタートアップのコンテキストを語るには、こちらの方が性に合っているだろう。

北京語が飛び交っていた MWC のメイン会場とは対照的に、周辺イベントの会場ではアジア系の顔はほぼ見当たらない。たまに黒髪の美人を見つけても、往々にして、シリコンバレーやロンドン出身の Chinese American か Chinese British といった感じ。スペインワインを片手に、タパス料理をほうばりながらミングルできるこのような機会は、筆者にとって実に居心地がいいものだ。

MWC 周辺のスタートアップ関連イベントをいくつか巡ってみたので、簡単にまとめてみた。来年バルセロナに出向かれる方は、参考にしていただけると幸いである。

IoT Stars

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IoT Stars は、thethings.iO の創業者で、ドイツのミュンヘンとバルセロナの IoT コミュニティを中心に活動とする起業家 Mark Pous が立ち上げたイベントで、サグラダファミリアからも程近い Torre Agbar(トーレ・アグバール)のオーディトリウムを会場に開催された。

Tech.eu の Robin Wauters、Indiegogo の Anastasia Emmanuel、Wearable World の Redg Snodgrass など、ピッチの審査員らの顔ぶれも予想以上に豪華だ。ヨーロッパ各地から集まった13チームが凌ぎを削り、Early Stage 部門ではフィンランドの LeeLuu が、Series A 部門ではドイツの Ambiotex がそれぞれ優勝した。

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LeeLuu は、調光機能のついた、ぬいぐるみのベッドライトを開発している。子供が暗闇の中で独り寂しがらないように、ぬいぐるみ同士で調光機能を遠隔操作できるようにした。例えば一台を親が、一台を子供の寝床に置くことで、別々の部屋に居ても子供は見守られている安心感を得られ、不安を感じずに眠ることができる。

Ambiotex は、Tシャツと一体化したデバイス TechUnit を開発しており、このTシャツを着用することで、ユーザは心拍数や呼吸数、呼吸の深さなどを計測し、BLE 経由でスマートフォンにデータを転送して健康管理に活用することができる。商品の紹介ビデオが面白いので、ぜひ見てほしい。

4YFN

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MWC は、バルセロナ市内の Gran Via と Montjuïc という会場2箇所で開催されているが、後者は以前 MWC が開催されていた旧会場で、昨年からは MWC の併設イベント「4YFN」のメイン会場となっている。4YFN とは「4 Years From Now」の頭文字をとったもの、すなわち、「これから将来4年後に世の中を騒がせそうなスタートアップを一緒に見つけましょう」という意味がこめられている。

会場内には、モバイル・コミュニティのカンファレンスでおなじみの MLOVE や、THE BRIDGE でも紹介したベルリンのスタートアップ「mimi」、世界最大の IoT ワイヤレスコミュニティ・ネットワークの構築に取り組んでいる Sigfox(関連記事)などがブースを出していた。

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ブース・スペースとは別に、カンファレンス・スペースでは1日目はモバイル、2日目はIoT、3日目はデジタルメディアというテーマで、パネルとピッチ・コンペティションが展開される。筆者は3日目に出向いたのだが、この日のデジタルメディア部門のピッチ・コンペティションでは、スマートフォンごしにメッセージを送信できる子供向けのおもちゃ「TOYMAIL」が審査員とオーディエンス賞を共に受賞した。なお、日本では、NPO の Save the Children Japan が「TOYMAIL」を販売しているようだ。

4YFN を組織しているのは、イスラエル出身のスタートアップ投資家として有名な Yossi Vardi(関連記事)で、いつも通り、会場隅の方でウィットに富んだ冗談を言い放ち、関係者を笑いで包んでいた。

MCF とバルセロナ市の MoU 締結

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バルセロナの旧市街中心部にある、バルセロナ市役所(Ajuntament de Barcelona)。その荘厳な佇まいからは、ラテン特有の陽気なスペイン人の日常とは対照的に、やはりスペインもヨーロッパなのだと改めて認識させられる。ここで、日本のモバイル業界団体である「モバイルコンテンツフォーラム(MCF)」とバルセロナ市との戦略的MoUが締結された。

Mobile World Capital の異名を持つバルセロナは、ヨーロッパにおいては、モバイル企業のハブとして一定のプレゼンスを得ているようだが、日本のモバイル企業が進出している事例は多くないようだ。バルセロナには、日産がヨーロッパ向けの一大生産拠点を持っていることから、CEO の Carlos Ghosn 氏が今回の MWC に足を運び、基調講演で今後の EV やセルフドライビング・カーに関する将来展望を語っていた

ヨーロッパのみならず、南米市場向けのサービスを開発するスタートアップも今後増えるのだろう。バルセロナに開発拠点を作ると、物理的な距離の近さだけでなく、スペイン語という共通言語で市場アプローチができるため、南米向けのサービス展開がやりやすい。スタートアップ向けの具体策については言及がなかったが、MoU 締結に参加したバルセロナ副市長 Sonia Recasens i Alsina 氏は、同市の企業誘致・起業支援組織「Barcelona Activa」の代表を務めており、今後の動向には注目したいところだ。

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ソニーの Smart EyeGlass ブース

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ソニーは、かねてから Smart EyeGlass などの自社製品を中心にスタートアップとの協業関係を模索している。革新的なハードウェアを持つソニー、それに対して、大企業が思いつかないようなスタートアップのアイデアを掛け合わせることで、Next Big Thing が生まれないかという試みだ。

以前に THE BRIDGE でも紹介したユークリッドラボが、MWC会場内のソニーのブースの一角で Spotpedia という新サービスを紹介していた。現在はプロトタイプの段階だが、ビーコンにより URL を送信することで、訪問した場所の解説を Smart EyeGlass に表示する技術だ。想定される利用シーンは、観光名所や美術館などさまざまだが、ユーザは自ら情報を検索することなく、その場所に移動するだけで受動的に情報を受け取ることができる。

ベルリンの IFA2014 では Spectee の Smart EyeGlass 版がドイツ人に人気と聞いていたが、当地スペインでは、バルセロナ市内を模した地図を使って疑似体験できる Spotpedia が多くの参加者から引き合いにあっていた。アメリカのテックニュースサイト
「Tom’s Guide」も Spotpedia と Smart EyeGlass 向けの翻訳アプリ「Sekaiphone」について大々的に取り上げている

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以上簡単ではあるが、ほぼこの一週間滞在したバルセロナでの MWC 周辺の動きを取り上げてみた。

1992年のオリンピック開催から20年以上が経ち、バルセロナはまさにモバイルの街に発展した。人口は東京の一割ほどだが、街行く人の多くが何らかの形でモバイル産業に従事しており、この地に居を構えるスタートアップも増加しているようだ。特にアジアやヨーロッパ各所へ出張する筆者からすると、街じゅうで Wi-Fi が使え、その Wi-Fi のスピードがかなり高速だったのが印象的だった。

起業やスタートアップというコンテキストでは、スペインには、東京で定期的にイベントを開催している IE Business School のような組織も存在する。バルセロナのみならず、スペイン全体のスタートアップ・シーンについては、機会を改めてお伝えしたい。

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