出会った人の情報が直接目に飛び込むMR、その実現へのステップーーウェブ3.0がやってくる!(後編)

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gumi創業者、代表取締役の國光宏尚氏

スタンドアロンのコンピューターがインターネットという手段を手にいれた1900年代後半。ハイパーテキストという概念から形作られたウェブ1.0は次第に商用化の道を歩み出し、2007年頃のiPhone登場前後に、個人に紐づくスマホ、ソーシャル、クラウドのウェブ2.0時代を生み出した。

國光宏尚氏はInternet of Things(以下、IoT)による個人に紐づくビッグデータのさらなる爆発的増加と、それを意味あるデータに処理する「クラウドAI」によって次のバージョン「3.0」がやってくると予測する。では、ウェブ3.0時代のデバイスは何になるのか?前編に引き続き同氏の考察をお送りする。

仮想現実の拡大に必要な「デバイス」と「コンテンツ」の関係性

「結論から言うとグラスタイプのデバイスで、目に直接情報がやってくる時代、それがもうそこまでやってきてます。なぜそうなるのか段階的に説明しますね。ちなみに次の時代のデバイスは「俺がやる!」と言いたいところなんですが、やっぱりまあ、ザッカーバーグ氏なんでしょうね(笑」(國光氏)。

仮想現実技術については、自身も育成プログラム「Tokyo VR Startups」や投資ファンド「VR Fund」のゼネラルパートナーを務めているだけに情報量は多い。

「ところでVR(バーチャルリアリティ)とAR(拡張現実)とMR(複合現実)の違いってわかりますか?これって三つとも実は同じこと言ってるんですが、割合が少しずつ違う。

※筆者注:動画はWindows Holograhicの発表。Microsoft Windows and Devices Group Technical Fellowのアレックス・キップマン氏による解説

例えば会議で実際に集まる。これは100%現実の風景ですよね。でもみんなが集まってる会議室の風景が殺風景だからじゃあハワイに行こうと背景を変えてしまえば、50%は現実で50%は仮想になります。遠隔のチームと会議をしようとHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を付けてオンラインで集まる。これは100%仮想。最終的に到達すると言われているMRの概念はこの割合を自由に変化させることができる、リアルとバーチャルがシームレスに往来する世界観のことなんです」(國光氏)。

じゃあこういう世界観が待ってるとして、どうやったらそこに行けるのか。

「これを理解するためにひとつ説明しておいた方がいい話があります。それが『なぜ他の技術に比べてVRが先行すると言われていたのか』という視点です。つまり、なぜVRに需要があると思われたのかという話題に言い換えられるかもしれません。ARやMRに比較して技術的に簡単だったということもあるんですが、それ以上に重要だったのが目的、つまり、ゲームというキラーコンテンツとアーリーアダプター層が予想しやすかったのがVRだったんです。

一方でARはMicrosoftのHoloLensが有名ですが、3000ドルという高額デバイスにも関わらず、それに見合う利用用途がなかった。天気予報やメール、乗り換え案内を表示させるのにそれだけ払いますか?だからB2B、医療などの高額なビジネス用途に絞っていたんです」(國光氏)。

ARデバイスで先行したMicrosoftのプラットフォーム戦略

ただやはりここはMicrosoft。その辺りについては織り込み済みで昨年の6月に大きな戦略を発表している。ARはコンピュータービジョンなどの特許技術の塊で、PCやスマホ時代にあったようなコピーのコピーが出回るような「容易いデバイス」ではない。MicrosoftにしてみたらHoloLensは独占的な立ち位置だったのにも関わらず、彼らはWindows Holographicプラットフォームを、「複合現実」に対応するデバイスの構築を目指すすべての企業に公開する道を選択したのだ。

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よむネコ代表取締役でジャーナリストの新清士氏

「これにAsusやLenovoなど複数社が参画したんです」ーーこう語るのがVRゲーム開発を手がけるよむネコ代表取締役、新清士氏だ。同氏はVRゲーム開発者であると同時に第一線で活躍するジャーナリストでもある。國光氏同様にこの界隈の情報量は豊富だ。

「HoloLensって何が一番コストかかるかというと、スクリーンの膜を多重にしているんですが、ここなんですね。大型調達で話題になっているMagic Leapのデバイスはこのスクリーン膜がさらに多重すぎて量産が困難になっているという話もあるぐらいです。

一方、今回出てくるメーカーはすべて網膜直射、つまり透過ではなく、液晶をそのまま組み込む形を採用しています。さらに測定方式をインサイド・アウト(デバイスの外側のカメラを使った周辺環境の測定方式。周囲に大きなセンサーを別途設置する必要がない)にすることでさらにコストカットを実現しました」(新氏)。

Microsoftのプラットフォーム戦略の結果、今年の年末にかけて各社からARデバイスが出てくることになった。例えばLenovoのデバイスは400ドル程度で予定されるなど、一気にARデバイスの低価格化が進むことになる。

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昨年12月時点でMicrosoftが発表したデバイス群/Image Credit : Microsoft

「ウェブ1.0の時、Microsoftは様々なPCメーカーにウィンドウズを入れることでトップシェアを獲得しました。この戦略の再来です。難しいところはMicrosoftに任せて用途ごとに特化したデバイスを各社に作ってもらう。これでデバイスの単価が下がれば用途特化、例えばポケモンGOのようなエンターテインメントな方向性も含めて可能性が出てくるわけです」(國光氏)。

非ゲームのキラーコンテンツーーAR Studioの衝撃

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ーーでもね、ここでその上をいく発表があったんです(國光氏)。

スマホの次を担う次世代デバイスの価格問題をプラットフォーム化という戦略で一気に解決しようと仕掛けたMicrosoft。キラーコンテンツの問題は残りつつも、デバイスの低廉化が進めば使い方も見えてくる。簡易的なAR表現を駆使したポケモンGOはVRをすっ飛ばしてAR時代の到来を数年早めたという評価もあるぐらいだ。

しかしここでMicrosoftに道を譲らなかったのが他ならぬFacebookだ。國光氏はやや興奮しながら話を進める。

「それがF8(Facebookの開発者向け年次カンファレンス)でのAR Studio(AR向け開発者プラットフォーム)です。ここで公開された内容はARにキラーコンテンツ、しかも日常的に多くの人たちが使えるものを実現させていたんです。先にも話したように、デバイスの問題もあるけどそれ以上に重要なのがユースケースなんです。これを解決していた。

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先日上場したSnapが伸びた理由のひとつに「レンズ・フィルター(上記画像)」がありましたよね。セルフィーにフィルタやアバターを重ねて友人にシェアするという。Facebookもこういった機能を追随していましたが、今回彼らが発表したのはその先、つまり「空間」に対してもアバターなどの効果をかけられる、というものでした。

ここにはディープラーニングの成果が現れてて、とにかく大量の画像を機械学習することで、平面情報としてではなく、空間の深さだったり置いてあるモノの位置だったり全部取れてるんです。これは従来、GoogleのTangoなど一部デバイスで撮影することでデータ化できた情報なのですが、何が強烈かというと、月間で20億人近くが使ってるプラットフォームで、何気なくスマホで撮影された写真から「空間データ」を把握できるようになったということなんですね」(國光氏)。

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F8で発表された画像認識技術を使うことで高度なオブジェクト認識が可能になり、各種エフェクトを自由に追加できる(Source : YouTube

國光氏の見解では、ARを成立させるために必要なデータは顔(とそれに紐づく個人)データと空間データなのだそうだ。顔認識は非常に高い精度で実現されるようになってきたが、後者は特別なセンサデバイスを使ってキャプチャする必要があった。Facebookはそれを普通のスマホカメラで撮影した画像を高度なクラウドAIで解析することでクリアした、というのだ。

「アバターとかはSnapChatなどで証明された通り、シンプルに面白いから多くのユーザーは使うでしょう。世界中のクリエイティブな感覚を持った人たちがその辺で撮影した空間にいろんな効果をかけてシェアする。面白いから次々とデータが上がってそこの空間情報が把握される。

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テーブルの上に乗ってるワインのレーティングも可能になる(Source : YouTube

そうやって空間が情報化されば位置情報が現在では考えられないぐらい精緻になって、そのジオタグを使ったコンテンツが生まれるようになる。例えば自分が美味しいと思ったレストランで食事を撮影したら、大雑把にその場所に紐づいたコンテンツとして友人にシェアされるのはもうありますが、それがもっと細かい空間、レストランのテーブルとかそういうレベルで可能になってくる。ディズニーランドなどのようなアトラクションはとても楽しい場所になりそうです。

ーーこれでわかりますよね。「ARグラス」のユースケースができたんです。細かい場所に紐づいたコンテンツがあるんだからずっと空間を見ていたくなる。グラスをかけて歩いていると通知がやってきて友人がそのレストランで食事してるとか、そこでの動画が再生されたりする。このシナリオがF8の発表でぐっと現実的になったと考えています」(國光氏)。

MicrosoftによるARデバイスの低廉化とFacebookによる「普段使いできる」キラーコンテンツの創出。この二つが重なれば、仮想現実はゲームだけのものではなくなる。一般の人が普段の生活で現実世界の何割かを仮想的なものと掛け合わせることができれば、そこには過去の映画で見たような様々なサービスが実現することになるだろう。

ARグラスの可能性

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グラスタイプは果たしてどこの企業から出てくるのか(Source : YouTube

國光氏はインタビューの最後に改めてグラスタイプのデバイスについて、自身の予想を語ってくれた。

「ここからは予想ですが、やはりこうなってくると気になるのはAppleですね。AirPodsは試されました?非常にシームレスにスマートフォンと接続される技術を確立していて、操作もSiriという音声認識技術が相当にこなれている感があります。重要なのはARグラスが出てくるとして、それの処理パートはやはり引き続きこのスマホだという点なんです。

AirPodsが200ドル程度の価格帯で出せたということは、ここにあとディスプレイをつけるだけでできるわけですから、その倍、例えば400ドルぐらいで出てくる可能性があります。ARの技術的なハードルをMicrosoftが解消して、キラーコンテンツはfacebookが用意。ここにAppleがグラスを出してきたら大きなパラダイムシフトが発生するでしょうね。

こうなればあとは簡単です。ウェブ3.0時代のメルカリはどうなる、LINEはどうなる、Slackはどうなる、金融はどうなる、人材はどうなる、コマースはどうなる、コミュニケーションはどうなる。それを考えればいいんです。

まとめると、Web2.0はスマホ、ソーシャル、クラウドによって誕生し、そこで大きな果実を得た企業がやったことはスマホファースト、ソーシャルファースト、クラウドファースト。そしてWeb3.0はMR、IoT、クラウドAIによって誕生し、そこで大きな果実を得る企業は、MRファースト、IoTファースト、クラウドAIファーストを実行した企業になる。大きなパラダイムが動く瞬間にワクワク感が止まりません!」(國光氏)。

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