世界中の銀行金融に革命をもたらす、P2Pレンディングの行方

wamda_logo_ar ※本稿は、中東・北アフリカの起業家向けメディア「ワンダ(ومضة)」からの転載である。転載にあたっては、原著者グライ・オズカンからの許諾を得た。 彼女の過去の寄稿はこちらから。Sd Japan has reproduced this under the approval from the story’s author Gülay Özkan.


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世界的な金融危機が発生して以降、従来の銀行システムに対する信頼は落ち、彼らの起業家に対する信頼も高いものではなくなった。そんな中で、Occupy 世代(訳注:ニューヨークで起きた「ウォール街を占拠せよ」運動に参加した世代)に訴えるべく、プロジェクト・ファイナンスで、エコノミスト誌が言う「銀行が居なくなった後の穴(bank-shaped hole)」を埋めようとする起業家達が居る。

この新しいモデルはP2Pレンディングで、オンライン上で借り手と投資家を引き合わせるものだ。借り手は従来の銀行ローンより低い金利で金を借りられ、他方、投資家は高いリターンを得ることができる。

手続や待ち時間が少なくて済むので、この方法でお金を借りるのは概して、起業家や中小企業、リスクテイカーには魅力的だ。急な資金を要する人にも理想的で、クレジットカードでの借入よりも金利が低いため、支払を清算したい人にも打ってつけかもしれない。

もともと、P2Pプラットフォームのビジネスモデルは、冒険心豊かな投資家に人気があったが、現在、主要なアメリカのベンチャー・キャピタリストは、この革新的なモデルから立ち後れつつある。

最近、Union Square Ventures とイギリスの Index Ventures は、2007年に設立されたドイツのP2Pローン・プラトフォーム Auxmoney に1,200万ドルの投資を行った。Auxmoney はこれまでに、総額4,500万ユーロにおよぶ11,000件の貸出を成立させているとされる。Sequoia Capital、Accel Partners、Benchmark Capital、(Google CEOの)Eric Schmidt の Tomorrow Ventures、Volition Capital も、投資に加わる見込みだ。

P2Pレンディングの波は世界に波及するか

P2P の人気は急速に伸びており、アメリカでは Lending ClubProsper がこれまでに160万人のメンバーを集め、4億ドル以上の貸し付けを行った(参考記事)。イギリスでは、Funding Circle、RateSetter、(イギリス最古のP2P貸金プラットフォーム)Zopa の3社が、イギリス初の業界団体「P2P金融協会(P2P Finance Association)」を設立した。

統制経済にある中国でも、オンライン・レンディングはブームだ。Bloomberg によれば、オンライン上で友人や家族間における「隠れた銀行システム」は政府の規制を受けず、その金額は2兆4千億ドルに上ると言われる。そのようなサイトは2007年以降これまでに2,000以上作られ、中でも最大は Ppdai.com(拍拍貸)だ。

P2Pレンディングのデメリット

どれもよい話ばかりに聞こえるが、欠点は無いのだろうか。

少なくとも、イギリスのP2P資金業者は、政府の金融当局の規制を現在は受けていない。多くの国においてもそうだ。しかし、彼らは明らかに監視下にあって、当局の懸念の一つは詐欺やマネーロンダリングなどの問題が生じないかということだ。

P2P貸金業者が経済に計り知れない影響を与えるのではないか、という疑問もある。 Standard & Poor’s の北京オフィスで、金融機関格付けディレクターを務める Liao Qiang(廖強)氏は、「今のところ、ルールは存在しない。経済において、銀行の役割には影響を与えない、短期的な流行に他ならないでしょう」と Bloomberg に話した。

このような懸念とは裏腹に、P2P 貸金会社はヘッジファンドや裕福層向けの資金運用会社を魅了し続けている。Morgan Stanley の重役である John Mack 氏も、Lending Club の取締役に就任した。

起業家にとってのP2Pレンディング

P2Pプラットフォームは真剣な投資家を魅了するために、より堅実な貸出先を求めている。スタートアップが彼らにとって最大の顧客だ。

起業家の視点から言えば、特にアーリーステージにある起業家にとって、P2Pレンディングは非常に大きな意味を持つ。クレジット・ヒストリーのない状態で銀行の貸出手続に挑むのは、創業期の状態には、極めてハードルが高い。

もしスタートアップがB2Bなら、大企業からプロジェクトを受注するには、入札保証状の提示を求められるだろう。クレジット・ヒストリーがない場合、多くの銀行では、資本金のいくらかを預託しない限り、入札保証状を発行してくれない。資本金を預託すれば、スタートアップの限られたキャッシュフローが少なくなってしまう。

スタートアップの世界では、あらゆる遅延が問題を生じさせる。起業家なら誰しも、期待したタイミング通りにクレジットを得られなかったり、Eコマース取引の成立が遅れたりするような経験をしているだろう。その理由は、銀行からの与信が得られないためだ。

Yahoo Finance の記事が言及していたように、従来からある多くの銀行ローンは、中小企業向けには最適化されていない。中小企業向けに特別な融資プランを出している銀行でさえ、その多くはスモール・ビジネスが抱える現実を直視しているとは言えないのだ。だからこそ、P2P貸出業者が選択肢の一つになり得るわけだ。

中東、北アフリカ、トルコでは、まだP2Pレンディングの例を見ることができていないが、間違いなく近いうちにその流れがやってくることだろう。

P2Pレンディングが勢力を伸ばしている市場では、P2Pレンディングが生み出す投資環境が広がりを見せている。中国の Ppdai の共同創業者兼CEO Cliff Chang(張俊)氏は Bloomberg に「P2Pレンディングを取り締まる規制が無い以上、我々は前進あるのみだ」と語っている。

マイクロファイナンスの強いニーズを考えると、特に新興市場においては、P2P貸出業者が現状の金融に革新をもたらすのは時間の問題だ。柔軟なスタートアップはもとより、保守的な銀行まで、多くの業界に影響を与えることだろう。

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