変えられないもの以外はすべて変えてもいい−−事業構想大学院大学の江端氏が語る「起業家に必要な挑戦する意義」

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新しいビジネスを作るためには、未来を予測し、挑戦の一歩を踏み出すことが大事だ。

江端浩人氏は、デジタルプリントを創業し、売却後は日本コカ・コーラのニュープラットフォーム事業部(現インタラクティブマーケティング)を創設。現在はマイクロソフトの業務執行役員であり、事業構想大学院大学で教授として教鞭を執っている。

同氏がMOVIDA SCHOOLで語った、起業家に必要な挑戦することの意義についてまとめた。

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日米の文化を知る

アメリカで生まれ、学生時代は日米を往復。中学生の頃に初めてパソコンに出会い、コンピューターにはまった。数学が得意だったので、そこからプログラミングも覚えた。

上智大学に入学時に、日本のことをもっと知ろうと体育会に入部。それまでの海外経験で学んだことは、言葉に思想があるということだ。日本語は、空気を読みながら文末で肯定も否定も入れ替えることができるが、英語はまず先に主張を言い、主張の補足をしていく。どちらが良い悪いではなく、そうした互いの言語の思想の違いを経験できたのは良かった。

違った立場の思考を持つこと

ディベート文化を学べたことも良かった。例えば、オリンピックが好きか嫌いかとディベートする時も、本当は好きでも嫌いの立場をとって議論することができる。どういった状況であれ、自分の立場における言ったことをいかに正当化できるかが求められる。こうした思考をうまく切り替える能力は、ディベート文化だからこそであり、交渉にも有効だ。

日本にもインターネットが来ると予測

新卒で伊藤忠商事に入社。宇宙航空機部に配属され、飛行機のリースビジネスを担当した。その後スタンフォード大学にMBAを取得するために留学。留学先でインターネットとの出会いがあった。92年の当時から、スタンフォードではインターネットが使われており、今では当たり前になっているメールでのレポート提出や情報検索も実施されていた。

帰国後、アントレプレナーが価値を見出すという西海岸の文化に感化され、また日本でもインターネットが来るであろうと考え、インターネットを軸にしたサービスを作ろうと起業した。

世界初のサービスで勝機を見出す

起業の際に、2つのビジネスプランがあった。1つがネット上の個人コミュニティで、もう1つがデジカメの普及を見越したデジタル写真のプリントサービスだ。考えた結果、後者をやろうと96年8月に「デジタルプリント」を設立した。一人で創業し、ソフトウェア完成後に日経に情報をリークして記事にしてもらったことから、出資のオファーもいただくようになった。

創業したデジタルプリントは、世界初のインターネットDPEサービスとして注目され、グロービスやCCC、オムロン、CTC、Yahoo!など各種企業と提携出資してもらった。当時のITバブルの盛り上がりもあり、順調に業績は伸びていった。上場準備をしていたがITバブル崩壊で上場を延期。その後会社を売却し、ヘッドハンターから誘われ外資系のインターネットを使ったマーケティングの立ち上げをすることとなった。

売却は、自分よりも人の手に渡ることに意味があると思った時に実行すべき

自分がそのまま経営して事業を大きくしていくこともできたが、自分ではなく、人の手に渡すことで売上が上がり、事業が成長するのであれば売却したほうがいいと考えた。一番に優先すべきは、事業とそのサービスを受けるユーザに取って意味があるかどうかだ。

新しい価値を創造し、ビジネスモデルを作ることがベンチャー

ベンチャーの存在意義は、新しい価値を創造し、社会に与えることができること、そして新しいビジネスモデルを作ることができることだ。そのためには、常に新しい挑戦をし、顧客に対する価値提供を作り出さなければいけない。ベンチャーならではのスピード感をもとに、大企業ではできない事業を行うことでベンチャーとしての勝機がある。

リソースやブランドをもとに新しい挑戦をする

外資系の企業として、日本コカ・コーラのマーケティング担当となった。当時のコカ・コーラは、世界的にも売上が低迷しており、デジタルシフトで新規顧客を獲得していくことが求められていた。特に若い人たちから興味関心を惹くための施策を考える必要があり、デジタルマーケティングが各国で課題になっていた。

インターネットを活用したマーケティングによる変革を起こすためには、日本コカ・コーラの中にこれまでにない新しい事業を作るようなものでなければいけないと私は考えた。しかし、ベンチャーとは違い、人的資源や資金力、ブランドがあるからこそ出来ることがあるのではと考え、挑戦することにした。

日本初の本格的なデジタルキャンペーン

2007年からデジタル戦略を本格化した。MNPの導入でキャリア公式サービスではなく、オープンなサービスが流行ると予測し、コカ・コーラとモバゲーのタイアップ企画を実施した。実際、モバゲーは高校生の約半分が登録しており、高校生にリーチできる感触があった。結果的にタイアップ企画は大成功し、ポータルサイトのコカ・コーラパークをスタートした。

コカ・コーラパークではそれまでの会員制度を一本化し、初年度に300万を超える会員を獲得した。その後、メディア露出を高めるために日本でも初めての大規模なデジタルキャンペーンを実施。それまでのはがきを使った応募から、すべてデジタルだけで応募する形にシフトした。もらえる景品もデジタルの音楽という完全デジタル移行の施策も実施した。デジタルを含む各種施策が功を奏し、コカ・コーラの売上は急上昇することができた。

新しいメディアをいち早く取り組むこと

2008年から2010年は、デジタル施策を深化させ様々な企業とコラボを展開した。ネット上でのビンゴ大会やオリンピック応援パーク、番組連動CMによって番組コンテンツを組み込むなど、多種多様な施策を実施した。

2010年から2012年にかけて、SNSとの連動などソーシャルを軸にしたキャンペーンを試みた。ロンドンオリンピックでは、いち早くLINEのスタンプを配信。新しいメディアをいち早く取り込むなど、常に挑戦を行いながら事業を進めてきた。

常に新しい挑戦を忘れずに

現在は、コカ・コーラからマイクロソフトへと転職し、さらに週末には事業構想大学院大学で教授としても学生たちに教えている。もともと、Windows95に触れた時からコンピューターに携わりたいと思っていた。今の自分がやるべきことは、コンピューティングを生活に根付かせ次のステージに引き上げていくことだ。常に新しい挑戦をしていくことを忘れずにいたい。

変えられないもの以外はすべて変えてもいい

企画やUIを考える際に、企業としてどうしても変えられないものはある。しかし、変えられないもの以外は変えてもいいのではないかといった発想も持つべきだ。多くの企業は変化を恐れてしまうが、これからは変化を許容する企業が強い。変化していくことが文化となっていくことで、強くなっていく。

変えられないものと変えていいものを区別し、より良い方向に進んでいくための方法を模索していくことが大事だ。

現在は過去の積み重ねであり、それが未来を作っていく

ベンチャーは、自分で世界を作っていくことが一番の魅力だ。サービスを使ってもらった人に喜んでもらえることは、なによりも嬉しい。

自分自身を今まで振り返ってみると、ベンチャーから大企業の中での新しい事業の立ち上げに至るまで、色々な経験をすることができた。そうした環境に身を置いていることに対して、周りに感謝していきたい。また、過去に経験したことは、すべて今に活きているということを忘れてはいけない。過去の経験の積み重ねの上に今があり、そしてその先の未来を作っていくのだ。

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