とび職と学生、開発者の3人はツイッターで出会い、起業してツクリンクを立ち上げた

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ハンズシェアのメンバー

「このツイートが2000回以上RTされたら抽選で3名と勝手に共同起業します」ーー2012年4月、エイプリルフールの真っ只中にこんなツイートがネット上を駆け巡った。

ツイートの発信主はおなじみのこの人、家入一真氏だ。

結果的に1万3000回もRTされたこのツイートをきっかけに、彼は「春の起業家祭り」という、これまた某製パンメーカーのキャンペーンとよく似た名前のニコ生イベントを開催する。

それから3年。

建築業界のためのマッチングプラットフォーム「ツクリンク」は登録社数約1000社を獲得。数多くの個人投資家から支援を受け、2014年4月にはニッセイキャピタルから5000万円の出資も取り付けた。最近ではクラウドワークスや弁護士ドットコムなどと事業提携も実施、注目株のスタートアップに成長しつつある。

学生と鳶職と新卒の開発者。ーーこれからお話する、出会うはずのない、少しちぐはぐした三人が出会い、起業というチャレンジに一歩を踏み出したストーリーは決して綺麗なサクセスストーリーでも、泥臭い根性話でもない。

ただ、もしかして何かチャレンジすることに躊躇している人がいるなら、ちょっぴり勇気を貰えるものになるかもしれない。

ハンズシェアの生みの親、家入一真氏

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ハンズシェアの共同代表取締役、内山達雄氏

「2012年の春に起業家祭りっていうのがあって、僕らそこに出たんですが当選しなかったんですよ」

こう語るのは建設業向けマッチングプラットフォーム「ツクリンク」を運営するハンズシェアの共同代表取締役、内山達雄氏だ。1500人ほどが冒頭の奇妙な起業企画に応募、家入一真氏と一緒に起業できるという「クジ」は残念ながら彼らの手元には届かなかった。

「で、そのあぶれた人たちが有志で負け組のFacebookグループを作ってたんです。家入さんには責任を取って貰おうって(笑」(内山氏)

時間が合う人間が渋谷に集まり、当時、工学院大学の大学院で2年生だった斎藤実氏(ハンズシェアの共同代表取締役) と新卒でエンジニアをやっていた湯本明信氏(同社取締役)の3人が起業を決意する。当時の様子を湯本氏はこう振り返る。

「新卒でweb系のエンジニアになって2年目で出会ってハンズシェアやり始めた感じですね。最初集まったノリでそのまま会社立ち上げてたんで意気投合できてたんじゃないかなあと思います(笑」。

とにかくきっかけを作った家入一真氏が当選した人と起業する前に、会社を作って持ち込んでやろう、そう決めた3人が最初に用意したのがノベルティの交換サービスだった。

Wizzm_ウィズム__-_ステッカーを貼ってサポーターになろう

「当時、スタートアップでステッカーを作るのが流行ってて、大量に作るけど配りきれない。それで余ってたんですよね。家入さんも自分のMacにステッカーを貼って広告にする実験をやったりして。それでステッカーを作った人とほしい人をつなぐサービスがあったらいいなってWizzmを作ったのが最初でした」(内山氏)。

意外な持ち込みを受けて家入氏は彼らを温かく迎え入れる。

「家入さんは君たちが当選したことにできないかなって言ってました。開発は2カ月ぐらいですかね。いや、当時ノベルティーマーケットって他にもやってる人いたのであると思ってたんですよ(笑」(内山氏)。

しかし、当然のことながらこの手のサービスはそう簡単に上手くはいかない。家入氏も温かく迎え入れるが、彼のことをよく知ってる人であれば理解できると思うが、彼はあまり産んだ後に手をかける方ではない。

ここからハンズシェアの3人の本当の起業航海が始まる。

ハンズシェアの育ての親、須田仁之氏

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ハンズシェア取締役も務める、須田仁之氏

ネット系ビジネス、特にスタートアップや起業まわりで活動している方であれば須田仁之氏のことを聞いたことがあるかもしれない。上場請負人、スタートアップの守り神と呼ばれる人物で、昨年は関連したクラウドワークス、弁護士ドットコムの2社が上場を果たした。

一緒にお酒を飲むと大変楽しい方で私も大好きな人のひとりだ。

このハンズシェアの内山氏は須田氏と知り合いだったのも、彼らの成長に大きく関係していると言えるだろう。現在、須田氏は数多くの支援先と同様にハンズシェアの取締役も務めている。

「サイトキャッチャーっていうサイト売買のサービスがあって、そこを眺めてたらなんか凄そうなサイトがあったんです。それでコンタクトを取ってみたら、とび職の格好をした人がやってきまして。それが内山さんでした」(須田氏)。

内山氏は当時、とび職で働く傍ら、アフィリエイターとしても月間100万円近く稼いだことのある腕利きだったらしい。須田氏も興味があったのだろう、アフィリエイトのコツを内山氏に教えてもらう勉強会を開催していたということだった。

2007年頃に出会った2人はこの家入一真氏のイベントで再度急接近することになる。ただ、折角起業祭りで立ち上げたサービスだったが、全く伸びない。須田氏もアドバイスを送ろうと知り合いの会社彼らを連れて行ったりしたそうだ。

「須田さんがあるゲーム開発の会社さんを紹介してくれて一緒に行ってもらったんですが、すごい渋い顔されてました。須田さんなに連れてきてんだっていう…(苦笑」(内山氏)。

ノリで集まって、会社も作り、サービスも作ってみたけど全く伸びない。ここまではよくある話だ。さらによくある話だと、ここで仲違い、解散へと突き進むのだが彼らは全く違う方向で生き延びる策を見いだす。

丁度当時、国内にも出てきたシードアクレラレーションプログラムへの応募だ。

「MOVIDA JAPANの3期募集を見つけたんです。なんかお金を貰えるらしいぞ、と。投資とか全くよくわかんないけど、とりあえず応募しようぜって」(内山氏)。

動機はさておき、ここで彼らは今までやっていたノベルティマーケットを捨て、新しいアイデアでチャレンジすることになる。

そうして生まれたのがツクリンクのアイデアだった。内山氏は建築関連の仕事をしていてノウハウや課題などの知識もある。12月に彼らはアイデアを提出し、見事採択されることになる。

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ハンズシェア共同代表取締役の斎藤実氏

「家入さんに通っちゃいました!って言いにいったんです。そしたらいいねぇ、よかったねぇって一緒に喜んでくれて。嬉しかったですね。それで、その話をしてたレストランに丁度、早さん(美人時計の創業者で現在ファンアプリ代表取締役の早剛史氏)がいらっしゃって、その場で紹介してくれたんです」(斎藤氏)。

早氏はまたそこから現在の監査役、三根一仁氏や彼らの株主として参加している個人投資家たちを紹介してくれることになる。

「結果的に、この界隈で他の方と話をするとああ、須田さんがいるんだって知ってもらえるようになって。お守りみたいな存在ですね」(内山氏)。

須田氏はネット系のチャラチャラしたイベントなんか行かないで、建設業の方をしっかり向けとアドバイス。上場は人の5倍頑張ればできると彼らを叱咤激励し続ける。

そして2013年5月にα版となるツクリンクが公開される。

信頼を得たニッセイキャピタルからの出資

建築会社マッチングプラットフォームTSUKULINK【ツクリンク】

サービス公開から約1年、地味にテストを繰り返してきたハンズシェアは初めての大きめな資金調達を経験する。

「ある方経由でいい起業家がいるということで紹介してもらったのがきっかけです。2013年10月ぐらいのことですね。ぱっと見た感想は会社の投資スタンスと相性がいいなって」。

ハンズシェアとの出会いをこう語るのはニッセイキャピタルで現在彼らを担当する安藤鉄平氏だ。

ニッセイキャピタルは当時、あまり早いステージへの企業に対する支援はそこまで注力していなかった。そこで紹介してもらった安藤氏はその時期に開催していたコンテストへの応募を勧める。

「準優勝でした。50件ほど応募があったのですが、他にないサービスで、建築業ですから市場も大きいです。時間かかりそうだけど、面を取れればいけるよね、ということで評価されたんです」(安藤氏)。

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ニッセイキャピタルの安藤鉄平氏

そしてこのコンテスト入賞をきっかけに、ツクリンクを本物のサービスに成長させようとニッセイキャピタルは2014年7月、5000万円の出資を決める。ニッセイキャピタルが支援側入った結果、彼らのターゲットとする伝統的な建築系企業にも話をスムーズに聞いてもらえることが多くなったという。

「サイトの上のところにほら、ニッセイキャピタルさんの名前いれたんです。フル活用ですよ(笑。メンバーも呼べるようになったし」(内山氏)。

支援してもらった結果、コツコツと積み上げた登録会社数は1000社になった。仕事の数は500件とまだまだ少ないが、PDCAを回す検証フェーズとしては十分な規模だろう。

「昔、建設業をやってた時よりもスマートフォンの所持率があがったこともあって、ネット関連サービスの認知率は相当上がってますよ。ただ、営業でインターネットの、というとまだまだ拒否反応は強いです。

でも、過去の経験から直接聞いてテストで売ることができるのは大きいです。知り合いでも買ってくれないものを知らない人が買ってくれるわけ、ないですよね」(内山氏)。

ーー起業は本当に簡単になった。何かを立ち上げて始めました、といえばスタートアップしたことになる。

問題はそこから空気の薄いこの場所で、いかに息切れせず、ねばり強く打席に立ち続けることができるかどうかだ。起業家として打席に立つことを許されず、退場していたった同志も多い。

でも不思議とこのチームは私の想像を越えた方法で、これからやってくる難関を乗り越えるような気もしている。何かに躊躇してる人がもしいるなら、彼らのやり方は参考になるかも…しれないね。

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