
わずか1ヶ月前、マレーシアに拠点を置く配車サービスアプリのGrabTaxi(同アプリによると現在ではシンガポールを拠点としているとのこと)は、中国のタクシーアプリ大手のDidi Kuaidi(嘀嘀快的)、アメリカの投資企業の Coatue Management 、中国の政府系ファンドのChina Investment Corporation(中国投資)、そしてその他少数の投資家らからなんと4億米ドルもの資金を調達したと発表した。
この資金調達によって、設立から4年の同スタートアップの活動資金は7億米ドルにまで増加、結果同スタートアップの評価額は18億米ドルと驚異的な数字になっている。
なぜこのことがそれほど重要視されているのか?
同地域内だけではなくグローバルレベルでも引けをとらない独自のスタートアップエコシステムの成長を目指すマレーシアにとって、これは大きな節目となるからだ。
GrabTaxiは本質的にマレーシアで誕生した初めてのユニコーンとなった。実際、同スタートアップは、ベトナムのVNG(推定評価額10億米ドル)、タイのLazada(推定評価額12億米ドル)、シンガポールのGarena(推定評価額10億米ドル)、そしてInMobi(推定評価額10億米ドル)を含む東南アジアのスタートアップエコシステムという名の牧場で餌にありつけたわずか5つのスタートアップのうちの1つである。
さらに、同スタートアップは、マレーシアの起業家らの間でインスピレーションの源となっており、現地のスタートアップが世界的なベンチャーキャピタル企業の注目を集めることができ、アメリカ拠点で同スタートアップの10倍もの資金を調達済みのUberなどといった大手ライバルにも引けを取らないということを証明した。
また、マレーシア発の成功例はGrabTaxiだけではない。Jobstreet.comはオーストラリアのジョブポータルSEEKによって5億2,400万米ドルで買収されている。
その他のスタートアップもまた、比較的小規模ではあるものの支援や大型の取引を得ている。
2年前、自動車販売サイトのCarlist.myは、オーストラリアのCarsales.comから1350万米ドルの投資を受けている。
急成長を遂げているその他のマレーシアのスタートアップの中には、わずか1週間前にJungle Venturesと500 Startupsからプレシードの資金として150万米ドルを調達したモバイルバスチケットプラットフォームのCatchThatBusが含まれる。
モノのインターネット(Internet of Things:IoT)もまた見込みがある分野とされている。WaryBeeというスタートアップがあるが、設立者は同スタートアップの商品を「個人の安全を確保するウェアラブルテクノロジーで、ファッションジュエリーとして着用することができ、目立つことなく危険信号を送信することができる商品です」と説明している。
他に1337 Accelerator(オタクの言葉で、1337とは「エリート」の意)がある。これは設立間もないスタートアップのインキュベートや資金提供を目指している。インキュベートされた企業で興味深いものは、ParkEasy(運転手が簡単に駐車スペースを見つけることができる)、WorkChat(企業向けメッセージングプラットフォーム)、GigFairy(ライブ音楽版Airbnbを目指す)がある。
優れた人材の流出など解決すべき問題は残されているが、マレーシアは支援面ではかなりの進展を見せている。
支援レベル
マレーシア政府はスタートアップの成長に積極的に支援している。2015年度の予算の中で、ナジブ・ラザク首相は同政権が起業家・人材への投資を拡大していると述べている。
DealStreetAsia とのインタビューの中で、政府関連のアーリーステージ投資プロバイダーのCEOであるNazrin Hassan氏は、次のように述べている。
政府が外国市場へのアクセス、人的資源の向上、エコシステムの人材多様化に集中して取り組んでいく予定です。それはグローバルな人材を投入するほか、マッチング金融やベンチャーキャピタルで民間投資を促し、高成長企業に投資する際には金融機関やエンジェル投資家が関わるメカニズムを用意し、官民セクターの連携や商業化を改善することによってなされます。
政府はまた、イスラム志向のテック市場もターゲットにしたい考えだ。
Investment Account Platformなどのプラットフォームを通してシャリアを遵守する企業は投資・融資を受けられるだろう。
他の投資スキームにはSME Investment Partnerがあるが、これは民間セクターからの資金調達をマッチングするものだ。
また、研究開発に3億マレーシアリンギット(約7074万米ドル)の資金がもたらされるという。
2015年のフィナンシャルレビューレポートにおいて、マレーシア財務省事務次官のMohd Irwan Serigar Abdullah博士は、政府が世界的なコンサルティング会社のMcKinsey & Companyと協力してアメリカのVCや投資企業に加えて、オーストラリアの起業家パートナシッププログラムを誘致する支援をしていると語った。
また、首都クアラルンプールから20キロ離れたところにCyberjayaを作る可能性についても言及した。ここはシリコンバレーと競合する東南アジアのテックハブとなる予定だ。
その他の政府による取り組みとして、Malaysian Global InnovationとCreativity Centre(MaGIC)があり、今後数年のうちに目標・機能面で成長が期待される。
エコシステムにマジックを取り入れる
MaGIC(5000万リンギット(1140万米ドル)の政府資金を持ち、名目的にはバラク・オバマ米大統領が本社開設の音頭をとった)は、地元スタートアップの立ち上げに役立ちたいと考えている。このプログラムを通して、マレーシアを国外テック企業にとっての魅力的な投資先にしたいという。
そう、ここには手品もイリュージョンもない。
MaGICのe@Stanfordプログラムによって、決済サービスプロバイダーのSoft Spaceはシリコンバレーを訪ねて、そこのVCらと交渉するチャンスを得た。Soft Spaceは契約を勝ち取っただけでなく、ハイテク聖地の企業の間でマレーシアのスタートアップエコスシテムの認知度向上にも貢献できた。
マレーシアはテックハブとして成功する要素を備えている。要はどう上手く組み合わせるかだ、とMaGICのCEO、Cheryl Yeoh氏は語る。
MaGICは昨年10月にMSA 2014を主催し、5日間のイベントには基調講演、ワークショップ、起業・投資家交流会以外に、マレーシア最大規模のスタートアップキャリアフェアも開催されている。
このイベントの主な役割は、適切なスキルや21世紀の経済を正しく乗り切ることができるツールを起業家へ備えさせ、地域レベルあるいはグローバルレベルの規模で会社を起業できるプラットフォームとして機能させるこどだ。
今年MaGICは、同社のイベントをMaGIC Academy 2015(MA 2015)へとリブランドする。今度はカリキュラムとテーマを2つのトラックに分け、異なる2種類のオーディエンスを対象とする予定だ。
トラック1は、グローバルな規模へ成長し、東南アジア地域から飛び出せるほどの高い成長率を潜在的に持つスタートアップに有益なトピックをカバーする。
トラック2は、貧困緩和や環境の維持、そして教育へのアクセスなどの社会的問題にプラスの効果をもたらすであろうビジネスアイディアにフォーカスする。
MA 2015は会話やワークショップを通じて、ビジネスモデルとその発展方法、能力と文化、財政と資金調達、そしてマーケッティングと販売オペレーションなどの各分野について、全ての段階にあるスタートアップを支援することを目的としている。
ワークショップ参加者は、多様な業界、背景を持つ経験を積んだインストラクターやスピーカーによって、実施で必要な技術と知識に触れることになるだろう。
座談会には、Huminの製品マネージャー主任Arielle Zuckerberg氏、99 DesignsのCOO、Jason Sew氏をはじめとする著名な業界専門家ら、およびSEGNEL VenturesのHideki Fujita氏などの投資家らが参加する予定だ。
このワークショップや座談会は、MaGICの地域の企業家たちとの関わりから、とりわけEntrepreneurs Dialogue (ED)を通しての結果として作られた。テクノロジースタートアップの場所を広げることに取り組んでいる他の機関との共同努力の賜物だ。
さらにMA 2015では、テック系スタートアップのエコシステムに属する様々な部門からの150の出展者、そしてArdent CapitalのAraya Hutasuwan 氏、Captii VenturesのNg Sai Kit 氏 、Monk’s Hill Venturesの Kuo-Yi Lim 氏など多くの投資家らとのスピードデートセッションを目玉とするキャリアフェアも開かれる予定だ。
免責事項:Ardent Capitalは、e27の親会社である Optimatic Pte Ltd に投資している。
当記事は、MaGICの協力を得て書かれている。MaGIC Academy 2015が、2015年9月9日から12日まで開催された。
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