日本版Xiaomi(小米)といっても過言ではない、2ヶ月で21製品を発表した東京のスタートアップ「UPQ」

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日本の大手家電メーカーは悪戦苦闘している。例として今日のソニーに関しては、80年、90年代業界トップのソニーとはかけ離れている。同社は2014年2月から、テレビ、オーディオ、ビデオ部門をそれぞれ独立させ、パソコン事業に関しては完全売却した。

海外家電メーカーとの競争が激化したことはそれら部門の急激な低迷の1つの理由にしかすぎない。日本の大手家電メーカーはお役所仕事や官僚制度、革新を妨げる年功序列主義などにより、ビジネスの速さが遅すぎるといった非難もある。

海を越えて中国では、Xiaomi(小米)やOnePlus(一加)のような急成長中のスタートアップが、大手企業よりもはるかに購入しやすい価格でハイテク機器を消費者に直接販売している。同じようなアプローチの日本のスタートアップは、苦戦する家電メーカーのとどめとなるのだろうか?

超高速の出だし

もしUPQ(アップ・キューと発音)が何か知っているとしたら、それはいかに素早く動くかだ。UPQは6月頭に設立され、先週の記者会見にて7分野における24製品(3つを除いてすべて家電製品)を発表した東京のスタートアップだ。

それらの製品はSIMフリースマートフォンや「GoPro」に似たアクションカメラ、50インチ4Kディスプレイやイヤフォンまで多肢にわたる。各製品は構想から製造までが2ヶ月しかかかっていない。ただの売名行為ではなく、全商品が既にオンラインで注文可能なのだ。

「実際は100個のアイデアがあったのですが、24個までに絞りました」とUPQ設立者兼CEOの中澤優子氏はTech in Asiaに述べた。

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中澤氏の起業家精神がたどる道は興味深い。彼女は2007年カシオの製品計画担当に就いた。そこでは自社のフィーチャーフォンやスマートフォン、コンパクトカメラを担当した。

「カシオは『G-Shockフォン』みたいな本当にユニークな製品を作っていたんです」と中澤氏は言う。

「そういった面白みのあるニッチ製品のプランニングをするのが大好きでした。」

2010年、カシオと日立の携帯電話部門はNECと合併された。大胆さよりもシンプルな設計言語を優遇する親会社に不満を覚えた中澤氏は2012年に同社を退職する。

かつてフィーチャーフォン製造でトップの座を築いたNECは中澤氏が退職した翌年にスマートフォン事業から撤退している。海外のライバル会社と競合するにはあまりにも遅い決断であった。

ハッカソンって?

他の電機メーカーで仕事を探す代わりに、中澤氏は貯金を利用して秋葉原にカフェを開く。

「私はエンジニアではないので、製品計画したいなと思うようなガジェットを自ら作ることはできなかったんです」と中澤氏は言う。

「だけどカフェは開けました。自分でメニューも考えましたし、限定のケーキを作ったりして、お客さんにオリジナルな物を提供するのを楽しみました。」

彼女は昨年8月カフェの近くを歩いている途中、偶然ハードウェアハッカソンの広告を目にする。「その時はハッカソンの意味すら知らなかったんです」と中澤氏。「なので、ググりました。」

カシオ時代、より風変わりな機器に魅力を感じていた中澤氏は、新しく変わった物を徹夜で作り出すというアイデアが気に入った。工学やデザインの経歴を持たないにもかかわらず、彼女は応募することを決意し採用された。

彼女のチームは「X Ben」というIoT対応の弁当箱を作り、これはその後12月、経済産業省フロンティアメーカーズ育成事業への参加に招待された。

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フロンティアメーカーズとは、消費者に優しい試作品を開発し市場に送り出すのを支援するアクセラレータグループであり、100万円(8000米ドル)が支給された。このプログラムが目指すのはニッチ製品を日本から海外の消費者に届けることである。同プログラムを卒業後の2015年、中澤氏のチームはテキサスのオースティンで開催されたSXSW Interactiveトレードショーにてデバイスを発表した。

「フロンティアメーカーズを終えた後はカフェに戻るつもりだったんですが、大きな会社じゃなくても何か興味深い物を作れることに気づきました」と彼女は言う。

「その頃はスタートアップという言葉さえ知らなかったけど、もっとたくさんの製品をゼロから作り出したいと思っていることに気づきました。」

中澤氏は、SXSWでアイトラッキングバーチャルリアリティヘッドフォンFOVE3Dプリンターで造型した筋電義手Exiiiを紹介していた秋葉原拠点のハードウェアインキュベータDMM.makeと知り合うことになった。彼女はまた、スマート家電機器とスマートフォンに接続できるスノーボードバインディングで知られたDMM.makeのスタートアップCerevoとも親しくなった。SXSWから帰国後4月に、彼女はCerevoにプロダクトマネージャーとして就任した。

色が気に入らなければ、あきらめるしかない

中澤氏は6月に自分の会社UPQを設立したが、設計、デザイン、生産管理はCerevoに頼っている。Cerevoとは中国における製造元もいくつか共有しているが、中澤氏はAlibabaなどのウェブサイトを利用して、完全に仕様書通りの製品を短い納期で納められる工場を探したと言う。

「中国、香港、台湾、韓国の業者と取引があります」と彼女は述べている。

「比較的少ない(初回)生産量を手頃な価格で供給できるように各々の工場と交渉しました。私、交渉ではすごく粘り強いんです。」

UPQの主力商品はA01というスマートフォンだ。クアッドコアチップセットと4.5インチディスプレイを備え、Android 5.1 Lollipopで動作する。SIMアンロック状態で工場出荷され、デュアルSIMカードをサポートしている。日本で販売されている携帯電話の中では珍しい商品だ。

 A01は3つのカラーバリエーションがある
A01は3つのカラーバリエーションがある

A01のスペックはiPhoneや最新のGalaxyと比べると迫力に欠けるように見えるかもしれないが、この端末はたったの14,500円(116米ドル)だ。

「スマートフォンというのは構成要素が多様なので、最も複雑な家電製品のひとつです。スマートフォンを作ることができれば、何でも作ることができます」

と中澤氏は語る。

他にもUPQは50インチ4Kディスプレイを75,000円(602米ドル)で、14MPのフルHDアクションカムを15,500円(124米ドル)で、カメラや5.5インチ以下のスマートフォン向けの3軸電子制御スタビライザーを37,500円(301米ドル)で、組み込みバッテリーと充電ポート付きのキャスターバッグも29,000円(233米ドル)で提供している。

他にもさまざまな無線・有線イヤフォン、PhilipsのHueに似た電球、Bluetoothスピーカーなどを扱っている。各デバイスは全てUPQの「青x緑」のカスタムカラーとなっている。唯一の非電化製品であり、1960年代さながらのレトロ「エッグチェア」も青x緑のクッションが付いてくる。全製品ラインアップはこちらからチェックしてほしい。

DMM.makeのオンラインストアで販売されているUPQの製品(価格は税込み)
DMM.makeのオンラインストアで販売されているUPQの製品(価格は税込み)

「私たちは、1人1色を提供するつもりです。たったの1製品手に入れるだけで、その商品の色によって味気なかった空間が瞬時に生き生きとしたものに変わるのです」と中澤氏は述べる。

そして、季節ごとの変更は製品の色のみにすると続けた。例えばスマートフォンのような製品は、1年に1度リフレッシュが行われる。もし、その時期の商品の色が気に入らなかったら? 「それは残念ですね」と彼女は言う。異論の多いアプローチではあるものの、彼女はその方法に強くこだわっている。

UPQのデビュー商品は、現在DMM.メーカーズマーケットで販売している。中澤氏は現在日本国内最大手の電気量販店と話し合いを行っており、それは顧客が購入前にそれぞれの機器を「タッチアンドトライ(実際に触って試す)」することができる環境を提供するためである。

競争を喚起する

UPQはすでに投資家から資金調達している。金額は非公開で、また中澤氏は投資家の名を明かすことも控えた。この案件に詳しい筋がTech in Asiaに伝えるところによれば、金額は100万米ドル弱程だという。

UPQはすぐに海外展開する計画はないということだが、全24製品はすでにFCCとCE認定を取得済みであり、従って米国とEUで販売可能である。

中澤氏に、目指すところは日本のXiaomiかと尋ねると、その質問はかわされてしまった。

「大手の日系テクノロジー企業は苦境に立たされています。私は日本の人々が新しい製品を作るアプローチを変えたいと思っています。」

中澤氏は日本の衰退する大手テクノロジー企業を転覆させる意図を堅く否定した。おかしなことに聞こえるかもしれないが、彼女は、彼らに勝つことよりも刺激を与えることに興味があるそうだ。

「私はソニーやパナソニックなどの企業をライバルとは思っていません。なぜなら日本に私たちと同じことをしている企業は1社もないからです。たとえ彼らが私たちと同じように速く動こうとしても、競争は良いことだと思います。

競争によって皆が懸命に働き、より良い製品ができるからです。もし競合によって私の事業がだめになっても、競合企業が私よりも良くできているのであれば、気にしません。」

こんな穏やかな設立者の中澤氏だが、速さを好んでいる。次のステップは何だろうか?

「もっと大きな製品です」と彼女は笑顔で答える。

「電気自動車を考えています。」

【via Tech in Asia】 @TechinAsia

【原文】

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