ヨーロッパから見た日本のフィンテック【ゲスト寄稿】

mark-bivens_portrait本稿は、フランス・パリを拠点に世界各地のスタートアップへの投資を行っているベンチャー・キャピタリスト Mark Bivens によるものだ。フランスのスタートアップ・ブログ Rude Baguette への寄稿を、同ブログおよび著者 Mark Bivens からの許諾を得て、翻訳転載した。(過去の寄稿

The Bridge has reproduced this from its original post on Rude Baguette under the approval from the blog and the story’s author Mark Bivens.


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東京銀行協会(Image credit: Wikimedia Commons

最近、私は思いがけず東京銀行協会から招かれ、フィンテックについて話す生放送に参加した。ヨーロッパで金融業界に影響を与えている市場の動きが、日本でも状況が似ているということで、その点について私は言及することになった。

ヨーロッパのフィンテック・スタートアップシーンは市場が飽和状態にあるという人がいたが(したがって、4月28日にパリでは、「SPEND」という差別化されたカンファレンスも開催されるのだが)、一方、日本ではフィンテックは始まったばかりのような気がする。日本では、金融サービスの周辺でイノベーションに拍車をかけるかもしれない、根本的な現象が多く存在する。

  • 貯金をする文化は、西欧諸国に似ている(これは、アメリカとは非常に対照的だ)。
  • 低金利(あるいは、マイナス金利)環境。日本では、典型的な流動性貯金口座の年利は0.01%以下だ。私が話したリテールバンクの銀行マンは、住宅ローンは年利0.32%で提供していると言っていた。
  • 資産を現金で持ち続けようとする意識を下げる、デフレ心理。
  • ミドルエイジにおける、世帯貯金額の階段的変化

この最後の点については、考えをまとめるのに少し時間を要した。典型的な日本の上位中産階級層の平均貯金額は、50歳までに10万ドルに達する。しかし、50歳以降は、たいていの生活費はゼロに近づく一方(子供の独立や、住宅ローンの支払完了など)、収入や長期雇用から得られる利益は安定的に上昇を続ける。つまり、ここで変化点を迎える。平均的な世帯貯金額は、一気に10万ドルから50万ドルの領域へと上昇を遂げるのだ(あくまで概算によるが)。

この恩恵は、2つの効果をもたらす。典型的な世帯は、投資に使える40万ドルの資金を得ることになる(投資ではなく浪費するケースもあるだろうが、日本では浪費はさほど一般的ではない)。そして、その世帯での投資体験は、比較的幅の狭いところに留まる可能性が高い。例えば、普通預金、定期預金、あるいは、長期的に持ち続ける株式の購入に限ったものなど。

大事なことを言い忘れていたが、日本政府は最近、フィンテック・スタートアップに影響を及ぼす、いくつかの規制緩和策をとっている。これらの施策のレビューは、Tech in Asia に掲載された、この素晴らしい記事を読んでほしい。中でも興味深いものを挙げてみると、次の通りだ。

  • 2014年以降、金融当局は NISA(少額投資非課税制度)のもとで、約9,000ドル以下のキャピタルゲインについて免税措置を実施。
  • 日本の個人金融資産は14兆ドルを超え、そのうち52%は現金で持っているとされる。
  • 新法制により銀行 API の開放を支援する。ある試験プログラムでは、日本の送金インフラを独占している NTT データが、フィンテック・スタートアップが接続できるよう、インターネット・バンキング API を開放する予定だ。
  • 現在噂されている修正法案では、銀行からスタートアップへの出資条件が緩和される見込みだ(現在では、最大で投資先株式の5%までしか出資できない)

ここまで見て分かる通り、日本のフィンテック・イノベーションでは、物事が始まったばかりのようだ。私は、自分のノン・フィンテックに当てはめてきたルールを破って、この分野で新たなる投資機会を模索してみるかもしれない。

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