「先生のいない学校」はじめましたーーFacebookやTeslaが積極採用するプログラマー養成学校「42USA」の実態とは?(前編)

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Image by 42USA

プログラミング教育へのニーズが高まっています。

2020年度からは小学校でプログラミング教育が必修化されますが、これも国を揚げたプログラミング教育ニーズへ対応するための一環と言えるでしょう。

必修化の背景には、 2016年度に経済産業省が発表したIT人材に関する調査報告 に記述してある通り、情報セキュリティ人材の不足が指摘されます。2016年度では情報セキュリティ人材の不足数は約13万人ですが、2020年には不足数が20万人弱に拡大するとあります。

しかし、プログラミング教員を育てる人材育成面で課題が残っているのが現状です。2003年に高校では「情報科」が必修化されていますが、 専任教員として情報科担当教師を置いているのは全国平均で20% とも言われています。東京都では全担任教員数当たりの情報科専属教員の比率は約60%ですが、岩手は群馬では2-3%に留まっており、県によって大きなばらつきがあります。

高校に勤める情報教員もぎりぎり成り立っている中、小学校ではさらに人材不足に追い打ちが来るでしょう。 NHKの調査 によれば、全国67の教育委員会に小中学校の人材不足に関して問い合わせた結果、32の委員会が教員定員に対して少なくとも717人の人材が不足しているそうです。

また、 2007年度の教員数に関する数値 を見ると、2017年度をピークとして小学校教員の一定数が60歳を迎えて退職数が増え、2018年度以降は教員数が尻つぼみしていく傾向にあることがわかります。

このように、プログラミング教育の必要性を声高に叫んでいても、ただでさえ普通科を教える人材が不足している運営現状を点でみれば、プログラミング教員の人材不足が大きな壁となって立ちはだかるのは目に見えています。

一方、アメリカを見ると、プログラミング教育の人材不足に対して、あるソリューションを示している4年制の教育機関があります。そこで今回紹介するのがプログラミング教育に特化した「 42USA 」です。

「42USA」の事例は、日本のみならず、世界各国のプログラミング人材ニーズに対応する好例となる可能性を秘めているかもしれません。この記事では筆者が過去に直接「42USA」へ出向き、見学訪問した際の記録を元に内容を掘り進めていきます。

大手テック企業から注目される「42USA」

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Image by 42USA

カリフォルニア州サンフランシスコから電車とバスを乗り継いで約2時間ほど南東へ向かうと、閑静な田舎の風景が残る地域に「42USA」のキャンパスがあります。都会の喧騒から離れて、勉学に集中させるため、地方に拠点を置く北米のリベラルアーツ系大学に似た雰囲気を醸し出しています。

車を走らせればサンフランシスコへは1時間30分ほど、AppleやFacebook、Googleのキャンパスがあるシリコンバレーエリアへは1時間ほどなので、プログラミングを学ぶ学生にとっては最適なロケーションといえるでしょう。

「42USA」は元々、フランスにある本校から分校化されて2016年に設立されました。フランス・パリで創設された授業料無料のプログラミング教育特化の次世代型教育機関です。パリ校を立ち上げてから3年で「Tesla」や「IBM」「Amazon」などの名だたる企業に卒業生が就職を果たしており、新進気鋭のプログラミング教育機関として注目されました。

「42USA」は前述の3社のみならず、シリコンバレーを中心に拠点を置く大手テック企業「Facebook」や「Twitter」「Snap」などから人材引き抜きのニーズが高いと聞きます。

巨額な設備投資と運営方法

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Image by 42USA

2016年に教育プログラムを開始したばかりの「42USA」では、第1期クラスで世界中から1万の申込書が届き、650人が仮入学にまで駒を進め、270人が本入学に至りました。2016年後期の第2期クラスでは860人が仮入学に至っています。

オンラインテストを合格した仮入学の生徒は実際にキャンパスで一定期間過ごし、プログラミング・プロジェクトを仲間とこなして本入学できるかどうかを決定されます。毎学期仮入学で800名前後の生徒が滞在することを考えると、キャンパスに滞在している学生数は常に1,000人程度かと思います。

「42USA」は2階建ての建物を所有するちょっとした貸しオフィスビルのようなキャンパスで、2階には1,024台のパソコンが並んでいます。筆者が訪問した際には、1階は他企業に場所を貸していましたが賃貸契約をやめて、新たに1,024台のパソコンを置き、全2,048台を完備するプログラム学校となる予定でした(訪問時には置かれていたパソコンは全て iMac )。

ちなみに2017年度5月時点で、日本の大規模大学の筆頭である明治大学では、4キャンパスのメディア教室・メディア自習室などに置かれている 全パソコン台数は約2,600台 とあるので、「42USA」の施設投資がいかに大きなものであるかがわかるでしょう。

「42USA」の秀逸な点は、設備投資のみならず、1,000人弱にも及ぶ生徒を育てあげる仕組みにあります。

学生は4年間みっちりとプログラミング教育を受けますが、日本の大学のように教室で手取り足取り教えることはしません。つまり教員がおらず、チューターという形で学生をサポートする職員が少数勤務しているだけなのです。

職員数は計8人 。内2人は食堂で正社員として働いているので、実質6人で1,000人弱(訪問当時の数)の学生を担当していることになります。ここで、どのように学校運営をしていくのか疑問に突き当たるでしょう。 後編では、「42USA」を支える教育システムと、同校が目指すビジョンを紐解きます。

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