
Image credit: Didi Chuxing(滴滴出行)
Didi Chuxing(滴滴出行)はビッグデータにおいて頭角を現してきており、最新の発表によれば、新たなプロジェクトは都市のモビリティへの向き合い方を変えるものであるという。中国の配車サービス大手である同社は「Didi スマート交通ブレーン(滴滴交通大脳)」を開始した。これは政府やその他の協力相手からデータを得て、AIとクラウド技術を駆使し都市交通をマネジメントするというソリューションである。
このブレーンが解決するのは交通渋滞だけではない。都市規模の巨大なパズルだ。プロジェクトは1年ほど開発が続けられており、20を超える中国の都市で試験的に運用されている。Didi の車両からのビデオカメラ、信号を受けるセンサーや GPS からのデータの解析、インテリジェント信号機の設置、地方の交通警察や都市計画者との協力など、多くの領域に跨った努力がなされている。
Didi Chuxing の公共交通部門のトップである Liu Xidi(劉西帝)氏は、1月25日に北京で行われた Didi の Intelligent Transportation Summit(智慧交通峰会)において TechNode(動点科技)に次のように語った。
交通産業はデータ解析という面ではまだ初期段階です。当社がしようとしていることは、Didi のネットワークやデータセット、インフラやテクノロジーを用いて交通産業のフロンティアを押し広げる先駆者になることです。

Image credit: Didi Chuxing(滴滴出行)
接続されたネットワークとしては世界最大であると Didi Chuxing は主張している。Didi のシニアバイスプレジデントである Zhang Wensong(章文嵩)氏が TechNode に語ったところでは、2017年に同社のプラットフォーム上で働いたドライバーの数は2,100万人を超えるという。この巨大な数によって Didi は世界レベルでのライバルである Uber に比べても異質な存在へと変化している。もはや渋滞の解消や配車の最適化のために AI やビッグデータを使うだけではない。今や Didi は総合的なモビリティ企業であり、モビリティのあらゆる側面をインフラから車、そして人に至るまでカバーしている。
Google の AlphaGo のように、都市交通の問題を解決
一般的に Uber と比べたとき、当社は主に技術と製品に着目し、Didi はビッグデータとテクノロジーの企業であると考えています。当社のプラットフォームとテクノロジーは恐らく世界でも最先端のものであると思います。
Zhang 氏は述べた。同氏によると、配車システムの複雑さは Google の AI ソフトウェアAlphaGoが囲碁で直面したものよりもずっと大変なものであり、その複雑さがシステムを支えるアルゴリズムをきわめて高性能なものにするのだという。
Zhang 氏はデータ主義な人物である。Alibaba Cloud Computing(阿里雲)の元 CTO でありバイスプレジデントでもあった彼は数字に関して独自の見解を有しており、Didi が直面している問題も数字を使って説明する。
乗客 A が配車をリクエストするとシステムはドライバーを派遣する。1ミリ秒後に乗客Bが現れ、B の位置は A よりもドライバーの現在地にずっと近い。もしドライバーが乗客Bではなく乗客Aを乗せたとしたら、それは最適化されたソリューションではない。時間が無駄になる。ゆえに、システムは2人の乗客を乗車待ちの列に並べ、それぞれに近い位置にいるドライバーをマッチさせる。
問題は、このソリューションにおいては非常に短い時間、2秒間の最適なものが残されるという点である。前述の例の後、また別の乗客が手配を頼むかもしれない、さらに2秒後に4人目の乗客が、そしてその後も続々と。システムは2秒以内に調整する必要がある。

Image credit: Didi Chuxing(滴滴出行)
これは2秒に最適化されたソリューションです。4秒や1分ではありません。ゆえに私たちは未来を予測する必要があるのです。
1日は8万6,400秒ですから、2秒ごとに区切ると4万3,200ステップになります。囲碁は19かけ19の361ステップです。ですから当社が扱う問題は囲碁の100倍も複雑なのです。(Zhang 氏)
Didi によると、AlphaGo の比較は都市交通のマネジメントにも置き換えることができるという。AI プログラムは過去のすべての囲碁の対局を、もっとも複雑なものも含めて、分析することで成功した。Didi は世界中でもきわめて込み入った都市のいくつか、つまり中国の都市を分析している。アメリカのような発展した国の綿密に計画された都市中心部とは違い、北京やマニラのような都市は混沌としていることが少なくない。
Didi の配車サービスにとってさらに重要なことは、乗客とドライバーのニーズが中国と例えばアメリカのように車の保有がより一般的な国とでは違うという点である。これはつまり、中国と似た状況にある世界の大部分に対して、Didi はより適したサービスを開発することができるということだ。配車サービスとスマート交通マネジメントの両方で中国の取り散らかった状況を解決すれば、それは世界進出の際には強力な武器になるだろう。
グローバリゼーションのための新たな製品?
中国国外ではこれまで知られていなかったが、Didi はグローバリゼーションの目標に向けて前進を重ねてきた。同社はアメリカでのプロジェクトを諦めビジネスを Lyft に譲った後、ブラジルの配車スタートアップである99に投資した。東南アジアの Grab やインドのOla、ヨーロッパやアフリカ、その他の地域で存在感を見せる Taxify といった他のいくつかの配車企業とも提携してきた。
スマート交通のために、当社は様々な政府機関と実際に対話をし、当社がしようとしていること、今していること、どこまでできるのかということをお話ししてきました。
多くの方には非常に興味を持っていただきました。渋滞はアジアだけの問題ではなく世界中の、特に発展したもしくは発展途中のすべての主要都市にとっての問題なのですから。(Liu 氏)

Image credit: TechNode(動点科技)
しかし、Liu 氏はスマート交通部門が200名近い従業員を抱えていてもなお発展途中であると強調した。
私たちはまだ若く、たった1歳です。まだまだ成長中で時間がかかります。
同部門は現在は中国の都市に注力している。地方の交通当局と協力してプロジェクトを実行し、省庁レベルの研究員と協力して規格や政策を作っている。また、スマート信号機やモニタリングシステム、そして公共交通の最適化といったプロダクトラインやユニットを開発している。さらに Didi は3つ目の研究所を開くと金曜日に発表し、新たな研究所は北京で Didi Chuxing のバイスプレジデントである Ye Jieping(葉傑平)博士が率いることになるとした。
何の計画も発表されてはいないが、Didi がいずれはこのプロジェクトを海外展開させるであろうことは容易に想像できるし、また実際そうすることが賢明な投資であろう。素晴らしいデータや輝かしい AI アルゴリズムにもかかわらず、多くの政府は地方のタクシー業界が壊滅するのではないか、業界の独占が生じるのではないかと恐れて、Didi や Uber、Lyft といった企業の受け入れには及び腰である。Didi のビッグデータ、そしてそのデータをシェアすることが、Didi が市場への扉を開き、恐れを和らげるための道になるのかもしれない。
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