日本の新たなスタートアップハブを目指す広島の意図とは

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Hiroshima Atomic Bomb Dome / 原爆ドーム via Flickr by Frank Monnerjahn

日本人以外にとって、広島は非常に特別なイメージを喚起する地名である。日本の本州に位置し現在120万の人口を持つこの都市は、常に第二次世界大戦やその原爆の遺物と結び付けられる。外国人が広島からビジネスやスタートアップを連想することはない。

だが広島県知事の湯崎英彦氏は海外からのイメージを日本国内からのそれに近づけたいと考えている。

歴史的には広島は新たなビジネスの場として知られていました。

同氏は Tech in Asia にそう語る。雑貨店企業のダイソーや有名な自動車メーカーであるマツダのような国際企業はこの地で始まり、今もそこに本社を構えている。

湯崎氏のアジェンダにとってスタートアップは大きな部分を占める。日本の中小企業庁によれば2017年の日本におけるベンチャーキャピタル投資は25億米ドルを記録したが、小規模企業の創業の割合は低く、2015年には全企業の5%に過ぎなかった。

広島は日本のこの割合を倍にすべく、年に600万米ドルを支出する計画である。

湯崎氏はこう話す。

私たちの経済は製造業に大きく依存していますが、今やそれも変わりつつあります。東南アジアの国々を相手とした非常に厳しい競争に直面しているのです。ですので、イノベーションが私たちにとっての新たなキーワードです。

現時点で国内最大のスタートアップエコシステムである東京に代わり得る存続能力がある場を作り上げたいと同氏は望んでいる。

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広島県知事の湯崎英彦氏
Photo credit: Hiroshima Prefecture

エコシステムの種

スタンフォード大学の卒業生である湯崎氏は日本のブロードバンドプロバイダであり同種の企業としては国内最初期の1つであるアッカ・ネットワークスを共同設立した。同社はやがて別の企業に買収され、後にその企業も日本発の複合企業ソフトバンクに吸収合併された。

多くの企業が交流し、協力し、そして共に刺激し合えるようなエコシステムの種を植えたいと同氏は考えている。

同氏は次のように説明する。

シナジーというものを提供しようという人に会うことはあまりないかもしれませんが、近くで頑張っている人を見れば自分も頑張ろうと思えます。日本全体としてそういった文化やエコシステムの土壌は、長い間ありませんでした。

興味深いことに、この地方自治体はスタートアップに対してアーリーステージの融資や補助金を提供しようとはしていない。

湯崎氏は言う。

個人的な意見ですが、簡単に手に入るお金では上手く行きません。甘えてしまって駄目になります。それよりも私たちが力を入れているのは起業家にアドバイスやネットワーク、そして(資金面以外の)リソースを提供することです。外へ出て行き自分の食料を見つける必要があります。そうやって成長するのです。

テック業界における広島の優位性

広島のハブは同県の強みに焦点を当てている。例えば、マツダが同エリアに存在することで広島に製造とエンジニアリングのノウハウを与えている。

マツダの「モデルベース開発」メソッドは特に魅力的だ。同社は高度な演算を用いて製造過程をシミュレートしており、実物を作る必要がない。これは製品の製造を始める前の試行錯誤の助けとなるものである。昨年オープンしたひろしまデジタルイノベーションセンターは、このメソッドを奨励するために施設や設備を提供している。

広島大学はエンジニアリングやテクノロジー、生命科学において世界の大学トップ500に入っており、Times Higher Education の世界大学ランキングによれば日本国内では150以上の組織の中で13位である

グロースやレイターステージのスタートアップを含む様々な段階にあるテック企業が、既にこの地域を拠点としている。Mizoue Project はスマートフォンがあれば使える超音波診断装置を作っており、また東証上場企業のデータホライゾンはヘルスケアデータのソリューションを提供している。少し違った分野ではラクサスがブランドバッグのシェアリングサービスを行っている。

その他のイニシアチブには市内中心部に位置するコワーキング施設イノベーション・ハブ・ひろしま Camps や、人工知能および IoT のプロジェクトのためのレギュラトリー・サンドボックスがある。これらの目的は実験やアイディアのテストのために国内および海外から参加者を招こうというもので、そのためにミドルウェアやツール類の基本的なプラットフォームを提供する。

同地方自治体は今後3年間で1,000万米ドルをサンドボックスプロジェクトに投資する計画であり、国内の他のサンドボックスイニシアチブと合同で行うことも望んでいる。

また、グロースステージにある企業を対象とした1億米ドルの官民ファンドひろしまイノベーション推進機構が設立されている。その額の半分ほどはいくつかの企業に投資されているが、現時点では新たな取引を受け付けてはいない。代わりに、同機構はポートフォリオ企業のイグジットに専念している。

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コワーキングスペース「ひろしま Camps」
Photo credit: Innovation Hub Hiroshima Camps

眩しく光る東京

日本における最上級のスタートアップや企業、法人、そして投資家が東京に集っていることを考えれば、広島にとっては厳しい戦いだ。

ネットワークを作ること、資金の調達、そして英語を話せる国内外の人材を見つけることが容易であるために、普通は首都が選ばれる。過去数年間の日本のベンチャー投資の多くは法人ファンドや銀行によるものであり、そのほとんどは首都に拠点を置いていた。

また外国人起業家に6ヶ月のスタートアップビザを提供している場所は国内に2ヶ所しかないが、その1つが東京である。そこでは現地にオフィスを開き2名以上の常勤スタッフを雇わねばならないといったことや4万5,000米ドル以上の資本が必要といった、現在のビジネスの制限を廃止している。これは日本が1年のスタートアップビザを全国的に導入しようとしているため、変わると予想されている。

首都以外でスタートアップのハブとなろうとしている地域は広島が最初ではない。福岡は独自の6ヶ月のスタートアップビザの他にも、新たなスタートアップ向けに税制面の優遇措置やビジネスコンサルティングを提供している。その結果、ikkai のような外国人主導のスタートアップがそこで開業している。

大阪も数年前に独自のイノベーションセンターを設立し、医療技術のような専門的な分野に焦点を当てている。

どちらのイノベーションプログラムもしばらく続いているが、東京を中心とする日本のスタートアップの展望を変えるには至っていない。だが、そう断言するのはまだ早いかもしれないと湯崎氏は考えている。同氏によれば、これらの都市はエコシステムや自身のブランドを作り上げることに成功しており、長期的にはそれが成長に繋がるとのことだ。広島もまたそれらの例に倣いたいと考えている。

湯崎氏にとっての課題は若い企業を始めさせることではなく、それらを広島に留めておくことである。スタートアップは大きくなると本社を東京に移してしまうことが多い。県は VC を引きつけて広島で機会を探して欲しいと考えており、さらに重要な点として、地元のコミュニティを育てて欲しいと願っている。

機会がたくさんあれば、生き残る確率も高くなります。

同氏はそう付け加えた。

東京からの脱却

起業家とコミュニティがいくつかのハードルを越えることができるなら、地域のスタートアップハブを作り上げることも不可能ではない。

東京に拠点を置くグロービス・キャピタル・パートナーズのプリンシパル湯浅エムレ秀和氏はこのように言う。

レイトステージの投資家は大体東京にいるので、スタートアップは資金調達のために訪ねて行かねばなりません。

一方で、エンジェル投資家やアーリーステージの投資家はスタートアップが出てくる地域のエコシステムに出現することがある。

とはいっても、製造や研究の施設が必要なビジネスは主に東京の外に拠点を置くものである、と湯浅氏は付け加えた。

一例として GLM が挙げられる。グロービスの投資先企業でもあるこの電動スポーツカーメーカーは京都にある。他の例では、レイターステージにあるマテリアルサイエンスのスタートアップ Spiber は北日本を拠点としている。

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福岡で成功したスタートアップには、アメリカやヨーロッパそしてシンガポールにもオフィスを構えるオンラインコラボレーションツールメーカーのヌーラボがある。CEO の橋本正徳氏は素晴らしい製品と適切な人材を持つスタートアップは、投資家やネットワークをどこからでも、東京からでも日本国外からでも引きつけることができると考えている。

とは言え、より多くの投資家が東京にいるというのは事実です。なので時々は出張で東京に行くことをお勧めします。

同氏はそのように語り、不利な点も認めた。

福岡における共同体意識はヌーラボにとって大きなプラスとなっている。

橋本氏は次のように強調する。

サポートがあるという感じは実体的というより感情的なものです。ですが、それこそが最も重要なポイントだと思います。

湯浅氏はこう言う。

もし広島が最高の人材を地元に引きつけ留めることができれば、間違いなく資金もそこに流れていくでしょう。

同氏は、IoT やロボット工学、生物工学などの何か特定の分野に特化することが鍵であると強く主張する。

東京のコストの高さや人口の過密は起業家に広島に留まるよう考えさせるのではないかと湯崎氏は感じている。広島ではより高い生活水準とより低い運営コストが得られ、そしてまた必要なときには日本の素晴らしい交通ネットワークで簡単に東京へ行くこともできる。

しかし何よりも、コミュニティと利用可能なリソースでより長く地域に留め、ビジネスの新たな世代を作り上げることを同氏は望んでいる。

【via Tech in Asia】 @techinasia

【原文】