レディススーツ市場を独占せよーー 著名投資家Peter Thielも認めた「Argent」が解決するポケットのない不都合

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Image Credit: Argent

ピックアップ: Peter Thiel’s Founders Fund just invested in a women’s fashion brand

ニュースサマリー: 女性向け紳士服を販売する小売ブランド「Argent」は2月19日、400万ドルの資金調達を発表した。2017年にサンフランシスコで創業。実用性とファッション性を兼ね揃えたデザインが特徴の女性向けD2Cオフィスウェアを販売する。

創業者はIT企業でキャリアを重ねてきたが、男性主体のワーキングスタイルに疑問を持つ。なかでも女性の身体を必要以上に綺麗に見せることを目的にした、非常にタイトで動きづらく、ポケット数の少ない機能性に欠けるレディススーツの設計に課題意識を持ったという。そこでアパレル業界での経歴が無かったがArgentを創業して今回の調達に至っている。

本ラウンドは著名投資家Peter Thielが2005年に創業した「Founders Fund」がリードした。同ファンドはFacebookやSpotify、Airbnbなどの著名スタートアップへの投資実績がある。

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話題のポイント: Argentの資金調達のポイントは、創業者に市場を独占するためのインサイトを持っていた点が挙げられるでしょう。具体的にはPeter Thielが提唱する競合の多い市場に参入するのではなく、小さな市場をいち早く独占をしたのち、他市場への拡大を目指す戦略思考を持ち合わせていた点が指摘できます。この思考はさらに大きく3つに分けられます。

1つ目はIT市場のシークレット・クエスションに着目した点。先述したように男性主体の市場では、レディススーツは伝統的に身丈をすっきりと見せるため、ポケット数が少ないことが通例となっていました。あくまでも男性目線で作られていたと言えるでしょう。

しかし、実際に着装して仕事をする女性顧客からすると、たとえばスマホやオフィスに出入りするためのキーカードを入れるポケットの数が少ない点は、市場が勝手に定義した単なる不都合でしかありません。こうした「古い慣習」と「顧客体験」の間に大きなギャップがある場合、スタートアップが参入すべきディスラプト市場の対象になる可能性が高いです。Argentはまさにこの点を狙い急成長を遂げています。

2つ目は社会意識の変化です。女性の社会進出が進んでいる現代、女性の体験性を犠牲にされた商品は受け入れられません。この動きは #MeToo 運動を筆頭とした、女性が積極的に社会問題に対して声を上げるようになった近年の大きな社会情勢の変化が後押ししています。

5年前の2014年では今のようなムーブメントにはなっていないでしょうし、5年後の2024年には今以上に女性と男性の格差がなくなっているかもしれません。この点、著名VC「Sequoia Capital」が起業家へ頻繁に問う”Why Now(なぜ今やるべきなのか?)”の答えをArgentはしっかりと握っていると思います。

最後は市場規模。『Fortune』の記事によると米国におけるハイクラス女性向け洋服市場は349億ドルに及ぶとのこと。大きな市場規模に見えますが、Argentは高級な紳士服になかなか手の届かないミレニアル世代、なかでもスタートアップで働く女性にターゲットを絞っています。また、WeWorkと提携して、同コワーキングスペースで働く女性ワーカーへの営業パイプラインを確保しています。

これからの労働力の主体となるミレニアル世代の女性に特化して市場を定義。同市場にいる女性たちの考え方の変化と顧客体験に着目し、従来のレディススーツに付きまとう当たり前な違和感を解決するのがArgentの土台となる戦略思考と言えるはずです。

「シークレットクエスションに着目」「社会意識の変化」「まずは小さな市場に特化する」の3点を軸に、身の回りの出来事を見直してみるとみなさんも隠れた商機が見つけられるかもしれません。

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