フィナンシェは「株式会社個人」の生き方を実現できるかーー支援するヒューマンキャピタリストは150名超え、注目したい3つのポイント

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ニュースサマリ:個人の夢やスキルを財産にして取引できるソーシャルネットワークFiNANCiE を運営するフィナンシェは3月29日、支援者として登録するヒューマンキャピタリストが150名を突破したと公表している。起業家でエンジェル投資家としても活動する古川健介(けんすう)氏や、Forbes JAPANの高野真氏、コルクの佐渡島庸平らが新たに加わった。

FiNANCiEは個人を企業のように見立て、そのスキルや夢を支援するソーシャルネットワーク。「ヒーロー」に認定された個人が発行する「ヒーローカード」を購入して必要な資金を提供することができる。また、購入したカードはサービス内のマーケットプレースで取引することも可能。

現在クローズドでの登録を進めているヒーロー(被支援者)についてはこのような考え方で選定をしているそうだ。

「そのヒーロー自身に何かを達成したいというような明確な目標があり、さらにその達成するために支援を必要としている人(資金だけでなく、何か特別なスキルなども)テーマとしては、今のところはどこかに特化させる訳ではなく、上記に該当するのであれば多ジャンルの方に登録してもらいたいと考えています(フィナンシェ代表取締役の田中隆一氏)」。

話題のポイント:個人が株式会社のようにふるまうことができたら、世の中はもっとかわるんじゃないか。ーー以前、ブロックチェーン関連の開発を手がけるLayerXの代表取締役、福島良典さんを取材した際にこんな記事を書きました。少し引用させてください。

株式会社「個人」時代ーー企業が株主から資金を集め、プロジェクトを成長させ、得られた収益を配当して還元する。資本主義経済が編み出したこのスキームを「個人」でもワンクリックで使えるようになったらどういう世界がやってくるだろうか?

例えば美味しいワインの造り手がいたとする。彼はワンクリックでプロジェクトを立ち上げ、共感する人たちから資金を集める。ワインが出荷されるまでの数年間、その約束を担保するためにチケットを支援者に発行する。

その年の葡萄はデキが良く、期待値が上がったとしよう。彼がそれを伝えると発行されたチケットは値が上がり、購入した支援者はワインの出荷を待たずにそのチケットを取引し始める。造り手は自信作を生み出す基盤を手にし、支援者はリターンを手にする。最終的な購入者はワインを美味しくいただく。個人になれば価値創造のバリエーションは無限大に膨らむ。参考記事:株式会社「個人」時代を実現するLayerXーー福島良典氏のビジョンを紐解く

これを具体的に形にしようとしているのがFiNANCiEです。インタビューでも触れている通り、この考え方は別に今、始まったわけではありません。最も一般的となった例がクラウドファンディングです。

ブロックチェーン技術による「権利のトークン化」についても、大手クラウドファンディング「Indigogo」がセキュリティトークンを発行して不動産権利の販売を実施しているので、斬新なアイデアというよりは正統進化と考えた方がいいかもしれません。もっと言えば、国内にはVALUやタイムバンクというアイデアが先行しています。

ではFiNANCiEは何が異なるのでしょうか。私は3つの点に注目しています。

  • 支援者をヒューマンキャピタリストとファンに分けたアイデア
  • 売り抜けや買い占めを避ける仕組みを作った開発チーム
  • 國光宏尚さんというセンターピン

支援者をヒューマンキャピタリストとファンに分けたアイデア

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今回公表された150名のヒューマンキャピタリストたちは、それぞれ投資や起業といった世界では知らない人がいないような第一級の人たちばかりです。

しかしここでひとつ疑問が湧きます。彼らは正直言って、ここで個人投資してお金を稼がなければならないような人たちではありません。投資家として設立しているファンドの運用総額は、おそらく合算で千億を超える規模です。こういう人たちにFiNANCiEは何を期待しているのでしょうか。

答えは目利きです。

通常、クラウドファンディングでは支援者と非支援者の2者に分かれてコミュニティを形成するのですが、FiNANCiEには「ヒューマンキャピタリスト」という役割をひとつ追加することで「影響力ある人が投資している人物は期待ができる」という方程式を使おうとしているのです。オンライン投資のプラットフォーム「AngelList」のシンジケートという機能に似た仕組みです。

個人が活躍する時代、どうやってその人を見つけるのかという課題をキュレーションの仕組みで解決するアイデアと考えればいいかもしれません。

卵(ヒーロー)が先か、鶏(ファン)が先か、というコミュニティロンチの問題に対して彼らは明らかに「飼育者(ヒューマンキャピタリスト)」を先に持ってきています。逆に言えば、彼らがどういう人たちを支援するか、そこに注視するとコミュニティ全体が俯瞰できるようになるかもしれません。

売り抜けと買い占めを避ける仕組み

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株式会社個人のファイナンスを実現するにあたって、最も難しいのが数多い資金調達のやりとりを限りなく「自動化」させる手法です。例えば株式会社では、相場操作やインサイダーによる取引など、人為的に起こされる事件を監視する窓口として金融庁に「証券取引等監視委員会 」が設置されています。上場企業約3600社が対象だから人的な監視が実現できているわけで、これが個人の数になればとてもじゃないですが細かい不正を防ぐことは不可能です。

最も分かりやすい不正が売り抜け・買い占めです。VALUをめぐるインフルエンサーによる不正な取引で大損をした事件は記憶に新しいかもしれません。そこでFiNANCiEはブロックチェーン技術を使ってヒーローカード(トレーディングカード)の取引を「自律的な」ダッチオークション方式にしました。

この仕組みの何がうれしいかというと、Financieはあくまでヒーローの夢を応援したいので、お金持ちが大量に買い占めて人々にいきわたらないことをある程度防ぐ目的があります。

もし買い占めたければ、3倍以上の単価で入札する必要があるため、より多くのファンにカードを少しでも手にしてもらいやすくなることを意図しています。参考記事:【Financie】ブロックチェーンで人をカード化して売買できるサービスを作ったので解説する

「自律的」と書いたのは彼らが使ったBancorという仕組みなのですが、書き出すと長くなるので興味ある方は参考記事などをご一読いただければと思います。

実は、あともうひとつ、株式会社における「四半期開示」にあたる流動性イベントをどうやって自律的に再現するのか、という問題があります。この辺りは仕組みというより、ヒーローとして参加している個人がどのような動き方をするのかにもよってくるので、コミュニティが動き出してから考察してみたいと思っています。

國光宏尚さんというセンターピン

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若かりし日の挑戦する國光宏尚さん(フィナンシェ・個人提供)

FiNANCiEを考える上で重要な「目利き」と「自律的な取引」の仕組みについて考察してみました。仕組みとしてはよく考えられていると思う一方、「魂」の部分についてはやはりこの人、創業者の國光宏尚さんのことを取り上げないわけにはいきません。

彼の取材で忘れられない言葉があります。6年前、彼を長らく支援しているインキュベイトファンドの本間真彦さんとの対談中に「彼って嫌われることないんですか?(インタビュー中は別の表現)」と聞いた時のことです。

「いや、そんなことはないよ」とほぼ即答だったんですね。これは鮮明に覚えています。

仕事でストレスを感じないことはないので、小さな感情の揺れみたいなものは当然あると思いますが、それ以上に「くにみっちゃん」には人に何か「ええよ」と言わせる魅力があるんだと思います。

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6年前のインタビュー起業家・投資家対談

参考記事:【投資家・起業家対談】「オールイン」を三回繰り返したら世界に届くーーインキュベイトファンド本間氏×gumi國光氏(3回連載)

人の魅力というのは不思議なもので、言葉や数字では言い表せない、雰囲気のようなものを持っています。投資家や起業家は自身の再現性がないことを理解しつつ、沢山の能力ある人たちに出会ってその魅力を「発見する力」を持つようになったのかもしれません。

FiNANCiEに期待したいポイントの最後、それは本当に頑張る、能力ある人たちを引き寄せる仕組みのことです。國光さんはその最初のひとりです。彼が中心になって開発チームが集まり、「くにみっちゃんがやるんなら」と支援者が集まりました。

ここには人の雰囲気を感じとれる人たちが多くいます。もし、この人の持つ精神的な輪が広がれば、奇跡的に大きな仕組みを作ることになるかもしれません。彼が言う、新しいソーシャルネットワークが本当に成立し、個人が株式会社のように自律して活動できる世界がやってくるかどうか。

彼らの新しい挑戦に引き続き注目したいと思います。

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