
今日公開になりましたが、AI(人工知能)によるパーソナライズ教材「atama+(アタマプラス)」を展開するatama plus社が大型調達を公表しました。創業2年で20億円の累計調達もさることながら、現在、150教室が導入待ちの状況になっていることからもその注目度・期待値の高さが伺い知れます。
そしてこの期待値を生み出す源泉となるのがatama plusのチームです。現在、45名ほどの方が正社員としてこのプロジェクトに取り組んでいるのですが、創業2年という若さでこの陣容は異例といってよいと思います。同社代表取締役の稲田大輔さんにお話聞いているのですが、この裏側にはいくつかポイントがありました。
- 「自分より優秀な人を迎える」ために必要なオープン性
- 最初の投資家ミーティングで助言された「カルチャーを明文化せよ」
コーポレートを強くする意味

先日このようなコラムを書きましたが、メルカリやSmartHR、ミラティブといった企業としての情報を広く公開しているスタートアップにはある共通点があります。それは「プロダクトが強い」こと、それと「カルチャーに張ってる」という2点です。
参考記事
本当に大きな企業を目指す場合、当然ですがプロダクト一本槍ではいつか限界がやってきます。楽天、ソフトバンク、サイバーエージェント、ディー・エヌ・エー、ミクシィ。創業時のプロダクトが今だに主軸である企業はごく稀ではないでしょうか。創業まだ10年経過していないメルカリでさえ、現在メルペイに大きく張って次の勝負をかけていますし、印刷比較で始まったラクスルは上場前に2つ目の柱である「ハコベル」を立ち上げることで体を大きくしました。
プロダクトに紐づいた人はプロダクトがダメになると企業を離れます。しかし強いコーポレートに人がついていれば、次の打席に立つことができます。これはミクシィ時代の経験を元に、メルカリの小泉文明さんがお話していた内容で、2010年以降のスタートアップのカルチャー作り、PR戦略に大きな影響を与えた一言だったと思っています。

稲田さんたちもカルチャー作りに対して非常に真摯でした。現在、彼らのチームはその多くがリファラル採用で、やはり他社同様、非常にオープンな環境を作っているそうです。オフィスには壁がないですし、事業に関する情報も事業計画など含めて開示しているという話です。
そこまで情報に透明性を与える理由について、稲田さんは「リスペクト」を挙げています。つまり、自分より優秀な人たちに入ってもらうのに、その人たちに対して隠し事をすること自体、尊敬をしていないことの裏返しになってしまう。このリスペクトの考えが現れているのが「バリュー」です

ミーティングルームには「Think beyond」のペンと「Speak up」の付箋が置いてあります。週一回、振り返りのミーティングではこのペンでとにかく気がついたことをオープンに書いて共有するという時間を設けているそうです。
そしてこのカルチャー推進を強くアドバイスしたのが、彼らに投資するDCMベンチャーズの日本代表、本多央輔さんなのだそうです。
カルチャーを明文化せよ
「カルチャーを明文化しなさい。カルチャー作りはもっと後のステージで行うことなんて思うかもしれないが、ユニコーンになったスタートアップたちはみな、最初からカルチャーを強固なものに保ってきた。もっとわかりやすく誰もが覚えられるようなものにして、常に意識できるように」(稲田氏のメモより。本多氏の発言として)
2018年2月、これは稲田さんにもらったDCMとの初回取締役でのミーティングでの一コマです。本多氏は恐らく、プロダクトの強さはもう間違いないと確信してこのような主旨の発言をされたのでしょう。2017年4月が創業、シードラウンドの公表が2018年3月なので相当に早い段階でのアドバイスだと思います。
しかし、これに近いことをやった企業があります。メルカリです。彼らもまた、サービスが確実に踏めば拡大すると「直感」したタイミングで小泉さんが参加しています。2013年7月にサービス公開してから約5カ月後の取り組みでした。ここからあの有名なMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)が早々に生まれ、創業5年、上場前後で800人規模のチームへとつながることになります。
プロダクトが強いことが大前提です。しかし、その奇跡的なPMFをクリアした時に取り組むべき課題が何であるか徐々に明確になってきました。なお、現時点でatama plusには稲田さん以外に「カルチャー担当」という専属の方がいるそうです。これはPR担当とは別の役割になります。

スタートアップの情報公開をメディア、取材者という立場、かつ自分自身もスタートアップしてみた経験から眺めてみて、カルチャーへの投資が簡単でないことは非常によく理解できます。プロダクトもままならない状況でいくらPR(パブリックリレーションズ)を強化しようとしても、穴の空いたバケツに水をいれるのと同じで、投資した内容が企業カルチャーという資産にはなりません。プロダクトをピボットしてしまっては積み上げたコンテンツも無駄になります。
しかしプロダクトが間違いない状況になれば話は別です。今度は「企業」として社会とコミュニケーションする能力を問われます。ここが欠如している企業に入りたいと思う優秀な人はいないでしょう。プロダクトのアイデアやグロースについては2010年以降、スタートアップの科学が進み、資金調達状況も随分と良くなりました。今後、各社が道を分けることになるのは、間違いなく「人」です。いかに誠実に一緒に人生を共にする人たちと向き合うか、スタートアップの創業者・経営者のカルチャーに対する姿勢が問われることになりそうです。
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