情報銀行時代「自分のデジタルデータは自分で管理」するScalar DLTーービジネス効率化の旗手たち/Scalar代表取締役・山田氏/深津氏 #ms4su

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本稿は日本マイクロソフトが運営するスタートアップインキュベーションプログラム「Microsoft for Startups」による寄稿転載。同プログラムでは参加を希望するスタートアップを随時募集している

前回からの続き。本稿では、エンタープライズSaaSやインダストリークラウドに注目したサービスを展開するスタートアップにインタビューし、どのような生産性向上の取り組みがあるのか、その課題も含めてお伝えしています。

改ざん検知性・スケーラビリティーの両立を実現する分散型台帳ソフトウェア「Scalar DLT」の開発を進めるScalar代表取締役でCEO/COOの深津航氏、同じくCEO/CTOの山田浩之氏にお話を伺いました(太字の質問は全て筆者)。(取材・編集:増渕大志

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Scalarが解決していること:高い改ざん検知性と高いスケーラビリティを有し、電子的な契約を実行するためのデータベース基盤であるScalar DLTを開発・提供するScalar。一つのユースケースとして、近年関心が高まりつつある「情報銀行」の提供を目指す事業者に対し、パーソナルデータの利用等に関する契約を管理するソリューションテンプレートを提供する。

この連載では「ビジネス効率化の旗手たち」として、効率化を図っているクラウドサービスを取材しています。手掛けられているサービスは、分散型台帳ソフトウェアを活用された個人情報のオーナシップマネージメントということですが、具体的にどの様な特徴を持ったものなのでしょうか

深津:Scalarでは「Scalar DLT」という高いスケーラビリティーと改ざん検知性を両立させた分散型台帳ソフトウェアのR&D・販売をしています。Scalar DLT自体はプラットフォーム型でご提供させて頂いており、その上にドメイン特化型でミドルウェアやソリューションテンプレートの研究開発を進めている段階です。

「分散」というキーワードを聞くと、社会トレンド的にはブロックチェーンが思いつきます。関連性はあるのでしょうか

山田:概念的には、Scalar DLTを始めとする分散型台帳とブロックチェーンは近いものです。双方において、暗号学的ハッシュ関数や電子署名を用いてデータ構造自体に改ざんを検知できる機構をもっていたり、システムの管理を分権することにより改ざん性を高めるという発想です。僕らのScalar DLTは、ビットコインのような誰もが参加できるパブリックなネットワークではなく、データベースを構成するネットワークへの参加者が事前に決まっているプライベートネットワークにおける利用を想定しているものです。

プライベートブロックチェーンとScalar DLTとの差異は

山田:そもそもScalar DLTの開発を始めたきっかけとして、現在あるプライベートブロックチェーンにおける実装の多くは、設計や原理がパブリックブロックチェーンの発想に引きずられすぎており、データベースの歴史が無視されているという課題意識がありました。改ざん検知性自体は面白い観点ですが、そこにとらわれ過ぎていて、スケーラビリティー等その他必要不可欠な部分がおろそかになっているんです。

そこで、ブロックチェーンがもつ高い改ざん検知性をもちつつ、スケーラビリティーを可能な限り高いレベルで実現する基盤として「Scalar DLT」の開発をはじめました。つまり、他のブロックチェーンとの大きな違いの一つは、「高いスケーラビリティーがある」というところです。例えば、計算機資源の追加によってほぼリニアに処理のスループットが向上します。

深津:ビジネス的な観点でも、Scalar DLTはユースケースを見据えて設計しているという点が特徴的です。例えば、情報銀行等におけるパーソナルデータの利用等に対する契約管理や、サブスクリプションや保険などのエビデンス管理など、電子的な契約が利用者の増加によって増えるような、スケーラビリティーと改ざん耐性の両方が求められるユースケースに特化しています。

分散型台帳(DLT)がどのようにパーソナルデータと結びつくのでしょうか

深津:ユースケースの一つには、世界的に話題となっているパーソナルデータにおける同意の管理があります。欧州ではGDPR、米国カリフォルニアではCCPA、日本では個人情報保護法の改正と「情報銀行」がこれに当たります。ヨーロッパにおけるGDPRの動きが分かりやすく、パーソナルデータを人権の一つとして捉え、オーナシップを付与させようという取り組みです。この領域において、同意を管理する仕組みとして、弊社のScalar DLTをもとにした情報銀行ソリューション・テンプレートの提供を始めています。

タイムリーな話題でいうと、LINEが個人情報の登録で1000円分のコインを配っていますね。300億円かけているとか

深津:まさにパーソナルデータの1つである本人確認の事例です。一般的に、クレジットカードなど本人確認にかかる手数料は1人あたり3000円と言われています。しかし、現在は基本的に人の手を介してこれらの作業は行なわれているんですよね。

例えば保険業界でも、契約書類などはマイクロフィルムに入っていることが多く、ビルや倉庫を利用した保存方法となっています。しかし、これらを参照する機会はほぼない。それにも関わらず、デジタル上にデータを保存することは、改ざんされる危険性があるため電子的に保存するためには、いくつかの障壁があります。

ドキュメントのワークフローを効率化する仕組みなどで、「ガイドワイヤー」などが導入されていますが、大きなシステム投資をしてデジタル化した方が効率的であるということなんだと思います。

なるほど。ユースケースは他にどの様な分野を想定しているのでしょう

深津:パーソナルデータ以外にも、サブスクリプションにおけるユースケースを想定しています。今は定額サブスクリプション型が多いのですが、今後は従量課金型も多くなっていくと予測しています。利用者が「自分が本当に利用したのか」を確認する仕組みが必要であり、そこにうまくはまると思っています。

サブスクリプションエコシステムにおける、分散型台帳の活用がなかなか想像つきません

深津:例えばNetflixのような動画視聴サービスにコンテンツを提供していた場合、コンテンツ提供事業者は、自身が提供したコンテンツがどの程度利用されているかは、動画視聴サービスを提供している企業を信用するしかありません。一方、利用者は個別に課金されるコンテンツの利用によって追加課金を要求された場合、現段階で「そのコンテンツを私は見ていない」と証明する方法は存在していません。

この動画視聴サービスの例でいえば、自身の利用履歴というパーソナルデータを、動画視聴サービス提供企業以外が正しく運用されているのか管理できる仕組みに需要が出てくると考えています。

プロダクトの話に移らせてください。Scalar DLTは既に実用可能な段階なのでしょうか

山田:Scalar DLTは既に実用可能な状態です。MVPである1.0の実装は完了し、改ざん検知性やスケーラビリティの検証を丁寧にしてきました。また、内部で実行するトランザクションが本当にどのようなケースでも正しく実行できるのかというところにかなりの時間を使って検証してきています。ネットワークを構成するノードがクラッシュしても、ネットワークが分断しても、ノードの時間がバラバラでも、システムが正しく動き続けるというのは実は非常に難しいのですが、1年くらいかけて検証し続けてきた結果、問題等は起こらなくなりました。このような分散システムの検証に注力しているところも他のブロックチェーン企業とは大きく違うところかなと思っています。

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システム導入までに際し、何か大きな課題などあったのでしょうか

深津:たとえば、情報銀行の導入検討においては、単なる同意の管理だけではなく、システムのログまで保全として欲しいという要望がありました。また、保険契約の仕組みにおいては、規約上書面で確認するという形になっていました。このため、デジタルの仕組みだけでは構築できない領域があります。そのため、法制度の改正も見据えて提案しなければならない領域があることもわかりました。

山田:大きな課題というほどのものではないですが、ソリューションテンプレートを作るにあたってクライアントをどうやって実装するかが少し悩ましかったです。スマホアプリにすると処理の内容やUI/UXの柔軟性は高いですが、開発に時間がかかるしアプリのダウンロード数や生存率をあげるためのコストが意外に高いので、初期はブラウザで始めたいという要望が多くありました。この実現のため、Scalar DLTのスマートコントラクトをブラウザから実行できるようにする機能追加するなど、諸都合に応じた工夫が必要でした。

なるほど。市場規模の想定は

深津:パーソナルデータを用いたデータ流通市場は、国内では現在約2兆円の市場があると考えています。今のところこの分野は、データブローカーやアドテック企業が主なプレーヤーとなります。これらのプレイヤーの全世界の総売上を人口で按分すると、年間$240/人になります。これを日本における18歳以上の人口に掛け合わせると、約2.4兆円となるという算出方法です。

これから個人情報への需要が上がるにつれ、市場規模も拡大が期待できる

深津:そうですね。さらに、また、VRM(=Vender Releationship Management)市場の成長も捉えると約60兆円の市場が立ち上がると言われています。このうち同意の管理の部分を弊社が獲得していくことを狙っています。また、その他にも、改ざん耐性や完全性の証明を必要とするe文書法などの法律に対する事業領域があります。こういった市場を含め、直近2年間で数億円の売上を目指していきます。

最後に、DLT関連事業のプロトコルレイヤー開発企業として感じる、今後の業界トレンド予想について聞かせてください

山田:ブロックチェーンや分散型台帳の利用においては利用者やアプリがそれぞれの方法で秘密鍵を管理することが推奨されていますが、実はそこが結構面倒なので普及が進みづらく、課題であると思っています。ただ、FIDO2等が普及することにより、秘密鍵を利用者側で保持することがブラウザとして標準になってくると、この辺の敷居が一気に低くなると思っています。

深津:今後3年くらいは決済は小口化、大量トランザクションに向かう傾向が続くと感じています。一方で、サブスクリプション型のビジネス市場の拡大も進んでいます。これにより、決済は月次にまとめて行う形が一般的となります。その結果、決済は大口化、トランザクションは減少して収束していきます。

一方で、各種サービスにおける利用実績のエビデンス収集領域にも着目しています。つまり、サブスクリプション提供企業がサービス提供企業に対し、自社サービスの利用実績を証明し自動的に支払いを実行する、スマートコントラクト市場の可能性が大きく成長すると感じています。

ありがとうございました!(取材・編集:増渕大志

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