「僕らはただ、輪の中心にいるだけ」、35万の共感者をインスタで集めるyutoriが新規事業に向け資金調達

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yutori(ゆとり)代表取締役の片石貴展氏

Instagramで総勢約35万の共感者を集めるyutori。彼らにとってInstagramのフォロワーは「服を買ってくれるお客様」でなく「yutoriが発するカルチャーに共感する仲間」だ。

いまやD2C事業やインフルエンサーブランドを展開する企業も増えつつある中で、昨年「インスタ起業」のワードを広めたのは彼らだろう。

そんなyutoriがまた一歩踏み出す。2019618日、同社はプレシリーズAラウンドでの資金調達を実施した。引受先となったのはNOW、アカツキ、KVPと個人投資家の野口圭登氏、中川綾太郎氏。調達金額や株式比率、払込日などの詳細は非公開だ。

調達資金は既存で運営する「古着女子」などInstagram上で展開するファッションコミュニティ事業および新規事業に充当する予定としている。

poolやInstagram上で販売されるひとくちのファッションアイテム

yutori20186月に創業メンバーでアカツキ新規事業部出身のCEO片石貴展氏、同氏の大学時代の友人であるCOO松原俊輔氏によって合同会社として設立された。その後、エンジェルラウンドとして一回の資金調達を530日に公表し、法人格を株式会社に変更。創業の詳細は片石氏のブログにも綴られている

Instagram上でファッションコミュニティの「古着女子」「古着男子」やオリジナルブランド「9090(ナインティナインティ)」「dabbot.(ダボット)」「ひとくち」を運営する同社。古着やボーイッシュ感を軸にしたファッションブランドを展開しており、全てのアカウントのフォロワー数は約35万を超える。

古着の仕入れは国内外の数十の流通経路を複数確保、ブランドアイテムの制作は提携工場と実施しており、新品と古着の両方を取り扱う。流通金額や量は非公開。201812月には、ブランドのポップアップやイベントが可能なスペース「pool」もオープンした。

「デジタルオーガニック」で見ている人にストーリーを伝える

ブランド「ひとくち」の1週間コーデセットに同梱される手紙

同社でトレーナーやワンピースを購入するのは18歳から22歳程度の女性がメインだ。Instagram13投稿、インスタストーリーやインスタライブなどの動画やライブコンテンツは週に3回配信されている。

文学少女的な雰囲気を持つ「ひとくち」、部活少女的なスポーティーファッションの「9090」とブランドの特徴は様々だが、これらのファン層に共通する点が「何かしら闇(コンプレックス的な部分)を持っている人が多い」ことだと片石氏は話す。

「ガーリーでかわいい女の子がよりかわいくなるブランドではない」と話す彼らのブランドには、「自分でも絶対に見たくないエゴな部分や承認欲求を見つめる」というテーマ的な根幹があるーーより詳しく説明しよう。

彼ら的哲学では「有名になりたいけど恥ずかしい、かといって諦めきれるほど悟れない」ような葛藤を「こういう自分も見ないふりをしないべき」と寄り添うスタンスをとることを決めている。つまりファッションブランドの「クールでかっこいい!」をアウトプットするのではなく、ある種の自己実現をファッションというアイテムを使って一緒に叶えさせることを目的としている。

片石氏は自分たちのカルチャーについて次のように話す。

SNSで一部を切り取って演出と補色をすることで、それ以外の角度は自分ですら見えなくなる。そして『わたしは何者?』が発生してしまう。

デジタル化が進む中で僕たちはデジタルジャンキーでもフルオーガニック(リアルだけに寄り添う)でもない、デジタルオーガニック(つまりデジタルもリアル部分も含めて大事)であろうと思います。トレンドも追うし、SNSも見るけど囚われない」。

さて、何故こんな価値観的な部分を書いてきたのか。それは彼らが35万を超える共感を集め、数十万フォロワーを獲得しているインフルエンサーの協力を集め、発売したコーディネートセットを数分で完売させることができた理由を紐解いてみたかったからだ。

furuzyoのある投稿のインサイト/同社提供

この価値観はアウトプットにも反映されている。たとえば、写真やイケてるモデルの写真を投稿するのではなく「おそろいだともっと可愛い。」といったストーリー性や自身がこのアイテムを購入した時にどうなるのかイメージがしやすい投稿をする。

今回の取材で、yutoriが本誌に投稿インサイトを公開してくれたのだが(上部画像)この投稿では334913のリーチを獲得している。

他にも、企画に応募した人のInstagramのテイストから1週間の着回しをイメージして発送する一週間着回しコーデセットを販売、販売する服には「仲良く食べる飴ちゃんブラウス」名前をつける。1枚で4000件、Instagram上の保存がされている画像もあるそうだ。

彼らはスタートアップとしてもちろん売上や拡大を目指しながら、「既視感のないオンラインとオフラインのバランスの良いビジネス」を展開していくことでユーザーへの価値提供に挑む。

1年でやらないことを決められるようになった資金調達フェーズ

写真左よりVapes代表の野口圭登氏、アカツキ執行役員石倉壱彦氏、同社COO瀬之口和磨氏、同社CEO片石 貴展氏、NOW代表家入 一真氏、KVPの御林洋志氏

ちなみに既存事業のInstagram以外での販売(オフラインを除く)は「Instagramでできることは多い」という理由でいまのところ検討していないそうだ。1年目は模索しながら独自コミュニティを開拓し、2年目では「やらないことを決めていく」ようになった。

今後はファッションコミュニティ事業を深掘りしつつも、既に社内的にはスタートを切っている新規事業の拡大を目指していく。詳細は非公開ということだったが、ミレニアルカルチャーに関与のあるサービスであることやInstagramを軸にした別領域も新事業では展開するような方向性は示してくれた。

また、今回の調達に伴い社外取締役にクリエイティブディレクター梅田哲矢氏、外部アドバイザーにGANGIT取締役の岡田一男氏、NEWTHINK代表の栗田祐一氏が就任し、事業面の強化を測る。「自分が描く理想にはまだまだ足りない」と話す片石氏やインスタ起業からはじまったyutoriが周囲を巻き込み、ミレニアルコンテンツカンパニーとして確立していくスタートを切った。

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