ネットを使ったギフトサービスの公開から7年、ピボットを重ねてたどり着いた引き出物宅配サービス「POSTAL」が正式ローンチ

by Masaru IKEDA Masaru IKEDA on 2019.9.13

長年スタートアップを追っかける仕事をしていると、ご無沙汰していた起業家から連絡をもらえるのは嬉しい瞬間だ。

今から7年前、THE BRIDGE(当時は Startup Dating)では「Gift Kitchen」というサービスを取り上げた。贈る相手にあわせてカタログを作成し、自由にギフトを選んでもらえるようにするサービスだ。当時、我々は西麻布で毎週イベントを開催していて、その機会にも登壇してもらった記録がある。来日取材に訪れていたメディアパートナーの e27(シンガポール)も Gift Kitchen のことを取り上げた

そんな Gift Kitchen を運営する LEMO の創業者で CEO の小川学氏から久しぶりに連絡をもらった。苦難の道を乗り越えつつユーザの声に耳を傾け、ピボットにピボットを重ねた結果、行き着いたサービスが順調なのだという。

デジタルからアナログへのシフト、引き出物需要を取り込む

Gift Kitchen(画面は2012年当時のもの)
Image credit: Lemo

Gift Kitchen が紹介された7年前、贈られる側だけでなく贈る側にとってもギフトを自由に選べるというコンセプトは画期的に見えたが、小川氏によれば、サービスローンチから数ヶ月経ってもユーザのトラクションは絶望的で、マネタイズには程遠い状況が続いたのだという。

筆者の記憶が正しければ、幅広いラインアップを揃えるために、Gift Kitchen はいくつかの E コマースサイトからスクレイピングして商品を陳列していたはずだ。仕入れチャネルも少なく、ユーザからオーダーを受けると、小川氏らが自ら E コマースサイトで商品を購入し、それを代わりに発送する、という時期もあったのだそうだ。小売価格で仕入れているわけで、当然利ざやはない。

自分たちには、(ギフト商品を卸してくれる)ブランドとのネットワークとか、ノウハウも無かった。我々のカタログを作るためのソリューションを入れてもらおうにも、そんなに簡単には入れなかった。(小川氏)

そんな中、小川氏らはウェディングの機会に活路を見出した。カタログをデジタルから紙に変え、自由に組み合わせシャッフルできるカードにすることで、結婚式の引き出物に使えるのではないか、というユーザからのアイデアだった。業界的にも、引き出物全体の約8割がカタログで選ぶ形になっている中、この方法は受け入れられやすかった。カード形式のカタログからギフト(引き出物)を自由に選べる仕組みは、「SELECTS」としてローンチに至った。

SELECTS には贈る側(結婚式で言えば、新婚夫妻)の予算に合わせて、ギフトの価格帯に複数プランが用意されている。しかし、実際に贈られる側が選ぶギフトは、必ずしも価格ピッタリの商品になるとは限らない。あらかじめ設定されたプランよりも安い価格の商品が選ばれることもあり、SELECTS ではその差額をキャッシュバックする制度を設けている。これは、ウェディング業界の引き出物サービスとしては珍しいサービスで、ユーザから人気を集める一つの理由になっているそうだ。

SELECTS
Image credit: Lemo

カタログ+内祝+引き出物、ウェディングの3点セットを自宅で受取可能に

結婚式をはじめとする慶事における内祝の扱いは、時代とともに変化しつつあるが、本来の内祝は、何かに対する返礼というよりも親しい間柄の人に贈ることで、喜びを分かち合おうというものだ。結婚式の披露宴で引き出物やカタログをもらっても、その後の二次会やパーティーなどで荷物になることもあり、手ぶらで帰りたいという潜在的なニーズも存在する。

SELECTS の売上が立ち上がり始めた中で、ユーザからまた新たな声が届き始めた。ギフトのカタログだけではなく、引き出物も自宅に直接届けられないか、というのだ。物理的には不可能なことでは無かったものの、ここではウェディングという特有の機会と、物流システムのハードルが立ちはだかることになる。

  • ギフトを贈る側から突然届くので、贈られる側は不在のことも多い。結構な確率で、再配達になってしまう。
  • 引き出物には、生菓子が選ばれるケースもある。数日にわたって再配達が続くと保存期間が過ぎ、送付元に戻ってしまうことがある。
  • カタログや縁起物を宅配便で届けると送料が1,000円を超えてしまう。全体の商品予算から考えると、これはかなり割高。

これらの問題をなんとか解決できないかと考えていたところ、小川氏らはあるものに目を付ける。郵便局のゆうパケットだ。ゆうパケットは、暑さ3㎝まで・3辺合計60㎝まで・重量1kgまでの梱包物を350円で届けてくれる(大量発送にはボリュウムディスカウントが適用される)。郵便受けの口の大きさが許せば、郵便局は不在であってもこれを郵便受けに投函していってくれるし、万が一、入らない場合でも再配達の対応をしてくれる。

LEMO ではこのゆうパックの許容範囲ギリギリのサイズの紙容器を用意し、それにスダチの飴、特別あつらえのバームクーヘン(縁起物)、SELECTS で開発したカタログのカードを詰め合わせたパッケージを開発した。郵便局さまさまということで、サービスの名前も「POSTAL」だ。POSTAL のパッケージはそれなりの大きさと厚みがあるものの、試しに拙宅のマンションの郵便受に投函を試みたところ、問題なく挿入することができた。

POSTAL で届くパッケージ
Image credit: Masaru Ikeda

結婚式や披露宴は挙げなくても、ギフトだけのウェディングさえ可能に

家に居ながらにしてお祝いの品のやりとりができる体験は、新たなビジネスチャンスを生み出すかもしれない。昨今、その煩わしさ、費用などから結婚式や披露宴が敬遠される風潮があることも事実だが、「POSTAL を活用すれば、式や披露宴は挙げなくても、ギフトでウェディングのお祝いの気持ちを共有できる」と、小川氏は新たな可能性の開拓に自信を見せる。

バーチャルリアリティ(VR)を使った会合やパーティーを支援するスタートアップも現れる中、例えば、より多くの人に祝ってもらうために、結婚式や披露宴は VR 空間で開催し、それにまつわるお祝いの品は POSTAL でやりとりするということも可能だろう。POSTAL の中に決済のための QR コードを入れておけば、新婚夫妻は祝儀を受け取ることも現実的だ。

LEMO がこの7年で辿った道筋は、当初、思いっきりデジタルな方向へ振り切ったと思いきや、それが意外にも伝統的な機会にまつわる需要の中で花が開かせ、そして、その機会をまた新たに革新させようとしている。偶然とはいえ面白い立ち位置にいるスタートアップだ。

小川氏は SELECTS や POSTAL がテクノロジーを活用したサービスではないと謙遜しつつも、来年に向けて、ウェディング業界にとってインパクトを与える新たなサービスを開発中だという。新サービスについては明らかにしてくれなかったが、THE BRIDGE でローンチのニュースを届けられる日を楽しみに待ちたい。

POSTAL で届くパッケージ
Image credit: Masaru Ikeda

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