【日本で応用も】途上国向けのユニークなレンディング・ビジネス3選

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Image Credit : Tala

日本で参考にされる海外のフィンテック企業といえば、そのほとんどが欧米圏のサービスかもしれません。理由として、日本市場と近い所得基準やニーズを持つユーザーを持ち、こうしたユーザーが抱える課題を解決するサービスや技術が登場しやすいことが要因として考えられます。

しかし、フィンテック市場での参考事例は欧米だけでなく、東南アジア・アフリカ・南アメリカなどでも多く登場しており、日本のスタートアップが彼らから学べることも大いにあると考えています。

たしかに途上国のフィンテック企業のほとんどは、未だ金融にアクセスできていないユーザーに対し、金融サービスの利用機会を提供・拡大するものを主な目的としているため、日本から誕生するサービスとは根本的にその設計思想が異なります。また、ほとんどのサービスは先進国で展開され成功したサービスのコピー版のようなもので、真新しさに欠けるというのも事実です。

ただ、それでも金融インフラの未熟さという環境だからこそ生まれる、独特な視点・アイディアをベースにしたユニークなサービスがいくつか存在しています。”途上国のフィンテック”と、ひとまとめに一蹴できる訳ではないのです。そのため、こうした異なる設計思想や独自のビジネスモデルを、模倣という形ではなく部分的に抽出し、国内向けのプロダクトに転用できる要素があるという視点が大切です。

以上を踏まえて本記事では、近年大きな躍進を見せる途上国を中心に誕生・拡大している、ユニークかつ真新しいフィンテックを、特にローンやクレジット分野のサービスに限定し事例を3つ紹介します。以下のサービスを参考に、国内のフィンテック領域の起業家・エンジニアが新しいアイディアや視点を獲得できれば幸いです。

なお、以下で紹介する事例は、全て過去1年の間にBridgeで筆者が実際に記事として取り上げたスタートアップ達です。ここでは基本的な概要と、その大きな特徴に限定して解説しますが、詳細が気になる場合はリンクから元記事を読んでいただければと思います。

1.「Payjoy」 – 与信効率を最大化する、返済延滞に応じ作動するロッキングシステム

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Image Credit : Payjoy

2015年にメキシコでサービスを開始し、今や南アメリカやアフリカ、インドなどの地域にも展開している「Payjoy」。同社が提供しているのは、スマホローンの債務者が返済を延滞した際にスマホの利用を停止させるロッキングAPIシステムです。債務者が返済を再開すれば、直ちに利用も再開できる仕組みです。

スマホ・ローンを提供する事業者がPayJoyのロッキングAPIを導入するメリットは、同ロッキングシステムが無い場合に比べて、貸し出し件数、及び返済率を上昇させる効果を持つ点です。実際、ある導入企業は債務者のデフォルト率を50%減少させ、かつ販売許可の割合を10%〜90%まで上昇させることに成功したと述べています。

同ロッキングAPIは、何もスマホだけに利用が止まる訳ではありません。たとえば車や家電など、あらゆるデバイス製品において、債務者の返済が滞った瞬間に利用制限がかかるシステムを組み込むことは可能です。このようなロッキングシステムを活用したローン・ビジネスの促進は、日本市場においても応用案が考えられるでしょう。

同社は今年5月にシリーズBラウンドにて2,000万ドルの調達を実施しています。

・返済できなかったらスマホ停止!「PayJoy」ーー新興国の人々を救うスマホ・ローンが切り開く新たな「金融包摂」の可能性

2. 「Tala」 – スマホ使用履歴ベースの与信と差別排除を目指すデータ規定

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Image Credit : Tala

Tala」はアフリカやメキシコ、インド、フィリピンなどの地域において、消費者の信用データを基に少額ローンを提供する企業です。同社の独特なローン提供方法は、与信審査を行う際のデータソースが消費者のアンドロイド端末の使用履歴や支払い履歴である点です。

途上国地域においては、信用スコアやクレジット・ヒストリーはもとより、銀行口座すら保有していない人々が多く存在します。そのため、先進国で一般的に使われるデータ・ソースに基づいた与信モデルを実施することは簡単ではありません。そこでTalaが目をつけたのが、ターゲットユーザーのほとんどが持っている安価なスマート・フォンに蓄積されたデータです。

また、同社のデータ倫理規定には、バイアスから生まれる差別を排除するため、性別データを信用スコア算出に用いることを廃止しているという記述があります。Talaのこのポリシーは人種・民族・宗教・国籍または性的指向データに関しても同様であり、AIの信用スコアリングに関する差別の懸念を払拭するため、最大限の気遣いがなされていることが分かります。

デバイスの使用履歴をベースにした信用スコア算出は、途上国環境ならではの発明と言えます。一方で差別の危険性を廃したデータ倫理規程に関しては、既存の与信ビジネスを行う企業には無い取り組みとして、大きな先進性を感じさせます。

Talaは今年8月、元Softbank Vision Fund パートナーであった人物が新設したファンド「RPS Ventures」や決済大手「Paypal」などから合計1億1,000万ドルの調達を実施しています。

・人種や性差別要素を除外、新興国向け少額融資 Talaが1億1000万ドルを調達ーービジョン・ファンド投資家やPayPalらが出資

3. 「Indifi」- 与信版SaaS

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Image Credit :Indifi

Indifi」はインドで事業者向けの与信ローンおよび事業者と銀行をマッチングするプラットホームを提供・運営しています。同社の特徴は、一般的な事業者向け融資スタートアップとは一味違う、その独特な与信方法です。

どういうことかというと、彼らはインド国内で拡大する大型テック・プラットフォームと協業し、各プラットフォームを利用する事業者データを取得し、与信審査を実施しています。

具体的には、「Zomato」や「Swiggy」などのフードデリバリー企業に対してはレストラン、「OYO」などのホテルサイトに対してはホテル、「Flipkart」などのコマース・サイトに対してはオンライン・ショップ事業者のデータ(評判・売れ行き)を分析して信用スコアを算出し、ローンを提供するということになります。

日本では、たとえばBASEや楽天などのコマース・サイトが各自で事業者向けに与信及びローンサービスを既に運営していますが、Indifiはこうした与信・ローン機能を独立させ、SaaS化したサービスだと言い換えることができます。銀行の与信能力が低く、プラットフォームの拡大が顕著なインド市場だからこそ誕生・成長しているサービスです。

日本国内でも上述2企業だけなく、メルカリやZOZOなど、既に多くの事業者を抱えるプラットフォーム企業が乱立しています。UberやAirbnbなどの外資参入により、今後もこの流れは加速していくでしょう。そのような状況の中で、Indifiのような与信・ローン機能をアウトソースできるサービスの需要は上昇していくのではないでしょうか。

Indifiはこれまで1万5,000を超える事業者への融資を手がけた実績があり、今年7月にはシリーズCラウンドで2,000万ドル規模の資金調達を実施しています。

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Image Credit : Pexels

さて、以上を踏まえると、途上国で活躍するスタートアップに共通するポイントは、近年急速に普及したスマホや、技術的に成熟してきたデータ・与信アルゴリズムを駆使して、途上国に不足する金融インフラ(信用基盤)を構築していると言えます。

また、ここまで紹介した3つの事例が日本市場で応用できないかと言われれば、そうではないということはもうお分かりいただけていると思います。各サービスがそれぞれ持つ長所に限って言えば、日本のフィンテック市場に先駆けているとすら言えるのではないでしょうか。

欧州の統一規制を基盤に勃興するチャレンジャー・バンクや、中国の巨大決済「アリペイ」や「ウィー・チャット」がいかに先進的か、という話は普段目にするニュースで周知されていると思います。ただ、途上国において、金融機会のアクセシビリティを拡大すべく奮闘するサービスにも、大いに学ぶに値するビジネスモデルが存在しているのです。

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