核融合発電所は何が難しく、いつ完成するのかーーベゾス氏ら220億円出資「General Fusion」の可能性

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Image Credit:General Fusion HP

ピックアップ:General Fusion Closes $65M of Series E Financing

ニュースサマリ:核融合発電所の実現を目指す「General Fusion」はシリーズEで6,500万ドルの資金調達を発表した。同社は核融合による発電で商業化を目指すカナダのスタートアップ。累計調達額は2億ドル(約220億円)を超える。資金はプロトタイプ建設に使用され、2025年から実証実験を行う予定だ。

この調達ラウンドはシンガポールの投資ファンドTemasekがリードを担当し、Chrysalix Energy Venture Capital、Bezos Expeditions、Khazanah Nasional Berhad、Breamar Energy Ventures、Entrepreneurs Fund、SET Venturesなど既存投資家も参加した。

話題のポイント:アポロ計画に由来する言葉「ムーンショット(Moonshot)」を聞いたことがある人は多いと思います。癌の撲滅、環境問題解決、食糧不足問題の解決など、困難で莫大な費用が必要ではあるが、解決したときにインパクトがある社会問題解決に向けたイノベーション創出の総称です。

核融合による次世代エネルギー生成もムーンショットの一種と言えるでしょう。気候変動に影響を及ぼすCO2/SO2/NOxのガスを一切排出せず、火力発電に代わる持続可能なエネルギーを生み出す可能性を持っています。

最近では再生可能エネルギーの発展に期待が寄せられていますが、火力発電に100%代われるかというと現状では見込みが薄いと言えます。環境を相手にする点が不安定であるのに加えて、火力発電は世界の発電の67%に当たる17兆Whを生み出しているため、相当する電力量を埋め合わせる術がないのです。

この点、核融合は電力量の確保の心配はありません。火力発電の数百万倍、原子力発電の約3倍に相当するエネルギーを生成できます。さらに材料は水素であるため海が干上がらない限り枯渇しません(ただし材料の水素は同位体である重水素とトリチウムであり、自然界にはほとんど存在しないため人工的に作製する必要があります)。

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Image Credit:General Fusion HP

大きな可能性に満ちあふれている核融合ですが、挑戦の歴史は古く、実は1930年代から行われてきました。現在、日本を含む35カ国が参加して、250億ドル規模の予算をかけて国際熱核融合実験炉(ITER)の開発が進められています。一方、General FusionはAmazon CEOのジェフ・ベゾス氏を始めとする世界の投資家から2億ドルを集めて実用化へ急速に開発を進めています。

ここまで聞くと実用化まで真っしぐらに進んでいると感じますが、決してそんなことはありません。このまま順調に各プロジェクトが進行したと仮定しても、実用化は2050年前後になると予測されています。

本記事では核融合を実現するのはなぜ難しいのかをご紹介します。今後核融合の話題を見るときの一つの視点にしていただければ興味深く見ることができると思います。

まずは簡単に核融合の原理を説明します。核融合とは原子核同士が合体することです。原子力発電ではウランの原子核が分裂することを利用して発電をしているため、真逆の原理を使っていることになります。

中学理科の復習をすると、原子核は+電荷の陽子と無電荷の中性子で構成されています。核融合には原子核同士をかなり接近させなければならないのですが、原子核が+なので強く反発し合います。そのため、大きいエネルギーを与えて無理やり接近させる必要があります。

この大きいエネルギーは熱として与えます。現在核融合のプロジェクトのほとんど採用されている重水素ートリチウムの場合、約1億℃の熱が必要になります。

難しいのはここではありません。

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Image Credit:General Fusion HP

この温度になると水素はプラズマの状態に変わり、大きな運動エネルギーを持って拡散しようとするのです。拡散して他の材料にぶつかるとプラズマは冷えてしまうため、核融合が行われるように一定の場所に留まらせる必要があります。プラズマを制御する方法、これが核融合を人類の手中に収めるのに最も困難な部分です。また、実験するのも容易ではありません。

核融合研究はプラズマ制御のアプローチで大別することができます。ITERを始めとする多くのプロジェクトで採用されている磁気を使ってプラズマを閉じ込める磁場閉じ込め方式。周りからレーザーを照射する慣性閉じ込め方式。General Fusionでは2つを組み合わせた磁化標的核融合方式を採用しています。

それぞれの長所短所をまとめると下記のようになります。

  • 磁場閉じ込め方式:制御性能が最も高いが、ものすごく規模が大きい
  • 慣性閉じ込め方式:扱いにくい磁場は必要ないが、工学的な課題が多い
  • 磁化標的核融合方式:機械的でシンプルなため安価だが、プロトタイプがないため能力が理論通りかわからない
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Image Credit:General Fusion HP

General Fusionが採用する磁化標的核融合方式は、プラズマを球状に満たされた液体金属の中に入れて、ピストンで液体金属を圧縮するというとてもシンプルな構造です。安価で小さく、目立った欠点はありません。大きな資金を集められているのも頷けるポテンシャルを持っています。

しかし、上の動画で紹介されているプラズマ入射装置、プラズマ圧縮装置(ピストン部分)、音響ドライバーシステムが理論通り駆動できるのかは分かっていません。つまりキーコンポーネントにシミュレーション以上の確証が全くない状況なのです。

今回の資金調達は、構築した理論が机上の空論ではないことをプロトタイプを作製して確かめるために使われます。プロタイプの完成が2025年の予定なので、実用化はさらに10〜20年程度の年月と数十億ドルの追加資金が必要になるでしょう。

果たして核融合は次世代エネルギーとなり、脱炭素化を実現できるのか、そして民間企業がどこまで資金繰りをしながら生き抜いていくのか。長い目で応援していく必要がありそうです。

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