【IPOスタートアップの資本政策解剖】ビザスク編〜第1回「Smartround Academia」から

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スタートアップのニュースサイトを運営していると、伝えやすいことと伝えにくいことがある。伝えやすいのは、サービスやプロダクトのローンチなど新しい何かが始まる話。これと対照的に伝えにくいのは資本政策だ。資本政策は一度間違えると後戻りできない。

会社を何度かやった経験から言わせてもらえるなら、失敗を経ることで資本政策の過ちを学んで次に生かすことはできるが、時間というものが何より貴重な資源である我々にとっては、なるべくなら失敗に要する時間の浪費は回避したい。

失敗の可能性を抑えて理想的な資本政策を組み立てるには先人の知見に頼るのがベストだが、この資本政策に関する知見というのが、世の中ではなかなか共有されない。投資家と企業経営者が経営上の秘密を公開することを嫌ったり、場合によって潜在的な競合に〝塩を送る〟ことになるのを懸念したり、その理由はさまざまだろう。

昨年7月に正式ローンチした「Smartround(スマートラウンド)」は、起業家の資本政策づくりを支援する SaaS だ。以前ならスプレッドシートを使って行っていた業務を圧倒的に効率化でき、策定したプランは、必要に応じて、会社の経営陣同士はもとより、投資家など外部のステイクホルダーとも共有することができる。

スマートラウンドは今月から、Smartround を活用し、IPO を遂げたスタートアップの創業からの資本政策の軌跡を共有してもらうウェビナーシリーズ「Smartround Academia」を開始した。それぞれのスタートアップの CFO や資本政策に深く関わる IR 担当者らが、自分たちの経験を惜しげもなく披露してくれる機会である。

第1回の Smartround Academia (5月15日開催)では、今年3月に東証マザーズへの上場を果たした、スポットコンサル提供のビザスク(東証:4490)が登壇。2012年3月の創業、2013年10月のサービスローンチを経て上場に至るまでの8年にわたる資本政策の裏側を、コーポレートグループ資本政策室長の宮城勝秀氏が解説した。聞き手は、スマートラウンド COO 冨田阿里氏が務めた。

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ビザスクが提供するのは、ビジネス領域に特化したナレッジシェアプラットフォームだ。新規事業の検討や市場調査のニーズがある依頼者が、その分野に知見を持つアドバイザーから講義を受けたり相談をしたりすることができる。依頼者が直接アドバイザーを見つける方法と、ビザスクのスタッフが依頼者に適切なアドバイザーを紹介する方法があり、特に後者が売上の多くを占める。2020年2月現在、アドバイザーの数は10万人を超え、依頼者とアドバイザーのマッチング実績は累積49,000件超。

B 向け SaaS サービスの特徴の一つは、ユーザから料金を前払徴収する点だ。製造業や在庫が必要なスタートアップであれば予め買付費用が必要になるが、ビザスクはマッチングサービスであるため、それも必要ない。また、ビザスクでは、依頼者からの利用料支払には事前購入のチケット制をとっている。前受金が入金されてからアドバイザーには報酬を支払うまでのリードタイムが生まれるため、これが同社のバランスシートにキャッシュポジティブ化に一役買っていると言っていいだろう。

したがって、興味深いことにビザスクは IPO するまでに外部投資家(主に VC )からは2度(シリーズ A、シリーズ A2)しか資金調達を実施していない。キャッシュボジティブであるため運転資金は十分に確保されているため(もっとも、運転資金はベンチャーキャピタルより、信用を獲得できているならデット調達が理想的ではあるが)、VC からの資金は全て事業拡大や加速のために投じることができたと理解できるだろう。

ビザスクの資本政策における細かい数字の推移は上の Smartround の画面(上図)をスクロールして見てもらうとして、ビザスクの創業から IPO に至るまでのタイムラインを要約すると次の通りだ。

ビザスクでは新たに加わったメンバーへのストックオプション(新株予約権)の発行を通算で13回にわたって行っている。数回実施されている株式分割もまた、バリュエーションおよび株価上昇に伴って株式を扱いやすくすること、ひいては、ストックオプションを発行しやすくする意図があったと考えられる。従業員に対して、必要に応じて十分なストックオプション割当ができるよう、資金調達時には外部株主からの理解を得ておくことの必要性を宮城氏は強調した。

なお、2017年10月に実施されたストックオプション発行(第4回)では政策金融公庫に付与されているが、これはビザスクが資本性ローン(デットでありながら、金融機関が資本の一部とみなす性質を持つ劣後ローン)での資金調達時のもの。政策金融公庫は、ビザスク上場後にストックオプションを行使して株式利益を得ることで、ローン貸出の金利に相当する利益を後日確保する契約になっている。

また、2019年6月に実施されたストックオプション発行(第12回)では信託受託者に付与されているが、これはストックオプションの一定枠を預けることで、その時の条件でストックオプションを「冷凍保存できる効果(宮城氏)」があるという。後日、必要な人に対して付与することができる。信託型ストックオプションの設計や行使の方法は各所に資料が公開されているのでここでは詳述しないが、最近では、「SOICO」に代表されるような信託型ストックオプションに特化したプラットフォームも生まれつつある。

一般論として、市場に流通していない未公開株式の価格は、結局のところ創業者をはじめステイクホルダーの「言い値」でしかないわけだが、特に IPO しようとするスタートアップは、IPO に向けて、その株価の算定根拠を各所から求められるようになる。宮城氏は適宜、外部評価者による株価算定を実施することも勧めた。

ビザスクでは事業拡大に向け、宮城氏が所属する資本政策室をはじめ、広く人材を募集している

次回の Smartround Academia は6月12日、マネーフォーワードの資本政策徹底解剖。同社元 CFO の金坂直哉氏が登壇の予定。お楽しみに。

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