【IPOスタートアップの資本政策解剖】マネーフォワード編〜第2回「Smartround Academia」から

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前回のビザスクに続き、今回、資本政策を解剖するのはマネーフォワード(東証:3994)だ。2012年5月に創業し、2017年9月に東証マザーズに上場。当時、今ほどメジャーではなかった SaaS スタートアップの IPO としては先駆け的存在である。今回、マネーフォワードの資本政策を披露してくれるのは、同社を IPO へと導いた当時の CFO 金坂直哉氏である。

金坂氏は東京大学経済学部を卒業後、ゴールドマン・サックスの東京オフィスとサンフランシスコを経て、2014年にマネーフォワードに参画。同社が個人向けの家計簿アプリから、事業者向けの会計サービスへと進化を始めた直後のことだ。昨年までマネーフォワードの CFO を務めていた金坂氏だが、IPO 経験を生かし昨年設立された成長企業向けのフィナンシャルアドバイザリーを提供するマネーフォワードシンカの代表に就任。7月1日付けで、金坂氏が再びマネーフォワードの CFO に復帰就任したことが発表されている

なお、マネフォワードシンカは新型コロナウイルス感染拡大を受けて、今年3月に VC とスタートアップのオンライン面談マッチングを支援する活動を実施したほか(すでに終了)、5月には投資家向けに保有する未上場スタートアップ株式の売却先を紹介する株式売却アドバイザリーサービスを開始している。

今回の聞き手も、スマートラウンド COO 冨田阿里氏が務めた。

<これまでのマネーフォワード関連記事(一部)>

<上場前(2012年5月〜2017年9月)>

マネーフォワードは2017年9月に上場を果たしたが、上場前段階で44億円、上場後も市場以外で143億円を調達するなど、事業成長に成長資金を常に調達し続けている。最初の資金調達となったのは、創業から7ヶ月後の2012年12月。代表取締役の辻庸介氏の古巣マネックス証券のベンチャー投資部門からだった(当時のマネックス・ビジネス・インキュベーション、現在のマネックスベンチャーズ)。マネーフォワードにとって初めての外部資金調達(2,000万円)だったが、同社ではこれをシリーズ A ラウンドと位置付けている。

シリーズ B〜C ラウンド位までは VC 調達が多いが、シリーズ C〜D ラウンドあたりからは地方銀行や事業会社からの調達が増えている。マネーフォワードは、B 向けの販売チャネルとして地方銀行や会計事務所などとの協業を行っており、事業ステージの進捗とともにベンチャー資金よりは事業パートナーからの資金注入が増えていることがわかる。ちなみに金坂氏がマネーフォワードに参画したのも、同社が シリーズ C を始める2014年のことである。

スタートアップ経営者にとって資金調達のリードを掴むことは重要ミッションの一つであり、この日の視聴者からは金坂氏に対し、自社に合った VC や投資家にたどり着く方法、投資家とのリレーションに対して質問が多くなされた。質問の順序は前後するが、金坂氏の説明を要約すると概ね次の通りだ。

  • アーリーステージにおいて特に重要なのは資本政策。後戻りできず、投資家とのやりとりで飲んだ条件や契約が、結果的に上場で足を引っ張ることが起こりうるのがエクイティファイナンスの怖さだ。バリューエションも、ダイリューションも、上げ過ぎても下げ過ぎても良くない。多面的な角度から考えることでリスクを下げるべきだと思う。
  • 投資家との契約にあたっては自社にあったアドバイザーと相談し、二社以上の投資家と話すことで、投資家との契約における交渉力を維持すべきだと思う。
  • エクイティファイナンスにかけた時間は、2014年の時で半年(シリーズ C)、2015年の時で4ヶ月(シリーズ D1)、その次は数ヶ月くらい(シリーズ D2)。回数を経るにつれ、普段からリレーションが取れているため、短くできるようになっていった。
  • 投資家とは常にコミュニケーションし、「次にファイナンスするときは声をかけてください」と言ってもらえる関係性を確立しておく。あるラウンドのファイナンスが終わった瞬間から、投資家には次のラウンドに参加してもらう可能性があるという位置づけ。
  • 地方銀行から資金を調達できた背景には、ビジネス面でのアライアンスが進んでいることが大きく影響している。アプリを作るとか、クラウドサービスを進めるとか、そういった協業関係が無いと、地方銀行からの資金調達は難しいのではないか。
  • バリュエーションが100億円を超えてくると VC からの調達は難しくなってくることも事実。投資家に対しては、バリュエーションや投資リターン以外のメリットを見せる必要が出てくる。レイターステージで事業パートナーからの調達が増えるのには、そういう理由もあるだろう。
  • ストックオプションは、基本的に年に1回の形で運用していた。全株式の中で、上場時の何%を割り当てるかは投資家らとの契約の中で決めていた。例えば、ストックオプションで付与できる割合を全株式の15〜20%程度に設定しておき、創業から上場までを4年と見るなら、1年あたり4〜5%程度は付与できる、というようなイメージ。誰にどのように付与するかについては、社員が100人程度の規模までは評価制度が確立されていなかったので、CEO や CFO が相談して決めていた。
  • どの投資家から、バリュエーションをいくらにして、どれだけ調達するかについては、まずは自分たちのビジョンを明確にし、それに必要な資金を算出する。そして、どの程度のバーンレートをカバーして、その金額で何年持たせられるかを計算する。マネーフォワードの場合は、比較的厚めにファイナンスしてきた。ストレッチしたバリュエーションでファイナンスができたのは幸運だった。そして、投資家には、事業上の関係やフィーリングも含め、一緒の船に乗ってやっていける人や企業を相手に選ぶべきだ。
  • 投資家に伝えていくストーリー(業績見通しの計画)については、事業のステージによって違ってくる。2014年くらいまでは(シリーズ C あたり)売上はまだ1億円に届かない位の業績だったので、今後どういうプロダクトをローンチしていくのかを話していた。2015年(売上4億4,000万円)、2016年(売上15億4,000万円)くらいになると、トラックレコードで将来成長を見せられた。売上がまだ無いときは SAM(実際に提供可能な市場規模)や TAM(獲得可能な最大市場規模)で、売上が出てきたら実績の延長線で話せるようになる。
  • 資金調達は CEO 中心でも CFO 中心でもできるが、どんな体制で臨むかはその会社次第。資金調達に表面的なスキルよりも、むしろ、投資家との信頼関係を築いたり、最後までやり切れる人だと見てもらえたりすることが大事。投資家も経営者を2〜3年見ていればそのあたりが分かってくるので、安心して投資ができるようになる。投資家に対しては、真摯かつ愚直に事業に取り組んでいる姿を見せ続けるというのが王道。ファイナンスが必要になってから、ある日投資家に出会い、「いきなり投資を決めてください」と申し出る選択肢は勧めない。

<上場(2017年9月)>

スタートアップ経営者にとって、自社の業績が上場基準を満たしたとして、いつ上場するかというのは熟慮すべき課題。最近では、ファンドの大型化によって、資金需要だけで考えれば VC からの調達でも充足することができるだろう。しかし、「金は天下の回りもの」であるゆえ、経済のある部分がスタックすると資金調達を含め経済全体がスタックする危険を指摘する CFO は多い。

マネーフォワードでは、シリーズ E ラウンドを迎えた2016年前後から経営陣の間で上場に向けた話が出始め、「上場を最速で目指そう」という意見の一致から2017年夏にターゲットを定めた。マネーフォワードの初期投資家の代表者でもあり、辻氏の心の師でもある松本大氏が言う「上場はタイミングが難しいがゆえ、できるときにするのがいい」という以前からの進言も参考にしたそう。

タイミングは重要であるが、タイミングは簡単にずらせるものでもない。したがって、シンプルに考えた結果、最速を目指した。すべての会社に当てはまらないかもしれないが、マネーフォワードの場合、IPO できるときに IPO して次の成長に備えるということで、そういうタイミングになった。(中略)

海外ではかなり大きくなるまでは IPO しないという傾向がある。これは IPO しないというよりも、大きくならないと IPO できないからという感じ。日本の場合はマザーズという新興市場があるので、IPO できるタイミングで IPO というのもありだし、大きくしてから IPO するというどちらも選択肢としてありだと思う。(金坂氏)

<上場後(2017年9月〜)>

マネーフォワードが2020年4月に公開した第1四半期の決算説明会資料によると、同社の株主のうち機関投資家比率は過半数を超え、海外機関投資家が36%、国内機関投資家が16%を占める。昨年、日経が発表した売上高100億円以下の上場企業「NEXT1000」を対象にした調査では、2018年度に海外投資家を増やした会社1位はマネーフォワードだった(89社)。別の日経記事によれば、これら海外からの公募増資は、主に M&A 資金などに充てるためのものだ。

実際のところ、クラビス(2017年11月)、ナレッジラボ(2018年7月)、ワクフリ(2018年8月)、スマートキャンプ(2019年11月)と、マネーフォワードはスタートアップ買収にも積極的だ。マネーフォワードの海外投資家からの資金調達は、日本の SaaS や会計系サービスなどへの強い期待の現れと見ることもできる。また、買収はしていないが、Chatwork(東証:4448)や BASE(東証:4477)といった上場を果たしたスタートアップに対する投資家でもあった。

そういったこともあり、マネーフォワードはこれまで海外投資家への IR 活動を積極的に行ってきた経緯がある。IPO 以降、通算で三度にわたる海外からの資金調達を行っており、1度目は IPO と同じタイミングで、旧臨報方式(アメリカを除くアジアやヨーロッパなどの世界にオファリングをする)により30億円、2度目と3度目は海外公募増資(Global Offering)により、それぞれ66億円(2018年12月)と47億円(2020年1月)を調達している。1度目の調達時に旧臨報方式を選んだのは投資家からの需要が大きかったこためで、英文でのドキュメンテーション作成も必要とされなかった。

金坂氏によれば、M&A する場合と、マイナー出資する場合では、投資先スタートアップの選定基準が全く異なってくる。マネーフォワードの M&A 戦略はプロダクトを増やす M&A とユーザを増やす M&A に大別されるが、これまではプロダクトを増やす方に終始してきたそうで、今後はユーザを増やす M&A 案件も手掛けていきたいという。また、M&A では買収先のスタートアップの経営者をマネーフォワードグループの経営陣に迎えることを前提とするため、会社間や人の間のカルチャーフィットが重要となる。資本提携や出資の場合はこの限りではなく、投資先のスタートアップの経営者が IPO までやり切れるかどうかを見極めるそうだ。

また、上場後は、いかに株主に長く会社を愛してもらうか、もっと言えば、株を持ち続けてもらうかというのはテーマだ。安定株主をどうやって確保するかという視聴者からの問いには、金坂氏は次のように応えた。

安定株主という概念は信じていない。どんな株主にも、売りたい時に売る権利があるからだ。ただし、投資家とはコミュニケーションを密にとって、長期にわたって株式を保有してもらえるよう努力はしている。投資家とは立場が違うので、株式を売り出すタイミングについては交渉はできても無理は言えない。普段からしっかりした IR を心がけ、マネーフォワードの場合は大口の株式売却があっても、株価に影響を与えずに、それをいい投資家にまた買ってもらえている。

<その他>

  • 株主が多いと株主とのコミュニケーションが大変になる、と懸念する経営者もいる。マネーフォワードの場合、ミドルステージ以降は、事業パートナーに株主になってもらったものが多い。そのため、彼らに対しては投資家への説明以前に事業における説明があり、月1回ペースでの KPI 報告会、その後、社長や担当者も交え飲み会という形で運営していた。株主=事業パートナーに毎月会っているので、次のファイナンスの情報も伝えやすい。複数の株主が同時に同じ場所に集まれ、効率的に意見を交換できる点でもよかった。
  • 新型コロナウイルスの影響で資金調達が難しくなるのも事実だろうが、工夫をする方法はある。まず、資金が足りないからと言って新規投資家に連絡を取る前に既存投資家と密にコミュニケーションをとるべきだ。新規投資家と既存投資家では、そのスタートアップに対して持っている情報量が違うし、既存投資家がサポートできないのに新規投資家がサポートするのは難しい。既存投資家の支援を獲得し、それから新規投資家を呼んでくるべき。営業上ムダなコストはとことん削ること。

マネーフォワードシンカのクライアント企業

金坂氏が代表を務めるマネーフォワードシンカでは、スタートアップが IPO などイグジットを目指す上でのフィナンシャルアドバイザリー事業を行っている。昨年9月の創立から、スタッフメンバーは総勢10名体制にまで成長。マネーフォワードの上場を通じて得られた知見や経験をもとに、2021年までにスタートアップ100社の支援を目指しているそうだ。

また本セッション終盤には、先月のエルピクセルの元取締役横領事件にも触れられた。CEO は CFO に全幅の信頼を置くものだが、悲しいことにこういう事案が時々世の中を賑わせてしまう。今回の事件では、銀行口座の通帳コピーが細工されるという単純なトリックで経営陣が騙されてしまったわけだが、マネーフォワードを使えば、口座情報はリアルタイムで金融機関からアグリゲートされるため、その情報をオンラインで経営陣が共有すれば、同じような問題は生じない、とのことだった。

スマートラウンドは、起業家の資本政策づくりを支援する SaaS「smartround(スマートラウンド)」のユーザが去る6月16日で1,000社を超えたと発表した。smartround のローンチは昨年6月22日なので、1日平均約2.8社のペースでユーザが増えたことになる。また先頃、これまでの「資本政策 smartround」「経営管理 smartround」「会社紹介 smartround」「ライブラリ smartround」に加え、新たに「株主総会 smartround」をリリースした。株主総会 smartround の機能の一部は、先月ケップルがローンチした「株主総会クラウド」と競合する可能性がある。

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