「瓢箪から駒」ならぬ、マスクスプレーからVTuberの香り——コロナ禍で成功した、CODE Meee×ホロライブ×電通の取り組み

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左から:CODE Meee 代表取締役の太田賢司氏、電通第3ビジネスプロデュース局の野上賢悟氏
Image credit: Dentsu

コロナ禍における人々の行動変容は、スタートアップの事業計画にもさまざまな影響を及ぼしている。ピボットを余儀なくされることもあれば、既存事業の追い風となるケースもある。今日紹介するのは、そのどちらでもないかもしれないが、パンデミックを端緒にしたアイデアが期せずして新たなプロダクトを生み出し、異業種のスタートアップとの協業で大きな商機に結びついた事例だ。

香りのスタートアップ CODE Meee については、BRIDGE でも何度か伝えてきた。ここ数年、彼らは C 向けのアロマサービスだけでなく、香りをエンターテイメントビジネスや環境改善に役立てる B 向けのサービスにも注力してきた。気分を変えるという香り本来の効能に加え、香りで課題や問題を解決する「ソリューション・フレグランス」というコンセプトに言及したのも興味深かった。

パンデミックの第一波が到来し最初の緊急事態宣言が発令された昨年4月、CODE Meee はマスク専用のプレミアムアロマスプレーを発売した。外出時にマスクの常態的な装着が求められるようになる中で、このスプレーをマスクに吹き付けると、ウイルス予防、抗菌、消臭の効能が認められるというものだ。

CODE Meee は自社サイトでこのスプレーを販売しつつ、同社の創業者で代表取締役の太田賢司氏は、さらなる事業拡大を目指し、以前採択された「GRASSHOPPER」での繋がりを頼りに、電通にこの商品の展開について相談した。当初は電通社内や取引先に販売してもらうことを目論んだようだが、電通第3ビジネスプロデュース局の野上賢悟氏は事業にする観点から可能性を模索した。

プロモーションの予算は無いという。広告代理店である電通が、そんなプロジェクトにどう取り組めるか意義を見出すのは正直難しかった。マーケティングの 4P(Product、Place、Pricing、Promotion)から見るといい商品だが、マスク用のスプレーは競合も結構多くレッドオーシャン。1,700円という価格はハイエンドだし、そのまま展開しても難しいかもしれないと感じた。

どう売るべきか、野上氏は電通のチームメンバーや太田氏と検討を重ねる中で、あるスタートアップと組むことでアロマスプレーの価値を最大化できないか、との仮説にたどりつく。VTuber プロダクション「ホロライブ」の成長が著しいカバーとの協業だ。CODE Meee が VTuber 5人の香りをカスタマイズして制作、マスクスプレー「HOLO AROMA!」として発売する企画だった。

香りという商品で差別化を図るには、熱狂度の高いコアなファンに楽しんでもらう必要があると考えた。実在しない2.5次元のキャラクタにちなんで、香りというリアルな要素を届けることができれば、ユーザにはリモート環境では難しいキャラクタの存在感を身近に感じてもらえるのではないか。(野上氏)

このアイデアは見事に的中し、昨年6月に公開された HOLO AROMA! の発売事前告知動画は再生数30万回を超え、公開日には「ホロアロマ」が Twitter のトレンドワードで4位にランクインした。同製品の購入予約を受け付ける CodeMee の Web サイトには開設以来最大人数が訪問し、初回ロットの受付では1時間に2,000個以上の HOLO AROMA! が完売したという。

「HOLO AROMA!」のパッケージ。夏色まつりさん、百鬼あやめさん、癒月ちょこさん、潤羽るしあさん、白銀ノエルさん、5人の香りが発売された。
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科学に裏打ちされたプロダクトを持つスタートアップ(CodeMeee)と、没入感や熱狂度の高い IP を持つスタートアップ(カバー)、そして、彼らを引き合わせたのが普段はナショナルクライアントを相手にしているが多い電通だった、という点で面白い事案ではないだろうか。実験的な要素が大きかったこともまた、プロジェクトを成功に導いた大きな要因の一つと言える。

当初のマスク用アロマスプレーは、電通サイエンスジャムとの連携でプレ実証していた、脳波による感性把握技術にもとづく「ソリューション・フレグランス」の知見を活用して開発したもの。もともとは機能に寄せていたものだったが、思いっきりブランディング、つまり情緒側に振った。ブランディングに寄せたことで、商品の何を誰に売りたいかが明確になり刺さりやすくなったと思う。(太田氏)

電通としては VTuber の新しいグッズを作り出すという立場だった。タレントを起用して、その方の香りを作るといった企画だったとしたら、条件的に実現することは難しかったかもしれない。今回は VTuber というのが非常に親和性があった。彼らは必然的に画面の向こう側にいて、一方、香りは画面を越えていける。カバーもまた、面白い企画だと快諾し楽しんでやってくれたのは大きい。(野上氏)

起業家はアイデアの事業化に力を注ぐあまり、視野が狭くなってしまうこともある。それゆえ、事業に深くコミットしていないステイクホルダー以外の話に耳を傾けたり、異文化・異業種の企業やスタートアップとからんだりすることが肝要だ。コロナ禍でセレンディピティがもたらす化学反応は生じにくくなっている。電通のみならず、さまざまな大企業が触媒の機能を果たすことに期待したい。

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