Warrantee、米やシンガポールで新ビジネスモデル「無料保険サービス」に参入へ——SPAC経由の米IPOも視野?

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Image credit: Warrantee

※この記事は英語で書かれた記事を日本語訳したものです。英語版の記事はコチラから

Warrantee のことを BRIDGE で初めてカバーしたのは、今から7年前の2014年2月のことだ。大阪市などが主催するスタートアップイベント「HackOsaka 2014」のファイナリストに選ばれた庄野裕介氏(Warrantee 創業者)は、ひとり暮らしを始めた際に買った家電が片っ端から壊れていたという稀有な体験をきっかけに、保証書を電子化するサービス「Warrantee」を立ち上げた。

保証書は往々にして必要な時に出てこない。そんな保証書を電子的に管理できれば便利だろうとサービスを作ったものの、最初はどうやって企業にお金を払ってもらうか、ユーザをどうやって増やすか、まったく将来のことは考えてなかったという。「保証書を登録してくれたら、保証がもう1年無料でつく」というようなことができないか。それが、彼らの考える新しい保険サービスの原点だ。

Warrantee は2014年末にクックパッド(東証:2193)から出資を受け事業シナジーの模索を始める。庄野氏はこの経験から、「(Cookpad が)無料でありながら、これだけユーザを惹きつけられるのはすごい」と、改めて無料サービスの強さというものを痛感させられたという。Warrantee が現在主軸にしようとしているサービスが無料にこだわるのには、そんな背景がある。

家電の保証(≒保険)なら安いので(企業側がユーザの情報を得る対価として)無料にできるけど、自動車とかだと金額が大きくて無料にはできない。でも、例えば、それを1年を365日で割って、ユーザ1人の1日分として200円出してください、ということなら、できるだろうと。そして、そのユーザの情報をあげますよ、ということなら可能だろうと思った。(庄野氏)

インシュアテック参入時の記者会見。左から:Warrantee 代表取締役 庄野裕介氏、東京海上日動 常務執行役員 大塚祐介氏
Image credit: Warrantee

2017年、それまで「保証書の電子化」を謳っていた Warrantee は突如として「保険」を語り始めた。同社は保険各社との協業や独自運営でオンデマンド保険に参入、この経験を通じて、日本の保険業法がどうなっているか、政府諸官庁とどのような調整が必要か、身を持って学ぶことができたという。そして、このオンデマンド保険の保険料を無料にしたのが Warrantee のいう「フリーインシュアランス」だ。

例えば、エアコンメーカーのダイキンと、不動産フランチャイザーのセンチュリー21・ジャパンと組んだ例。ダイキンはエアコンを多数保有する不動産オーナーと繋がりたいと思っていたが、エアコンは家電量販店や住設会社を通じて販売されるため、エンドユーザであるオーナーの情報は持っていない。

そこでダイキンに協賛してもらうことで、Warrantee が不動産オーナーにエアコンの追加保証を無料提供。その代わりに、ダイキンは不動産オーナーの情報を手に入れることができた。ダイキンにとっても、不動産オーナーにとっても win-win な関係が生まれた。(庄野氏)

最初は家電から着手したフリーインシュアランスだが、現在では例えば、数千万円する医療機器を保有するクリニック向けのメニューも用意している。医薬メーカーや医療機器メーカーの医療機関への営業アプローチと言えば、MR(メディカル・レプリゼンタティブ)による現地訪問や電話攻勢を想像するが、医療従事者は多忙であることも多く効率的ではないらしい。クリニック向け無料保険への協賛対価としてメーカーに営業チャネルを提供すれば、医療従事者も話を聞く時間を快く確保してれる、というわけだ。

メーカーはあらゆるものを、売り切り型からサブスクへと持っていこうとしている。サブスクにすれば、どのユーザが今どの商品を使ってくれているか情報を把握できるし、例えば、商品が時代遅れや壊れる前に、購入後10年経ったら、ニューモデルの新品を追加費用無で送る、という運用だってできる。この時流の中で、フリーインシュアランスは大変相性がいいと思っている。(庄野氏)

この無料保険の考え方は、モノでなくてもヒトにも応用が可能だ。例えば、骨粗鬆症の症状が見られた人には、無料保険でカルシウム補充サプリメントを配布する、クリニックでの検診結果に応じて、無料保険で健康増進ができるサービスにキャンペーン加入できる、といった具合に。自分の情報を渡すことに抵抗を感じる人は一定数いるだろうが、メリットがそれ上回るなら理解は得やすい。

日本は国民皆保険制度があるので、高度な医療が安価で受けられる国。それに比べると、アメリカもシンガポールも皆保険制度が無く、病院やクリニックによって価格もまちまちなので、無料の保険サービスが参入しやすい素地がある。アメリカは健康保険だけでなく自動車保険も高い。シンガポールは新しいことを始めるのに適した地なので支社を置くことにした。(庄野氏)

Warrantee のコアチームは東京や大阪にいるが、コロナ禍で2週間の隔離という不便を強いられながら庄野氏が単身渡星を繰り返していたのは、こういう理由からだったのだ。売上額などは不明だが、このフリーインシュアランスの事業はかなりうまく行っているようで、関係者によると、Warrantee は近い将来、SPAC(特別買収目的会社)を通じたアメリカでの IPO を目指しているようだ。

今年2月には、日本のスタートアップのアメリカでの IPO を支援する SPAC として、Evo Acquisition Corp のスキームが明らかになった。Warrantee のような世界市場に活路を求める日本のスタートアップが、今後アメリカでの IPO を目指す事例は増えてくるだろう。

<参考文献>

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