KDDIがVIE STYLEと協業、ブレインテックで臨む「リアルレーサー育成プロジェクト」とは

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

KDDI は5月、直営店の au PAY マーケットダイレクトストアで、VR レーシングシミュレータ「DRiVe-X au PAY マーケットモデル」を発売した。価格は税込349万円(リリース時より販売価格変更)。そもそも KDDI がなぜ VR レーシングシミュレータを発売するのかだが、それを理解するには「リアルレーサー育成プロジェクト」について知る必要がある。

KDDI はこのプロジェクトで、鎌倉を拠点に、脳科学と IT を組み合わせたブレインテックを展開するスタートアップVIE STYLEと協業している。プロジェクトやシミュレータ販売の背景について、KDDI で 5G や XR 関連のサービス企画開発を担当し、このプロジェクトのマネージャーを務める伊藤悟氏と、au PAY マーケットダイレクトストアで販売を決めた au コマース&ライフの草野美紀氏に話を聞いた。

「リアルレーサー育成プロジェクト」について詳しく教えていただけますでしょうか。

伊藤:ある自動車メーカーの方から相談を受けたんです。市販車を開発する上で、モータースポーツという過酷な環境のもとで作っては壊し、作っては壊し、を繰り返すことでいいクルマができるんだそうです。ただ、若者の車離れと呼ばれる現象も重なり、モータースポーツの競技人口が減っていて、新しい人が入っていけるような間口が広い状態でもない。

コロナの影響で外国人選手はなかなか来れない。そんな中で、今まで通りいいクルマを作り続けるには、競技人口を増やしてモータースポーツ業界の水準を維持していかないといけないというんです。KDDI に相談があったときに、レーシングゲームの操作は実際のクルマの運転に近い部分もあるので、センスあるゲーマーをレーサーに育て上げられるんじゃないか、という仮説を立てました。

これまでも使われていたシミュレータでのトレーニングに、脳波というものをトッピングすることで KDDI らしさを出せるのではないかと。VIE STYLE さんと取り組んでいる、脳科学と IT を組み合わせたブレインテックは、これまでにも2つのプロジェクトを展開していて、今回のリアルレーサー育成プロジェクトは第3弾になります。

KDDI が協賛する、レーシングチーム「TGR TEAM au TOM’S」

これまでは、おすすめの音楽を聞くと心が落ち着くね、とか、サウナと脳波の関係でいえば「ととのう」とアルファ波が出るよね、とか、リラックス系を扱ったものが多かったのですが、スポーツは集中力を求めるものなので、むしろアルファ波が出てはいけない分野なんです。そういう点で、これまでとは違った脳波のアプローチで、モータースポーツと掛け合わせてみたんです。

昨年度シミュレータを購入して、トップゲーマーたちに参加してもらい、脳波を見ながら脳トレをしたところ、何かしらの効果が見られた、ということを昨年度の実績として発表しました(今年3月)。トップランクのゲーマーだったのですが、脳トレによる伸びしろがあったのは意外でした。

そのシミュレータがオフィスに置いてあるのですが、こういうのがあると、いろいろ人が寄ってくるんです。つまり確実にニーズがあって、家に置いたらどうなるのかな、とか、au ショップには置けないけれど、au PAY マーケットダイレクトストアならば置けるかな、とか思いまして。プロ仕様の一番高性能なモデルは500万円ほどですが、コンシューマモデルが出ると聞いていたので、その販売に至ったということです。

シミュレータは約300万円と価格も高く、au PAY マーケットダイレクトストアで扱われる上でハードルもあったと思いますが…。

草野:au PAY マーケットダイレクトストアは EC サイトですが、 KDDIが取り組んでいるような新しい技術や商品を取り入れていくことで、独自色を出していけると思っています。今回のシミュレータの販売は物流面やお客様対応面では大きな課題がありましたが、今回のeモータースポーツとブレインテックを掛け合わせた取り組みは社会的にも意義の高い活動という背景があったため、auPAYマーケットとしても前向きに賛同したいという合意形成は比較的スムーズに行えました。

価格のかなり高いものを直販で、そして、大きなものを搬送するので、イレギュラー対応の運用フローを組み上げるのに苦労しました。CS(カスタマーサポート)や MD(調達部門)などから専門性の高い人にチームに入ってもらい、イレギュラーな運用フローを組み上げることができました。高価なものをネットで買うのは不安ですが、auが培ってきた安心安全のブランドイメージで信頼いただいていると思っています。

リアルレーサー育成プロジェクトでは、今回のシミュレータの販売以外で、au PAY マーケットダイレクトストアと連携していくような考えはありますか?

伊藤:市販・量産体制が整ったら、VIE STYLE のイヤホン型脳波計測ハードウェアをau PAY マーケットダイレクトストアで取り扱いたいと思っています。VIE STYLE は、脳波をもう少しカジュアルなものにするというコンセプトをお持ちなんですよ。例えば、Apple Watch の普及で、人々は歩数や心拍数を意識するようになった。そんな流れが脳波にも来るかもしれない。プロジェクトとの連携で出したいと思っています。

ところで、このシミュレータですが、用途や価格からして、EC サイトに置いても、そんなにたくさん売れるものではないと思うのですが…。

伊藤:冒頭の話に戻りますが、自動車業界としては、モータースポーツはクルマの技術水準を維持するために続けていく必要がある。しかし、カーボンニュートラルが叫ばれる中、このエンタメがこのままの形態で続けることは難しくなるだろう、と考えられています。レースの練習はバーチャル、または、本番もバーチャルを使うとか、移行が進んでいく。それに向けて買ってる人たちがいます。

au PAY マーケットダイレクトストアに商品を置いているのは、そんな取り組みの一環として、一般消費者にも買ってもらうことを期待しています。例えば、高齢の家族には安全性の観点からクルマの運転をやめてもらいたいけど、やめると認知症の進行を早めるという説もあります。シミュレータを使えばバーチャルに運転を継続できます。マッサージチェアよりもシミュレータの方が、おじいちゃんのためになるかもしれない。

いろんな活用法があるということです。

非常に理解が深まりました。最初はものすごいものをオンラインで販売しようとしているなと思っていたんですが、お話を聞けて、背景なども含めてよく理解できました。

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