スマートシティと人流データで共創、unerryが三菱商事を大株主に迎えるまでに至った背景とは

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左から:内山英俊氏(unerry 代表取締役社長 CEO)、曽我新吾氏(三菱商事 都市開発本部 事業開発室 総括マネージャー)

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

unerryは、AIエンジニアとしてのキャリアを持ち、コンサルファームで事業戦略や企業再生などを手掛けた内山英俊氏(代表取締役CEO)により創業。1.1億IDに上るスマートフォンから得られる人流データを解析し提供するプラットフォーム「Beacon Bank」を運営している。主な顧客は、小売・メーカー・自治体などで、小売業の出店計画、顧客分析、消費者向け販促広告、まちづくりなど、多様なビジネスシーンで活用されている。今年7月には、東証グロース市場に上場を果たした。

Image credit: unerry

一方、三菱商事の社内には10の事業グループが存在するが、今回、unerryとの共創相手となったのは複合都市開発グループだ。このグループには、都市インフラ、都市開発、アセットファイナンスの3つの本部があり、曽我新吾氏が総括マネージャーを務める都市開発本部では、三菱商事だけでは実現が難しい事業、特に、住民の利便性を高めるまちづくりを、他社との連携で進めている。東南アジアや国内でスマートシティの開発や運営に取り組む中で、人流データは必須との判断から、unerryに白羽の矢が立ったようだ。

Image credit: Mitsubishi Corporation

三菱商事は2021年4月、unerryに出資した。創業者である内山氏(内山氏個人の保有、内山氏の資産管理会社の保有の合算)に次ぐ持分比率の主要株主だ。コーポレートベンチャーキャピタルから出資を受けることに前向きではなかった内山氏だが、なぜ、三菱商事から大口の出資を受けることにしたのだろうか。unerryが、三菱商事との資本業務提携を決めるまでの経緯と、今後の展望について、両社それぞれの当事者である内山氏と曽我氏に聞くことができた。

出会いから共創へ

三菱商事は国際商社なので世界中のさまざまな企業に投資をしているが、スタートアップとの共創に力を入れ始めたのは、2019年4月開始の中期経営計画の中で言及された、「デジタル戦略部」や「事業構想室」の設置が一つの足がかかりと言えるだろう。事業部門と連携したCVCの部隊が中心となり、キャピタルゲイン追求ではなく、自社の事業に直結し、事業に付加価値がつけられる可能性がある企業との共創を念頭に、日頃から共創を探しているという。

そんな中で、unerryが初めて三菱商事から連絡を受けたのは、2019年4月のことだ。偶然かもしれないが、三菱商事がスタートアップ共創に力を入れ始めた時期と重なる。曽我氏のチームでは、スマートシティ事業のパートナー探しの中で、社内で「unerryとぜひ話してみたい」との声が上がり、アプローチを決めた。曽我氏の部署の担当者からunerryのWebサイトに問い合わせが届いた時の印象について、内山氏は「三菱商事のような大企業から連絡が来たので、最初はウソではないかと思った」と振り返る。

曽我氏は内山氏の印象を、「人流データの分析だけでなく、それに対する対策も含めて、しっかりとロジックに基づいて説明された。非常に説得力があった」と言い、話を進めるにつれ、unerryの競争優位性を認識するようになったという。ただ、大企業においては、担当者が共創先を素晴らしいと評価しても、それだけでは取引に繋がりにくい。まずはPoCが必要との判断から、三菱商事が投資するREITの保有物件を現場に選び、両社はunerryの技術を使ったDXに取り組むこととなった。

Image credit: Mitsubishi Corporation, unerry

unerryがCVCから出資を受けなかった理由

unerryが三菱商事の案件に取り組むことになったのは、最初に連絡を受けてから半年後、2019年の後半のことだ。「正直なところ、お客さんを紹介してくれ、ポンポンと進んでいったのはありがたかった」と、当時のことを振り返る。しかし、資本関係も受発注関係も無いところで、一民間企業が取引先や仕事を紹介し続けてくれる、という気前のいいことはあまり無い。実証が順調に進んでいたことからも、内山氏は「どんな担当者から出資を受けることになるのだろう」と考えていたという。

ところで、内山氏は三菱商事から出資を受けた後も、そして、以前も、CVCから出資を受けることには慎重派のようだ。

オープンイノベーションや事業共創については、正直なところ、有っても無くても、日本全体の経済には大勢には影響が無いと思っている。なぜなら、大企業から出資を受けて、大企業と一緒に働くことになると、スタートアップには、ものすごく大きな調整コストが発生するからだ。

何かをやろうとしたら、大企業の社長や相応のポジションの方と関係性を築くことが重要で、でも、トップを含む人事異動や組織変更で体制は数年で変わるので、また、その変わった先の政治を見て……という調整をやり続けなければならない。

そういった調整をCVCの人ができるかというと、大抵の場合はできない。できる人もいるけど、どちらかという事業部門の人が長けている。(内山氏)

実際のところ、三菱商事のCVCからunerryへの出資話は、一度見送りになったとのことだが、三菱商事は事業部門からの出資という形をとったことで、unerryは最終的にこの申し入れを受け入れることになる。

曽我さんともう一人の担当者が、社内で本当にゴリゴリの調整をやってくれた。unerryはこのドメインではダメです、とか、スマートシティについては、このプランでやってください、とまで具体的に言ってくれたのはありがたい。そこまでやっていただけるなら、もう我々の創業者に次ぐ最大の投資家になってください、ということになった。(内山氏)

曽我氏は内山氏の評価に謙遜しながらも、その時の三菱商事社内の動きをこう振り返る。

出資してunerryの成長を期待するというよりも、一緒になって成長していく、という目線は、元々から双方でズレていないと思っている。成長をサポートする場を提供するには具体的な案件が無いと貢献できないし、出資するからには、それに対する効果が期待され、中長期的な成長が求められる。

こういった考えを全くブレることなく上層部に話ができ、また、上層部は事業との連携こそが大事だと理解してくれたのがよかった。今後も、我々の共創に社としても力を入れていく方向に軸足が向いている。(曽我氏)

共創による変化

Image credit: unerry

unerryは今年7月に上場した。企業は上場する際、証券取引所による上場承認から実際の上場までに、機関投資家に対して会社説明会を実施するが、unerryは三菱商事に加え、旧コカ・コーラウエスト(傘下のCQベンチャーズを通じて)、NTTデータ、電通などからの資本出資実績があったことから、機関投資家らの評価が非常に高かったという。共創の機会を通じて出資した三菱商事もまた、unerryの上場に一役買ったことになる。

また、三菱商事とunerryの提携契約の文書の中には、「三菱商事が他の部署も積極的に紹介する」という一文が含まれているとのことで、三菱グループ傘下の小売部門などにも、実際にunerryが紹介されている。7月に発表された、三菱食品とunerryとの人流データ×デジタルマーケティングに関する提携もこの流れに沿ったものだ。

自らの体験を踏まえて、今後、事業共創を展望する大企業やスタートアップに、極意として、二人はメッセージを共有してくれた。

我々が先兵として出資するが、グループ全体にunerryとの共創を広げていこうとしている。三菱商事社内で言えば、unerryのことを知らない部署はいないだろう。しかし、交通整理をしないと、皆が好き勝手にunerryさんに相談してしまうと混乱を招くので、お互いの目論みや目線を合わせていく作業は常に必要だ。

大企業はスタートアップに出資することを考える前に、まず、小さな取り組みをやってみる、スモールスタートが重要だと思う。大企業とスタートアップでは見ている世界が違うので、そこを取り違えると、互いに長らく付き合っていくことはできなくなってしまうだろう。(曽我氏)

大企業がスタートアップに出資するので、大企業の方がエラいと思われがち。しかし、そう考えるのは違うと思っている。内部留保がある大企業が資金を投資に回す上で、自社内以上に適切と選定した外部企業に投資をし、そして自社の企業価値を上げていこうというプロセスなので、お金を出す側がエラくて、出されている側が弱い、という関係性は間違っている。

しかし、たとえCVC担当者がその関係性は違うとわかっていても、大企業の経営陣や事業部門の方は、そのように理解していないことが多い。その構造を崩せる会社はスタートアップとの共創でも成功するのではないかと思っている。正しい関係性に基づいて、共に目指す事業を創り育てるということが重要だ。(内山氏)

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