コロナ収束で「オフィス戻れ指示」はなぜ起こる?ーーコクヨとoViceに聞く「ハイブリッドワーク」体験とは

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

コクヨと2次元のバーチャル空間提供するoViceは今年8月末、新たなハイブリッドワーク環境の構築を目指した業務提携を発表しました。コロナ禍を前後して大きく変化したワーク・ライフ・バランスにおける様々な課題の顕在化を背景に、両社では分散化した人々が自然とつながる状態を創造する「デジタル・ワークプレイス」の事業化を目指すとしています。

oViceはウェブ上で自分のアバターを他人のアバターに近づけることで話しかけられる2次元のバーチャル空間です。2020年8月にサービスを開始し、コロナ禍の影響によってリモートワーク化が進んだバーチャルオフィスの用途や、オンラインイベント、学生たちが集うオンラインキャンバスなどといったシーンで利用が拡大しました。2022年8月時点で発行されているスペース数は3万件以上だそうです。また、コクヨとの業務委託契約と同日に、oViceはシリーズBラウンドでの45億円調達も公表しています。

一方のコクヨは長期の経営計画として、サステナブルな経営への転換を目指した「長期ビジョンCCC2030」を公表しています。このプロセスにおける中期経営計画(第3次)として2024年度の売上3,600億円を掲げており、その中の事業戦略のひとつとして「ワークスタイル領域」を挙げています。これはコロナ禍によって発生した働く場所の分散化や多様化を背景に定着しつつあるハイブリッドワークの新たなニーズを事業化するものです。

コロナ禍によって仮想化が進んだ「働く環境」を背景に、伝統的な企業とスタートアップがどのように手を組もうとしているのか。具体的な取り組みに向けて歩み出したoViceの代表取締役CEO、ジョン・セーヒョンさんとコクヨで協業に当たっている経営企画本部 イノベーションセンター 副センター長、永井 潤さんにお話を伺いました。

お二人にお話を伺ったところ、提携の発端は両社社員のつながりがきっかけで、今年の春頃にお話がはじまったそうです。記事の冒頭に挙げた通り、oViceもコクヨも共にコロナ禍という大きな社会的変化を背景にその動きを加速させている途上でした。バーチャルからハイブリッドな考え方に広がるoViceと、伝統的な「オフライン」からオンライン方向への新たな火種を探しているコクヨ。

「社名が置き換わったとしても、言ってることが通じるぐらい」そのベクトルに共感を感じた。(oVice株式会社 代表取締役CEO ジョン・セーヒョンさん)

このようにお話されていたジョンさん。春頃に大枠の提携合意を確認した両社は、そこから実務的な枠組みを協議し、8月末のリリースへと駒を進めることになります。

「オフラインは戻る」ただし・・・

コクヨとoViceが取り組むハイブリッドなワークプレイス体験(プレスリリースより)

では、気になる具体的なプロダクト・ビジョンはどのようなものなのでしょうか?コクヨとoViceで見えている景色は若干違うかもしれないと前置きしつつ、コクヨの永井さんは次のように提携の将来像について説明してくれました。

今、在宅ワークや、サードプレイス、コワーキングスペースといった場所で働かれる方が多くなっていますよね。働くシーンを支えてきたコクヨとしても、リアルオフィスの中だけではなく、今後はリモートやバーチャルが当たり前になってくると、そこも含めて「働き方を支える」ことが必要になってくるんです。

特にコミュニケーションは、オフィス空間構築事業の中で今まで我々が大事にしていたところなので、バーチャルにいる人もオフィスの中で働いている人も、同様にコミュニケーションが取れる状態にする、そういったソリューションが作れないかと考えています。

これができれば、リアルとバーチャルが一体した世界としてオフィスを作ることができますので、例えば大都市の大きなオフィスに机が並んでいるという世界観から、もっと人が場所やキャリアに依らないで働ける、そういう新しい世界が作れるんじゃないかという将来像をイメージして今、一緒に動いているところです。(コクヨ株式会社 経営企画本部 イノベーションセンター 副センター長 永井 潤さん)

一方のジョンさんは今回の両社の取り組みを「次にやってくる働き方」へのプロセスだと語ります。オフィスに集まるのが当たり前だったコロナ禍前から、感染症拡大防止を目的にバーチャルへの移行を余儀なくされたことで、新しい働き方への議論が進むことになりました。そしてポストコロナの今、集まって仕事をする意味を再定義しようと人々が動いているわけです。ジョンさんは次にやってくる流れをこう予想していました。

確かなことは「オフラインは戻る」ということです。oViceのように全社員がフルリモートワークであることを前提とした業務フローの場合は別として、既存の企業が100%オンラインに移行することは難しいと思っています。その一方で、オンラインが消えることもあり得ないと考えています。コロナ禍によって例えば、自由な働き方をしたり自分たちのライフサイクルに応じて実家の近くに住んでみたり、自由にそれぞれが決定しながら生産性を高めていくということを体験してしまったんです。これがなくなるのは時代に逆行することになります。(oVice株式会社 代表取締役CEO ジョン・セーヒョンさん)

オフラインとオンラインの良さを融合させるーー。ストーリーとしては素晴らしい一方、課題もあります。ジョンさんが指摘するのはその「割合」です。オンラインとオフラインで働く人が別れた場合、そのコミュニケーションの分断がそのまま会社の分断につながり、会社の分断を恐れる経営陣は結果的に全部オンライン、もしくは全部オフラインという極端な判断をしがちだと言うのです。

その上で両社は、会社にとってオンラインとオフラインの「バランスが取れた」状態を作ろうと現在の協業を進めています。その先にある未来像として、どのような状態でもシームレスに会話が生まれ、かつ、その状況が可視化されている、そんなイメージをお話してくれていました。

両社では現在、開発検討を進める新しいハイブリッドワーク・ソリューションを導入する先として、ある程度の規模がある企業を念頭に進めるというお話でした。抱える人数の多い大手では特に現在のようなコロナ後の対応に追われるケースが多く、働き方に対するベストな回答を求める声が多いのだそうです。

一方のジョンさんは最近の変わったoViceの利用ケースとして、鉄工所での利用を教えてくれました。彼らにとっては思いもかけない利用だったそうで、鉄工所の本社の人たちがバーチャル上に集まり、現場で作業をしている人たちとのコミュニケーションにoViceを利用しているのだそうです。

当然ですが生産工場のような現場がある場合、すべてのワーカーが仮想空間で仕事をすることはできません。しかし、この例にあるようにコミュニケーション中心の本社と現場に分かれるケースは、従来であれば電話や数多くのチャット・メッセンジャーツールがその役割を担っていたはずです。

ジョンさんのエピソードをお聞きして、今後のハイブリッドワークには単なるメッセージツール体験だけではない、ある種の「バーチャル空間」が必要とされる理由があり、そこに両社が求める体験があるような気がしました。

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