事業用EV向け充放電システムで再エネ導入促進目指すYanekara、1.6億円を調達——東大IPC、ディープコア、31 VENTURESから

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Yanekara の皆さん。前列中央左が CEO 松藤圭亮氏、前列中央右が COO 吉岡大地氏。
Image credit: Yanekara

事業用 EV(電気自動車)に特化した充放電システムを開発する Yanekara は24日、直近のラウンドで1.6億円を調達したと発表した。ラウンドは明らかにされていないが、昨年9月のシードラウンドに続く、ポストシードラウンドと見られる。今回のラウンドに参加したのは、東京大学協創プラットフォーム開発(東大 IPC)、31 VENTURES Global Innovation Fund(グローバル・ブレインと三井不動産による運営)、ディープコア。東大 IPC とディープコアは、シードラウンドに続くフォローオンでの参加。

Yanekara は2020年6月、東京大学大学院工学系研究科に在籍し、2020年度未踏アドバンスト事業イノベータに選ばれた松藤圭亮氏(CEO)や、ヨーロッパや日本のエネルギー政策に知見を持つ吉岡大地氏(COO)らにより創業。一基で複数台の EV を太陽光で充電できる充放電機器「YaneBox」、遠隔制御可能な普通充電コンセント「YaneCube」、それらを群制御できるクラウドシステム「YanePort」を開発している。

再生可能エネルギー(再エネ)の普及にあたっては、太陽電池をはじめとする発電装置の普及もさることながら、電力需給のバランスをとることが肝要だ。電力会社は、常に電力の需要をモニタリングしながら発電しているため需給バランスが保たれているが、ひとたび、このバランスが崩れると供給電力の周波数が乱れ、供給エリア全体の大規模な停電につながる。2018年に北海道で起きた大規模ブラックアウトは、地震に起因した発電所停止による需給バランスの乱れから、安全装置が働いたことによる結果だ。

事業用 EV 向け充放電器「YaneBox」
Image credit: Yanekara

電力会社にとっては、再エネで発電された電力を買い取る場合、需給調整が難しくなる。再エネは自然由来の発電であるため、太陽電池なら夜は発電しないし、雨や曇天の日は発電出力が落ちる。しかし、これからの時期、天気の悪い日に限って、暖房で電力需要は高まるし、1日の中での電力需要のピークは、太陽電池の発電出力のピークとは同期しないのだ。かくして需給バランスをとるのが難しいことを理由に、需給ギャップの吸収が難しい地方の電力会社の中には、再エネの新規受入を中断するところも出てきている。

<参考文献>

Yanekara が取り組もうとしているのは、この再エネの需給調整問題だ。YanePort および YaneBox を使えば、電力会社の供給電力だけに頼らず、EV 充電に自家再エネ発電した電力を使うことができる。EV のバッテリが需給のタイミングギャップを吸収し、電力会社の電力線への逆潮流で売電する仕組みにはなっていないので、電力会社の需給バランスには直接的な影響を与えなくて済む。脱炭素効果に加え、エネルギー源が逼迫する昨今、電力会社の負荷軽減にもつながるので一石二鳥と言える。

北九州市で Yanekara のシステムを通じて充電中の EV
Image credit: Yanekara

また、電気は交流と直流を変換(整流)する際にエネルギーロスが生じるが、Yanekara のソリューションを使えば、太陽電池で発電された直流の電力を、直流のまま EV のバッテリに取り込むことができるので、このロスも極小化することができる。Yanekara では先月、北九州市と連携協定を締結し、先週から同市のエコタウンセンターで実証実験を開始した。また、リース大手の東京センチュリーとも提携し、同社傘下の事業会社が提供する EV モビリティサービスに YaneBox をあわせて提供することを検討している。

EV のバッテリに蓄積された電力は、交流に変換し電圧を昇圧することで、隣接する建物で自家使用することができる(調整電源)。天気さえ良ければ、ほぼ際限なく電力を取り出すことができるので、災害時や停電時の非常電源としても有用だ。複数台の EV が一定時間にわたって駐車状態にあり、EV のバッテリを調整電源として活用できるため、2025年のネットゼロで社会からのプレッシャーが高まるだけでなく、コミュニティのバックアップとしても機能する事業用 EV の駐車場に目をつけたところはうなづける。

Yanekara は、太陽電池を電源とした、再エネ充放電のためのクラウド、ソフトウェア、ハードウェアを一気通貫で提供するスタートアップだ。B2C 向けの充電ステーションについては、B2B とは異なる仕組みや知見(例えば、EV オーナーが地図アプリで場所を探せたり、充電時間に応じて課金したりする仕組み)が必要となるため、自らが単独で展開する計画は今のところ無いとのことだ。充放電に関わるテクノロジーがコアコンピタンスと捉え、さまざまな協業先と事業の成長を目指す戦略のようだ。

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