未来世代には「アニマルスピリッツ」が必要、朝倉氏ら70億円規模のシード・ファンド始動

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ニュースサマリー:ベンチャーキャピタルのアニマルスピリッツ合同会社は2月15日、1月17日付での1号ファンド設立を伝えている。投資ステージはシード・アーリーで現在、LP(リミテッド・パートナー)として参加しているのはみずほ銀行、みずほリース、FFGベンチャービジネスパートナーズ、日本交通ら。その他、名称非公開の金融機関、事業会社、個人投資家が参加している。一次募集は完了しており、今後70億円規模まで資金を集める予定。

「未来世代のための社会変革」をテーマに、高齢化や脱炭素など不可避かつ喫緊の社会課題に挑戦する技術を有したスタートアップへの投資を手がける。1社あたりの投資額は数千万円から最大で5億円まで。成長期(ミドルステージ)以降のラウンドについてもフォロー投資(出資先の継続投資)を実施する。また今回の発表に併せて同社では、1社目となる出資先として解体工事の見積りサービス「クラッソーネ」への出資も公表している。

同社では具体的な投資テーマとして、超高齢化社会の課題を克服するための生産性向上、体制確立を目指した「国を守る(DX、AI 、 IoT 、 ロボット、ヘルスケア)」と脱炭素・循環型社会の実現を目指した「地球を保つ(Climate Tech 、自然エネルギー、フードテック、モビリティ、サプライチェーン )」、人々の生き方を変える「フロンティアを拓く(宇宙開発 、 ウェルビーイング、 ブロックチェーン)」の三つを掲げる。

ファンドのGP(ジェネラルパートナー)はアニマルスピリッツ1号有限責任事業組合が務め、運営するアニマルスピリッツ合同会社は朝倉祐介氏と荒木翔太氏が設立した。

スタートアップ冬の時代

投資サイドの財布の紐が引き締められたことがよくわかるグラフ(スタートアップ冬支度、ランウェイは2年分用意せよーーグローバル・ブレインが年次「 #GBAF2022 」開催、百合本氏が激動の1年を振り返る(1)より)

話題のポイント:ミクシィ(※現在の社名は株式会社MIXI)の事業転換やIPO後のスタートアップ・グロースを支援するシニフィアン、グロースファンド「THE FUND」などを手がけた朝倉氏が新ファンドです。なお、アニマルスピリッツでは「THE FUND」の後継ファンドである「みずほグロースパートナーズ1号ファンド」のアドバイザーも務めるそうです。

年始にも書きましたが、2023年のスタートアップシーンはここ5年と大きく変わることが予想されます。

足元を数字でおさらいするとIPOの平均評価額が2021年平均の162億円だったのに対して82億円と半減(※グローバル・ブレインさんの年次イベントレポートより)。IPO件数については2021年の123件に対して94件とそこまで落ちていませんが、やはり気になるのはは今年なんですね。

というのもミクシィなどのネット第二世代、ソーシャルゲームなどで盛り上がった2006年のIPO件数が(当時の周辺市場含めて)188社(前年比で約30社増)と爆発しているのに対して、2008年のリーマンショックの翌年、2009年のIPO件数が19件、2010年が22件と激減しているからです。

年末にベンチャーキャピタリストの丸山聡さん(JVCA VCナレッジ部会委員/元ベンチャーユナイテッド・現在はStarshotPartners, Inc.のGM)と2022年のIPOを振り返ったのですが、公募割れがかなり目立っていて、テック系スタートアップの成長率に対してかなり厳しい目が向けられている印象でした。昨年一番の注目銘柄だったANYCOLORは現在も公開価格に対して4倍ほど付けていますが、足元の利益成長が思ったほどでないとみると一気に急降下し、最高値から半減するジェットコースターぶりです。

当然ながら今年わざわざ株式公開する必要のない企業は公開を手控えるわけで、早速、KDDI傘下となり、現在スゥイングバイ・IPOを目指すべく公開準備に入っていたソラコムが公開を延期しています。さらに東京証券取引所の新規上場も今日時点で承認されているのが昨年の7件に対して2件にとどまっています。底冷えです。

IPO目前のレイターやミドル期のスタートアップはここ5年でやや膨らんだ株価がついてしまっている以上、そのままの株価では勝ってくれる投資家はいません。安くするか、我慢するかの二択です。

そこで注目されるのがシード期です。2009年のリーマンショック後も同様で、海外ではTechStars、YCombinatorをはじめとするシードアクセラレーターが始まったのもこの頃ですし、国内でも2010年にデジタルガレージのOpenNetworkLabを皮切りにKDDI∞Labo、孫泰蔵さん率いるMOVIDA Japanなど数々のシードアクセラレーターが生まれました。

底冷えの冬だからアニマルスピリッツ

アニマルスピリッツ版フライホイール

前置きが長くなりました。そうだ、新ファンドの話でした。

そう、ここでアニマルスピリッツの登場です。もう、名前からしてオフェンスの匂いがプンプンします。このファンドの特徴を朝倉さんにお聞きしたところ、こちらの図を使って説明してくれました。Amazonの有名なフライホイールについてご存知ない方はChatGPTかBingにぜひ尋ねてみてください。

アニマルスピリッツの目指す場所は「未来世代のための社会変革」です。これを実現するためには二つの回転が必要になります。それが人とカネなんですが共にその回転の原動力となるのがアニマルスピリッツなんだっていうわけなんです。

落ち着いて説明します。

つまり、メルカリなどここ10年で成長したスタートアップをきっかけに大手含め優秀な人材がスタートアップに流れ込んできました。これが次の起業人材となり新たな企業を生み出します。これが上の回転。

またIPOだけでなく、ソラコムやカンムなどのように3桁億円の買収、PayPalによる日本のBNPL(Buy Now, Pay Later、後払い)スタートアップ Paidy(ペイディ)買収といったイグジット機会が投資家を動かします。これが下の回転。

なんとなくこのサイクル自体は理解できますが、実際の現場はそんなに綺麗なものではなく極めてドロドロしています。事業ピボットの連続に組織の崩壊、資本政策の失敗、創業者のワークライフバランス問題などなど。こういったちょっと考えられない苦難を乗り越えるために必要なのがロジックを超えたところにあるアニマルスピリッツ、そう、根性なんですよね。これは筆者も経験(悪い方)があるので理解できます。立ってるのがやっとです。いや、立ってなかったな。

リスクマネーについても同様です。注入する側が強い意志をもって投資をするからこそ、強い意見が言えるようになるわけです。

ここ数年、国内ではスタートアップ・エコシステムが成長した結果、シード資金の獲得は難しくないと言われるほどになりました。市況を考えても株価がついていない、もしくは安いシードへのモメンタムが生まれることは容易に想像できるので、かつての「多死多産」が繰り返される可能性もあります。

だからこそ、なんですが朝倉さんたちのように事業経験もあり、かつ、ファンドなどの金融スキームも熟知したプレーヤーがしっかりとした新しい時代の目利きをしてくれることを期待しています。

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