
本稿は、6月28〜30日に開催されている、IVS 2023 KYOTO の一部。
IVS Kyoto、IVS Cryptoが閉幕した。本誌BRIDGEではPR TIMES、およびIVS KYOTO実行委員会と連携したスタートアップの合同製品発表会となるStartup!PR Weekを開催させていただいた。最終的に38社が新製品もしくは提携などのアップデートを発表し、関連する記事を46本公開した。本稿は(ラップアップなど除いて)その最後の一本だ。
今回のIVSは市場最大規模を見込んで1万人の集結を目標にしてきたが、速報値として約1万400名の参加者が京都の地に集ったそうだ。会場となったみやこめっせ・ロームシアターには常時、4、5,000名ほどの参加者が交流していたという。筆者も現地参加していたが、常に会場は参加者の熱気でいっぱいだった。
さて、今回のIVSは前回の沖縄・那覇に引き続き、クリプト勢の勢いが目立った。暗号資産は米国におけるSEC(米国証券取引委員会)の動向からSOLANA(SOL)など主要な仮想通貨(暗号資産)のセキュリティ認定をめぐって不安定な状況が続いたこともあり、対応が明確になっている日本への注目度が高まっているそうだ。こういった背景もあり、海外からの参加者は推定で2,000名以上とも聞いていた(※最終的な集計が出たら追記する)。
そんな中にあって非クリプトのテックで話題の中心だったのがAIだ。ChatGPTの話題を持ち出すまでもなく、生成型のAIは目に見える形で仕事や生活を変えようとしている。何を隠そう、私たちも46記事を出したがこのほとんどにおいてChatGPTのリソースを活用させてもらった。これなしにはこの物量はこなせるはずもない。
AIで変わる人材マッチング精度

さて、生成型のものをはじめとするAIが変革する領域は広いのだが、今回、特に興味深かったのは人材領域のサービスだ。従来、定性的な「人」をマッチングする人材ビジネスにおいて、テクノロジーの活用はあるようで、実際は属人的な人による紹介がその多くを占めてきた。
ここを機械学習により徹底的に効率化しようとしているのがLiBになる。同社が展開する即戦力人材の紹介サービス「LIBZ エキスパート」は今年6月で開始から3年を迎え、登録会員数28万人に対し、これまでに335社の企業が1万8,000件の求人応募を出している。対象も営業やバックオフィス、ウェブマーケティング、各種アシスタントなど幅広い。
課題となるのがマッチングだ。幅広い職種において労働集約的なマッチングになると、カバーできる物量に限界がやってくる。さらに最近ではリモートワークや業務委託など、働き方の多様化も進んでいる。これを効率化したのがLiBのAIエンジンだ。同社の共同創業者、佐藤洋介氏は会見で36時間以内の初回推薦を可能にしていると語る。
「ポイントはSaaS業界のインサイドセールスです。これまでの派遣サービスではカバーしきれなかった領域を、採用費用をかけずに時給のみでカバーできるということもあり、効果が大きいと評価いただいています。現在は36時間以内にご推薦を開始できるようになっています」。

LiBのサービスの特徴は徹底的な規定化にあるという。通常、非エンジニアの営業やマーケティングなど、人材の評価に定性的な要素が多分に含まれる場合、エントリーシートへの自由記述が増えることになる。一般的な転職エージェントであれば、この内容は「人」が理解し、マッチングする先の企業をイメージして推薦するのだが、LiBはこれを徹底的に排除し、入力するデータを規定値化している。これにより「AIが食う」データが綺麗になり、仲介する人を廃したマッチング精度が上がる。
いわゆるロングテールの「テール部分」にあたる人材とのマッチングが期待できるようになる、というわけだ。佐藤氏は次のように続けた。
「私たちは次の仕組みが必要だと考えています。まずは全てのデータを規定値化し、二つ目にそのデータを人事担当者ではなく、採用希望されている各部門のトップの方が会員と直接マッチングできる構造を作っています。さらに個人の方も自分の売りをちゃんと伝えられるようにし、そこを自動でマッチングすることによってフィードバックループを回せるようにしています」。
実際のサービス利用シーンでは、LiBのサービスを使うと、推薦候補の人材、例えばインサイドセールスやウェブマーケターなどの情報がSlack連携によって採用希望の担当者に直接推薦されるようになっているという。従来の人材業界ではこういったマッチングはベテランの「目利き」が活躍していた。しかし、働き方も人材も多様化が進む中、AIエンジンの活用は不可避になりつつあるように感じた。
ChatGPTが変える「定性」評価

LiBのようにAIに食わせるデータを綺麗にすることでマッチングの精度を上げるアプローチがある一方、人材マッチングにおける定性的な情報の扱いがなくなるわけではない。特に人物評価のぼんやりとした「輪郭」はこれまで労働集約的に人が紹介をしたり、自分でレターを作るなどして形作られてきた部分だ。
ここを生成型AIで効率化しようとする動きがある。ひとつは今回発表があったLAPRASのAIレビュー機能だ。LAPRASはエンジニアのポートフォリオをウェブ上に公開されている情報に基づき、スコアリングしてくれるものだった。今回追加されたAIレビューはエンジニアが記述した技術記事(技術的な解説記事)をAIが5項目にわたって評価し、レビューコメントを生成してくれる。
記事にも書いたが人が人を評価することは難しい。特に定性的な「ふんわりとした」評価は気を遣う。かといって「いいね」のような大雑把な評価では見当違いな結果も生まれる。LAPRASのAIレビューはこうした課題をクリアする決定打になる可能性がある。
効率化されるスカウト業務

採用における業務効率化も大きな課題だ。横断的にウェブ上の求人・人材情報を集めてマッチングするAIタレント検索エンジン「AUTOHUNT」を展開するXAION DATAはChatGPTを活用してスカウトメッセージの自動生成や面談メモのフォーム入力、高度なクエリの自動生成機能を発表した。
採用媒体などでダイレクトメッセージを作成したことがある人であれば、その作業に大きな工数を要することは理解しているだろう。一方、コピペのようなテンプレートメッセージは冷たく、時折、スパムのような印象を与えてしまう。声をかけてもらう側も大量に処理されるうちの一人とされるより、人間的にアプローチされる方がよいのは決まっている。
ここを助けてくれるのが生成AIだ。XAION DATAが開発した機能は求人情報と候補者の情報からスカウトメッセージを自動生成してくれる。これを下書きに個別のメッセージを添えるだけで印象は随分と変わるだろう。

一言で「AI」と表現しても、精度の高いマッチングを実現するための取り組み、生成AIによる定性コンテンツの評価、人材採用業務の効率化とその活用範囲は多岐にわたる。そして驚異的なのはこれらが数年前から着実に実行されており、かつ、今回のChatGPTの登場により爆発していることに他ならない。
IVSでは誇大広告ではない、こういった新たなスタートアップのチャレンジが多く見られた。引き続きこのトレンドは確実なものとして続くだろうから、期待して私たちも追いかけたいと思う。
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