1万人集結「IVS」確変はなぜ起こったーー島川氏語るその裏側

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Headline Japan代表取締役の島川敏明氏

6月28日から開催された「IVS KYOTO・IVS Crypto」はまさにお祭りのような雰囲気だった。これまで国内で開催されたスタートアップ・カンファレンスでは誰もみたことがなかった1万人という参加者を集め、30日にその余韻を残しつつ閉幕した。

本誌もグループ会社のPR TIMESと協力して、このカンファレンスのサイドイベント「Startup!PR Week」にて、38社のスタートアップと共に新製品の発表会を開催させていただいた。

「スタートアップ村」と表現されるほど、小さくまとまってきた日本国内のスタートアップシーンはなぜ「確変」とも言える状況を迎えるようになったのか。

11月29日に次回IVSの企画「LAUNCHPAD SEED 2023 Winter Powered by 東急不動産株式会社(以下、LAUNCHPAD SEED 23W)」を控え、主催者として準備を進めるHeadline Japan代表取締役の島川敏明氏に振り返りを聞いた(太字の質問は全て筆者。回答は島川氏)。

1万人が参加した京都・みやこめっせ会場

ーー1万人という大台に乗せた

島川:正確には1万500人(※端数は切捨)ですね。内訳も2200人が海外の参加者で、8300人が日本国内の参加者でした。本当に2割ぐらいが海外からの参加者という結果です。一番大きかったところで言ったら、会自体が本当にみなさんの言う通りフェスみたいな雰囲気になったっていうところが大きいのかなと思っています。

今までであれば、IVSだったりだとかこういう招待制のカンファレンスというのは、選ばれた人間だけが参加できる本当の秘密クラブみたいなそういう立場だったんですけれども、そこの門を開いて、オープンにしていてより起業に興味がある、スタートアップに興味があるような方でも参加できるようにしたところが話題を呼んで、1万人が集結するようなカンファレンスになりました。

ーー結果をどう受け止めている

島川:それによってこれから起業しようと思っているような方であったりとか、起業したばかりの方が参加しやすくなったので、僕たちが当たり前と思ってるような、東京という主戦場以外でVCや投資家の方々と交流をして、より良い資金調達の機会を得られたりだとか、そういったスタートアップの最前線の情報を得られるようになったといったところはすごくポジティブな点じゃないかなと思っております。

起業したいっていう人たちにはそういったバリューを提供できたかなと思うんですが、実際に僕の耳に入ってきているものでも、スタートアップやVCに就職したいとか転職したいみたいなニーズを持った方も参加したんですね。

僕たちもスタートアップの関係人口を増やすっていうところを掲げていて、それは必ずしも起業家が起業するっていう方法だけじゃなくて、スタートアップやVCに就職して、そこからそのままサポーターとして活動していくかもしれないし、そこから自分で学んで起業するかもしれないんですけれども、そういう就職や採用されるみたいなところも僕たちとしては目標として持っていました。実際にIVSをきっかけに内定が出て承諾もしてもらったというような報告も受けたりしています。

このスタートアップのエコシステム、スタートアップを作っていく人たちにはどういう人たちがいて、どこに就職先としてアプローチしたら良いのだろうというところが示せたこともポジティブなんじゃないかなと思います。

ーー京都を選んだ理由は

島川:やはり今回、京都で開催した理由としては、ひとつの要因として関西にやっぱり良い学生が多いということもあったので、やはりそういった学生がIVSに参加して、次のアクションを起こしてくるというところは、僕たちとしても目標にしていたので、そこは先ほど言ったように達成できているんじゃないかなと思っております。ポジティブなことをもう少し言うと、そういったこともあってやはり3階のネクストシティはすごく盛り上がったんじゃないかなと思っています。

IVSのコンテンツって今までセッションとローンチパッドぐらいだったんですね。あとはネットワーキングディナーとかが主なコンテンツだったんですけれども、今回はそういった新しい人たちが関われるように、本当に数多くの新しいコンテンツを組み込んでいました。

例えば、VCによるリバースピッチもそうですし、打ち上げ場所もそうだし、研究者による研究シーズのリバースピッチだったりだとか、アクセラレータープログラムの体験版みたいなコンテンツだったり、あとはソーシャルイノベーションに特化したセッションエリアとかですね。本当に数多くのコンテンツがあって、参加者ごとに自分の好きなコンテンツを選べるっていうような状態になっていたかなと思っています。

それはひとえに、やっぱり人がこの規模、増えたことによってできる、そういう興味がある人たちの母数が確保できて、あの企画が実行できるような、そういうものだったのかなと思っています。

ーー私も会場にいたがかなり盛況だった。企画で工夫した点は

島川:各セッションも常に立ち見が出るほどになっていて、非常に盛況感があり、それぞれの登壇者も非常に満足が高かったと聞いています。

あとはサイドイベントですね。今回100件以上のサイドイベントが開催前から後までずっと続いているんですけれども、その中もですね、それぞれが非常に盛り上がって面白いフィードバックだなと思ったのは、今回イベントツールをオフィシャルで導入して、みなさんにそれを使うことを推奨していたんですけれども、IVSのルームでサイドイベントとして登録をすると、本当に一瞬で人が集まりましたみたいなフィードバックをいただきました。

これは1万人規模の人たちがその場に集まっていて、みんなが自分にあったイベントを楽しもうというような、そういう能動的な思いが表れていたのではないかなと思います。

1万人規模になって「誰とネットワーキングしたらいいのか」っていうのはなかなかわかりづらくなったとは思うんですよね。だからコンテンツを細分化していって、より目的に合ったネットワーキングができるだとか、コンテンツに出会えるっていうような仕組みを今回は作って、それを意識して作りましたし、今後もそれを意識してそれぞれのコンテンツやコミュニティっていうところをシャープにしていきたいなと思っているところです。

女性の参加率が目に見えて高まったのも特徴のひとつ(マウスピース型矯正「DPEARL」が歯ぎしり特化サブスク開始、9割の人が経験 #IVSPRWeek #IVS2023

ーーそれともう一点、女性と海外からの参加者をよく見かけた。女性はどのくらいの比率だった

島川:アンケートベースではあるのですが、約20%ほどが女性参加者でした。これは結構すごい数字だなと思っています。今までのこういった招待制のカンファレンスって、女性のお客さんが本当に5%か3%とかだったんですよね。やはり女性の経営者の方からもそこは問題視されていましたし、すごく違和感があるっていうところは、過去参加者からもお声をいただいていたところでした。

なので、僕たちとしては20%という数字に着地はしましたけれども、そこは非常にポジティブに受け止めています。今の時流の流れっていうところもあるんですけれども、この企業とかスタートアップっていうのはもちろんすごくハードでプライベートを犠牲にしないといけないような場所っていうのは非常に多くなると思うんですね。ワークライフバランスを考えるとやはり、女性の方はなかなか起業が難しいと今までは思われていたのではないでしょうか?

確かに理解はできるのですが、何かそれによって失われている機会も非常に多いなと思いますし、いわば国内人口のほぼ半分は女性であるので、今のグローバル的に見ても、女性の起業家が増えてきていますし、日本の企業が女性の活躍を増やしていこうというところにおいてはやはり女性の方が活躍するっていうのは外せない目標になるんじゃないかなと。

ーー女性、ということを意識しないのが本来の姿では

島川:ゆくゆくはこの女性参加者率50%になるっていうところが、自然な姿でもあるかなとは思うので、将来的にはそういった姿を目指してアクションを起こしていきたいなと思っています。実際、今回の京都でも子供の託児所を作ったりして、ご家庭があっても参加しやすいだとか、しっかりとハードルを下げて参加できるような場というところは僕たちとしても目指していきたいなと思ってるので、リクエスト等があれば最大限そこは実装していきたいなと思っています。

現にいくつかの女性企業がサポートする団体とですね、共同の何かプロジェクトを始めようとしているところでもあったりとかするので、実際に僕たちとしてもアクションを起こしてですね、より良い、女性の起業家も参加しやすいようなそういう場を作っていきたいなと思います。

海外からの登壇者・参加者は総勢で2000名を超える(17LIVEが新Vライバー「武士来舞(BUSHILIVE)」発表 #IVS2023 ーー拡大するVTuber市場で独自ポジション狙う #IVSPRWeek

ーーもうひとつ、海外からの参加者については

島川:海外参加者は冒頭にも述べたように、2割ぐらいが海外参加者でした。これは本当に2,000名なので、僕たちとしても当初は想定していなかったです。

海外参加者を呼ぶのってすごく大変なんですよ。彼らとしては日本までこなきゃいけないのかとか、渡航費もかかりますし、滞在費がかかって、かつコミュニケーションもみんな日本語しか喋れないからすごいハードルが高い。日本のマーケットに一定の閾値を超えるレベルで興味とか、やる気がないとなかなかみんな来てくれない。

ーーなぜ彼らはやってきた

島川:ひとつの要因としてはクリプトというところが、前回の那覇から引き続き大きかったかなとは思っていて、やはりクリプトだと今は日本が世界で一番優遇されていると言っても過言ではない環境になってきていると思うんですね。

日本か香港か、そういうビジネスをするとしたら、本当にその二択になってきていて、海外のクリプト勢が非常に日本のマーケットに興味を示しているところが大きいんじゃないかなと思っています。

グローバル的な流れで見ても、特に中国投資がちょっと難しくなっているので、代替先として、アジアのどこにするというようなのが、投資家目線での議論になっています。その候補としての日本というのはすごく大きい。

だからこそ海外VCも、日本のスタートアップに出資をしたいという声も僕も聞いています。まさに2年3年ぐらいですね、海外のVCやLP候補になるような方々が日本のマーケットで成功体験を得られないと、やっぱり日本駄目だったねというところでインドネシアだったりだとか、他のよりホットな国にお金や興味関心が移っちゃうと思うんですよ。

このタイミングでIVSとして海外の投資家が日本のマーケットに実際にコミットして、お金を落としていってしっかりとそれで成功体験を得るというような、そういうきっかけをここで作りきって、日本のプレーヤーとの付き合いに持っていってもらいたいなと思っているところです。

ーークリプト勢の勢いは私も感じたが「非クリプト」のスタートアップ、例えば最近だと生成型AIなども注目市場になっている。こういった起業家・投資家をどう呼び込む

島川:日本のマーケットってすごくガラパゴス化しているところがあって、なかなか海外のFounderが日本で起業することが難しいと思うんですよね。

それはビザの問題もあるし、オフィスが作れないとか、銀行口座作れないとか、なんかそういう海外の人だからこそっていう問題もすごくいっぱいあって、僕は問題だと思ってるんです。そういうところを今の政府と一緒に足並みを揃えて進めていくっていうところは、IVSとしても、個人としても僕はやりたいと思っています。

日本のスタートアップが何でグローバルで勝てないのか、そのひとつは人の問題だと思うんです。グローバルでサービス展開をした経験者が少ない。グローバルレベルでの展開の仕方だったりとか、人脈とかですね。グローバルレベルでの人材がなかなか少ない、スタートアップの関係者のグローバル化といったところが非常に重要になるんじゃないかなと思っているところです。

ーー若い参加者の姿をよく見かけた。これも従来の招待制カンファレンスではみなかった光景だった

島川:京都の学生に関してなんですけども、関西は非常に大学が多くて、学生の数が多いというところなので、そういう人がIVSのようなきっかけで、スタートアップっていう世界があるんだなっていうことを知ってほしいなと思っています。

今だと起業とかVCとか、そういったワードも昔と比べたら一般化してきたなって僕も感じるんですけれども、僕自身も阪大にいたときとかに、スタートアップに興味を持って調べてみると、本当に関西ってイベントがなかったんですよ。

あったとしても小規模なものだったので、このIVSを東京以外の土地でやるっていうところは、すごく僕は意義があることだなと思ってます。

ーー学生がここに参加する期待値をどう考えている

島川:学生時代って何か大人から見聞きしたことって想像以上にその人の人生に影響を与えるじゃないですか。

すごい経営者からぽっと言われたような言葉って、その人の人生を変えるポテンシャルがあると思うんですよね。僕自身もそうでしたし、学生時代に少しでも経営者やスタートアップの人たちと関わって、生き方とか、社会への関わり方もあるんだなということを知ってもらうっていうのはすごく社会的に意義があることだなと思ってます。

今回はスチューデントパスを用意したり、ボランティアスタッフで参加したりといった二つの選択肢を用意しました。それぞれスタイルが違うし、目的も違うと思うので、そこは学生に対して価値提供ができるように、僕たちとしても磨いていって、将来起業家の卵とか、VCの卵がこのIVSを介して生まれてくるような場にしていきたいなと。

前回のLAUNCHPAD SEEDは今年3月にクローズドで開催された(IVSがシード特化ピッチイベント「LAUNCHPAD SEED」を開催、不動産特化電子契約からアバター制作まで10チームが登壇

ーー11月29日に次回の企画となるLAUNCHPAD SEED 23Wを開催する。そもそもLAUNCHPADではどういう起業家を集めるものなのか

島川:ローンチパッドというのはIVS内で開催されているピッチバトルなんですけれども、夢があって新しいプロジェクトであれば誰でもいいんですね。大企業であってもいいですし、本当にまだプロダクトがないような、そういうコンセプチュアルな状態であっても、しっかりとでも見せられればいい。実は制限がないんです。

その上で会社のフェーズに合った場があってもいいんじゃないかという声があったので、ぜひ試してみようということでシードのスタートアップに限ったピッチコンテストというのを開催したんです。

ーー夏のIVSでは1万人を集めたが、前回の冬の企画では比較的小規模の1日イベントだった。どういう意図があるのか

島川:IVSはこれまで年2回やっていたのですが、同じような内容であれば参加してる方からしてもお腹いっぱいなんじゃないかなと。

であれば「次世代の起爆剤」というミッションを掲げている僕らだからこそできることをやった方がいいなと思ってまして。そこの試行錯誤の結果がひとつは大きく、もうひとつは小さくという緩急をつけたサイクルで回していく。ここは小規模でも参加者の方が高い満足度が得られるような学びが得られるような、そういうコンテンツを実装していきたいなと思ってます。

ーー島川さんは前回のインタビューで起業家の裾野を広げたいと語っていた。一方、ピッチコンテストの形式は一社に大きな注目を集める仕組みだ。この矛盾をどう考える

島川:これはまさに僕も感じていたところです。ピッチが自分を表現する仕組みとしてあると思うんです。そしてそこが一番注目を浴びるっていうところは分かるんですけれども、やっぱりスタートアップが例えば今よりも本当に10倍になりました、となった場合、より多くのスタートアップや企業、投資家の方が、自分を表現する場を必要とするはずなんです。

今回も別の角度のピッチの場っていうのはいくつかありました。それがVCのピッチとか研究者のピッチとか、多くの企業家が自分のPRができる、そういった場を作りたいなと思っているところです。

これは、まだアイディアベースですけれども、スタートアップ闇市みたいな感じで、本当にその場でフリースタイルのピッチができるような場っていうのは用意しても面白いかなと思っています。戦後の叩き売りみたいな感じで、ワーッとスタートアップが、並んでいて本当に長机とディスプレイぐらい僕たちが用意をして、そこで、スタートアップが自分たちのプロダクト、どういうことをやってるかっていうのを、もう好き勝手プレゼンなのか、街頭演説なのか、何でもいいんですけれどもとにかくやる。

どういった表現をするかっていうのもおまかせしますし、それを聞いてるのは起業家なのかなにかの代表の方なのか、とにかくやる気があるような方であったりとか、勢いがあるような方が、発表できる場所っていうところは、僕たちとしても用意しようかなと思っています。

思想としては、僕はとても洗練された上品なものよりも、発展途上の勢いがあって活発な市場みたいな方が雰囲気が好きなので、そういうコンテンツとか、雰囲気とかは作っていきたいなと思っております。

ーー最後に。11月の企画にはどういう方に参加してもらいたいと考えている

島川:タイトルにある通り、シードの企業家にぜひ参加いただきたいです。例外もあるんですけれども目安としては、バリエーションがおおよそ1億円から5億円のレンジに収まっている企業をメインターゲットのシード企業とさせていただいています。

前回は完全に配信とかもせずクローズドで開催したんですけれども、今回はライブ配信をしようと思ってるんです。

前回はアイディアがコピーされないようにしようという配慮もあったんですけれども、今回はより多くの投資家であったり提携したいと思ってくれる大手の方に届くようにしたい。さらに起業家の方から非常に多かったのがアーカイブにして欲しいという声です。

自分たちは歴史あるピッチイベントに出た企業だから安心して入社してくださいという説明ができて、さらにサービスの内容のキャッチアップも6分間で終わる。これは非常に便利だというお声をいただいたりしています。そういう背景もあって、今回はより多くの方に届けたいなと思っています。

この機会を資金調達であったり、営業であったり、採用っていうところに効くような、そういう場にしたいと思っています。

ーー企画に何か工夫はあるのか

島川:今回はピッチもテンポよく進めて一時間ぐらいにしようと思ってるんですよ。

というのも、その後はそれぞれ参加してくださったVCによるサイドイベントを開催していただき、そちらに参加してもらいたいんです。内容としては起業家とミートアップするだけのシンプルな場でもいいと思いますし、他にも事業のメンタリングをしますみたいな企画のサイドイベントがあってもいいと思うんです。僕たちとしては参加いただいたシードの起業家の方々に最大限還元できるよう、そういうサイドイベントの仕組みを作って、より多くのものを還元できたらなとは思ってます。

ありがとうございました。頑張ってください。

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