外資系・テック企業社員の匿名SNS「WorkCircle」運営、1.3億円をシード調達——給与情報の透明化狙う

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Image credit: WorkCircle

匿名キャリア SNS「WorkCircle」を運営する WorkCircle は29日、シードラウンドで1.3億円を調達したと発表した。このラウンドに参加したのは、UB Ventures、ゼロイチキャピタル、 Piotr Feliks Grzywacz 氏(元 Google 人材育成部長)ほか、名前非開示のエンジェル投資家。

これは、WorkCircle にとって、2023年3月に実施したプレシードラウンドでの3,000万円の調達に続くものだ。ゼロイチキャピタルは前回ラウンドに続くフォローオンでの参加。今回の調達を受けて、WorkCircle の累積調達額は1.6億円に達した。同社では調達した資金を使って、ユーザ体験の向上のため開発を進めるとしている。

WorkCircle は2021年、Terry Drew 氏と冨成俊亮氏により共同創業(創業時の社名は HonneWorks)。WorkCircle を始める前、共に海外のテクノロジー業界を経験した2人は、日本における年収と給与情報の透明性に疑問を感じ、情報非対称性の解消を狙いエンジニアに特化した OpenSalary を立ち上げた。WorkCircle は、この概念を多職種で進化させたものと捉えていいだろう。

WorkCircle は、同じ企業に属する社員同士が匿名で情報交換できるキャリア SNS だ。昨年3月にローンチし、現在の登録ユーザは5,500名。会社のメールアドレスを使ってサインアップするため、匿名ながらも、その企業に所属していることを確認してユーザ登録される。現在、外資系企業の人が3割、メガベンチャーが2割、それ以外に SI-er、コンサル、スタートアップが多いという。

日本の労働者の賃金水準が30年上っていないとされる「失われた30年」問題。経済は発展しているのに給与が上がらないのは、企業の内部留保が増えていることが大きな問題だとされる。もっとも、増えた利益を社員に適正に還元している企業も存在するが、その実態を把握し、必要に応じて企業に是正を促していく必要がある。人材の流動性が高まることは、その一つの契機になるかもしれない。

WorkCircle の創業者。左から、Terry Drew 氏と冨成俊亮氏
Image credit: WorkCircle

最初はネットリテラシーが高く、人材流動性が高いテック業界から着手し、そこでベストプラクティスを磨き上げて、コンサルティング業界や金融業界へ拡大していきたい。(冨成氏)

この分野では、かつて韓国発の社内向け匿名 SNS「Blind」が日本に上陸したが、最近では活動拠点をアメリカに移し、中国など労働人口が多く、人材流動性の高い市場を狙っていると報じられている。また、日本では、Spiral Capital、XTech Ventures、Delight Ventures が支援する PROJECT COMP が、いわゆるコンパウンドスタートアップとして、企業向け評価・報酬決定に関わる複数の SaaS を展開している。

WorkCircle では、特にデータの信憑性に注力していて、ユーザにエビデンス付きの年収データを登録してもらうことで、各社に関わる情報の精緻さを担保している。また、外資系やテック企業などでレイオフのニュースが流れると、当該企業のボードで情報交換が特に活発化するなど、ユーザも最大限に活用しているようだ。さて、WorkCircle はどのようにマネタイズするのだろうか。

短期的には求人や広告も考えられるが、求人プラットフォームというのは、それだと基本的に〝転職推し〟になってしまう。今の会社の条件が合わず転職するより、本当は、今いる会社の条件が良くなってくれたらいいと考えている人は少なくない。(冨成氏)

会社を変革していくには、まずは今いる従業員が何を考えているかを把握することが大事だ。WorkCircle 上でやり取りされる会話は匿名ではあるが、最近の大規模言語モデル(LLM)などを駆使すれば、それらを定性的に統計化することも可能だろう。WorkCircle では長期的には、そういった情報の企業へのフィードバックも、マネタイズの方法の一つとして考えているようだ。

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