地図上の気になるエリアを囲んで質問すると即答、地理空間を理解するAI「xMap」が東京から攻める世界市場

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xMap CEO Mo Batran 氏

サンフランシスコ市内はすっかり AI スタートアップの縄張りと化してしまったという説があるが、東京だって見くびってはいけない。この AI スタートアップのインタビューは、都内の某コワーキングスペースで実施したが、隣の部屋では、日本で創業から最速でユニコーンになったことで名高い Sakana AI のチームが仕事しているのが伺えた。同じ屋根の下にレジェンドがいれば、他のスタートアップが感化されるということはあるかもしれない。「環境が人を作る」と言うが、事業もまた、さもありなん、だからだ。

xMap はまだユニコーンではないけれど、創業からわずか1年足らずで急成長を遂げたスタートアップだ。創業者で CEO の Mo Batran 氏はエジプト出身だが、空間情報学を専門とする彼は東京大学への留学を機に来日。その後、位置情報に関する AI 事業と宇宙事業を展開する LocationMind を共同創業しビジネス開発ディレクターを務めた後、昨年、xMap を立ち上げた。このサービスについて毎日 LinkedIn に投稿を続けたところ、ある日突然、100万回以上閲覧される投稿が生まれた。この投稿をきっかけに、多くの企業からの問い合わせが殺到。コカコーラをはじめとする大手企業との契約を次々と獲得し、60万米ドルの売上を達成した。

xMap とは何か

Image credit: xMap

xMap の核となるサービスは、AI を活用した地理情報分析ツールだ。ユーザが地図上で任意の領域(ポリゴン)を指定し、その領域について、さまざまな質問を AI に投げかけることができる点にある。「この地域の人口は?」「1km圏内にガソリンスタンドは何軒ある?」「朝食時、昼食時、夕食時の人出は?」といった質問に、AI が即座に回答を提供してくれる。Batran 氏は、「これまでこうした質問に答えるには、データの取得や分析に時間がかかっていましたが、xMap はそれを瞬時に可能にします。」と語った。

これを可能にしているのは、収集したデータ、独自開発のモデル、そして、大規模言語モデル(LLM)に位置情報の文脈を理解させる技術にある。

通常の LLM は位置の概念を理解できません。例えば「ここにはレストランがいくつありますか?」と聞いても、「ここ」が何を指すのか分からないのです。(Batran 氏)

xMap は、政府のオープンデータ、xMap が購入したデータ、そして web からクロールしたデータを組み合わせて、AI モデルをトレーニングし、この離れ業を可能にしている。Batran 氏は、具体的なデータソースについては機密事項だとして明かさなかったが、xMap は現在、東京、ニューヨーク市、そして、リヤドについて情報が得られるようになっている。リヤドがカバーされているのは、xMap のユーザには投資会社も少なくなく、そのうちの一つが、サウジアラビアの政府系ファンドであることに関係するようだ。

広がる可能性

日本でも、地図上の住宅をクリックすると、即座に売値・買値・家賃などが表示される不動産サービスは存在するが、xMap の守備範囲はそれらと比べてもかなり広い。位置情報の文脈理解、マルチモーダル学習、継続的学習、データの鮮度維持などの機能を実装しているため、従来の GIS ツールよりも柔軟で直感的な分析が可能だ。

xMap は現在、不動産、小売、コンサルティング、投資会社など、幅広い業界で利用されている。不動産業界では、物件周辺の人口動態や施設の分布を即座に把握できるため、物件評価や開発計画に活用されている。小売業では、新規出店の際の立地分析に利用されている。投資家や資産運用会社は、特定地域の人口動態や経済指標の変化を分析し、投資判断に役立てているという。さらに、都市計画や公共政策の立案にも活用され始めており、民間企業だけでなく、公共セクターからの注目度も高まっている。

xMap は現在3都市で利用可能だが、今後、グローバル展開を視野に入れている。xMap のチームは現在10名で構成されているが、そのうち、創業メンバー4名は Batran 氏を含む全員がアフリカ出身で、他のメンバーは、ヨーロッパ、パキスタン、インド出身者もおり、サウジアラビアやナイジェリアを拠点とするメンバーもいる。

xMap は、先ごろ、日本を拠点とする Shizen Capital(自然キャピタル)から資金を調達し(Crunchbase によればプレシードラウンド)、このラウンド全体で200万米ドルの調達に向けて動いているという。「日本を拠点に、グローバル市場を狙うスタートアップはまだ珍しい存在ですね」という Batran 氏に、今後、どのような投資家から資金調達したいかを聞いてみた。

日本市場ではスタートアップの評価額が低い傾向にあります。多くの投資家がスタートアップを単なるシステム開発会社のように見ていて、グローバルな成長の可能性を十分に評価してくれません。我々は投資家へのアプローチもグローバルです。グローバルな視点を持ち、製品の成長とバイラリティ(拡散性)を支援してくれる投資家を探しています。(Batran 氏)

このスタートアップが解決しようとしているペインとソリューションは本当にわかりやすい。百聞は一見にしかずだ。技術そのものが唯一無二なケースを除けば、説明に時間がかかったり、潜在ユーザである我々が簡単に理解できなかったりするサービスが大化けすることは少ない。その点、xMap の説明には、エレベータピッチの目安とされる1分を要さないし、10人がサービスを見れば10人が理解できるだろう。生成 AI の台頭で、こういうスタートアップは今後、増えてくるかもしれない。

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