DEEPCORE、海外展開支援アクセラレータ「KGSC」2024年春期デモデイを開催——AIスタートアップ4社がピッチ

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司会を務めた DEEPCORE のコミュニティデザイン担当ディレクタ 根本紘志氏
Image credit: Masaru Ikeda

AI スタートアップ特化 VC の DEEPCORE は2日、テクノロジー系スタートアップの海外展開支援プログラム「KERNEL Global Startup Camp(KGSC)」の2024年春バッチのデモデイを開催した。このプログラムとして3回目のバッチで、今回は合計で4社がピッチした。会場には約30名の投資家やスタートアップ関係者が集まり、オンラインでの参加者も含めて熱気に包まれた。

DEEPCORE によれば、KGSC は2022年から始まり、毎回3〜4社を採択しているという。4カ月間集中的に支援し、その後、条件が合えば投資も実行する。プログラム修了後も、〝DEEPCORE ファミリー〟として継続的にサポートしているそうだ。KGSC の特徴は、AI ファースト、グローバルコミュニティ、コミュニティの3点で、コミュニティにはオフラインとオンラインの両方で参加が可能だ。

2024年春期のデモデイには、Zaimo、Aokumo AI、datagusto の3社と、Automatika が採択されていたが、Automatika については来日渡航時の技術的な問題でピッチ登壇しなかった。また、2024年春期の卒業生ではないが、DEEPCORE の投資先である Integral AI がピッチ登壇した。ピッチイベント終了後には、聴衆らとのネットワーキングの機会が持たれた。

AI を活用したスタートアップ向け財務管理プラットフォーム「Zaimo」

古城巧氏
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Zaimo は、スタートアップの CFO 向けにAIを活用した財務管理プラットフォームを開発している。創業者の古城巧氏は、10年以上の金融サービス業界での経験を持ち、その後ベンチャーキャピタルで働く中で、多くのスタートアップが CFO の役割を果たすのに苦労していることに気づいたという。

CFO は財務モデルの作成、実績データの収集・分析、ステークホルダーへの報告など、多岐にわたる業務を担っています。これらを Excel や Google Sheets で行うのは非常に面倒で時間がかかります。また、これらのタスクは往々にして特定の人物に依存してしまいます。

Zaimo のプラットフォームでは、財務モデルのテンプレートから数回のクリックで詳細な財務モデルを作成できる。また、1クリックで予実管理やダッシュボード表示が可能だ。誰でも簡単かつ迅速に財務管理システムを構築でき、属人化を防ぐことができる、と古城氏は強調した。

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今後は API を通じたデータ収集、AI チャットによるモデリング、AI を活用した KPI 分析、自動レポート作成など、機能を追加していく予定だという。これにより、より自動化された財務管理体験を提供することを目指している。月額70米ドルで使え、2週間の無料トライアル期間を設けている。現在は徐々に登録ユーザ数を増やしており、財務モデリング機能について好評を得ているという。

当面のターゲット顧客は、シリーズ A ラウンドの前後で財務モデルの作成や財務管理システムの構築が必要なスタートアップ、および効率的にサービスを提供したい外部の財務コンサルタントだ。〝財務管理の Canva〟を目指し、「Canva がデザインを革新したように、財務管理を革新したい」と古城氏は抱負を語った。

IT オペレーションを効率化する AI エージェント「Aokumo AI」

Younes Hairej 氏
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Aokumo AI は、ITオペレーションを効率化するAIエージェントを開発している。創業者の Younes Hairej 氏は、15年以上の IT 経験と7年の経営幹部としての経験を持つ。共同創業者のザラ氏は、サンフランシスコとイギリスを拠点とする2つのユニコーン企業の成功に貢献した経歴を持つ。

Hairej 氏は冒頭で、最近の CrowdStrike の大規模障害を例に挙げ、企業によって復旧時間に大きな差が出たのは、現在の IT オペレーションに重大なギャップがあることを示しているとして、IT の複雑化が進む一方で、AI への投資が複雑な領域での高度な問題解決を可能にするとした。

マクロな視点では、IT オペレーションがデータと複雑さに溺れる一方で、AI はデータと複雑さを活用して成長しています。(Hairej 氏)

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Hairej 氏によれば、Aokumo AI のソリューションは、言わば「AI エージェントの JIRA」だそうだ。最先端の言語モデルを活用した AI エージェントが連携して、診断やシステムアップグレードなどの IT オペレーションタスクを解決・自動化する。

これは単なるチャットではありません。AI エージェントが裏側で計画を立て、依存関係を確認し、可用性を高めるなど、多くの作業を行っています。LLM は全体の30%程度で、ほとんどは目に見えないエンジニアリングの部分です。(Hairej 氏)

具体的なユースケースとして、Kubernetes のアップデートを挙げた。AI エージェントが計画を立て、依存関係を確認し、高い可用性を維持しながらアップグレードを実行するという。すでに10社の顧客を獲得し、e コマース企業1社を含む2社と PoC を開始している。既存顧客へのサービス提供で月間約230時間の IT 作業時間を削減したという実績もあるそうだ。

ビジネスモデルはサブスクリプションベースと専門サービスの2本立てで、小規模チームから大規模組織まで対応可能だ。当初のターゲットは Amazon EKS ユーザだが、技術的にはプラットフォームに依存しないため、今後はクラウドネイティブのソフトウェアユーザやグローバル企業のユーザにも展開していく計画だ。

AI を活用したデータアーキテクト「datagusto」

パー真緒氏
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datagusto は、中小企業向けの AI データアーキテクトを開発している。創業者のパー真緒氏は東京出身で、現在はイギリスのオックスフォードを拠点としている。システム統合プロジェクトの経験から、システムの維持管理に多大な時間がかかる問題に着目したという。

2024年の今でも、データエンジニアやデータ管理者が手動でシステム間の接続や依存関係を管理しています。そのため、システムのアップデートに何ヶ月もかかることがあります。

各システムの理解には数年かかる資格取得が必要な上、依存関係の把握や障害原因の特定にも時間がかかる。中小企業では専門家を雇う余裕がないため、ソフトウェアエンジニアや DevOps エンジニアがデータ管理も担当せざるを得ず、イノベーションのための時間が失われているという。

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datagusto は、AI データアーキテクトをオンデマンドで提供し、データアーキテクチャを最適化する。中小企業は専門家を雇わずに、時間をかけずにシステムを理解・最適化できるようになる。ターゲット顧客は、従業員100〜300人規模の製造業やサプライチェーン業界で、主にリードソフトウェアエンジニアや DevOps マネージャーをユーザとして想定している。

パー氏のチームは、データサイエンス、ビジネス開発、リードエンジニアなど、多様なバックグラウンドを持つメンバーで構成されている。イギリス政府の支援も受けており、グローバル展開も視野に入れているという。すでに10社のエンタープライズクライアントを獲得し、PoC も順調だという。

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世界モデルから汎用 AI へ「Integral AI」

Jad Tarifi 氏
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Google で9年以上の経験を持つ Jad Tarifi 氏が約3年前に立ち上げた Integral AI は、次世代の AI エージェント開発に取り組んでいる。同社は、現在の生成 AI モデルが抱える非効率性や信頼性の低さといった課題を克服し、超知能へと至る道筋を描いている。

現在の AI モデルは信頼性が低く、非効率です。人間の脳と比べて多くのデータと計算能力を必要とします。しかし、私たちは現在のモデルから汎用 AI への道筋を描き、すでにその半分以上を進めています。(Tarifi 氏)

Tarifi 氏は、世界モデル、推論・計画・行動が可能なエージェント、そして最終的には超知能へとスケールアップする3段階の開発計画を明らかにした。同社はすでに世界モデルを一部企業向けにリリースし、推論・計画・行動型エージェントの実証実験も進めている。

「世界を理解できるエージェントの上に、すべてのものが構築されるようになる」とTarifi 氏は予測する。

具体的な成果として、自然言語で指示を与えると計画を立てて実行できるカフェボットを開発した。これは単純な動作の繰り返しではなく、高レベルの要求を受け取り、計画を立て、各ステップを実行できる。粉末の取り扱いや液体の注入、カッティングなど、通常のプログラミングでは難しい作業も AI で実現している。

同社が開発中のエージェントの一つは、あらゆるロボットに適用可能な AI だ。このエージェントは世界を理解し、推論し、行動を起こす能力を持つ。Tarifi 氏は「家を建てる」や「火星に都市を作る」といった高度な要求にも対応できる可能性があると語る。

また、人間を観察し、推論し、UI / UX をレンダリングする「Stream」と呼ばれるエージェントも開発中だ。これは従来のテキストベースのインターフェイスではなく、人間にとってより自然な視覚的インターフェイスを動的に生成する。

Integral AI は、わずか320万米ドルの資金調達で120万米ドルの収益を上げるなど、効率的な経営を行っている。日本の大手企業との提携も進めており、多くの有力企業がすでに顧客となっているか、その寸前だという。

今後の展開について、Tarifi 氏は技術的なボトルネックはもはや存在せず、スケールアップが主な課題だと述べた。同社は単独ではなく、エコシステムを通じて AI 技術を拡大していく方針だ。来年半ばには、開発者向けに API を公開する計画も明らかにした。

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