「LEAPS」が第1期デモデイを開催、世界展開を見据えるプレシードスタートアップ10社を紹介

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Image credit: Masaru Ikeda

※この記事は英語で書かれた記事を日本語訳したものです。英語版の記事はコチラから

クオンタムリープベンチャーズ(QXLV)は7月31日、シードスタートアップ向けの短期集中プログラム「LEAPS」の第1期デモデイを都内で開催した。このイベントは、グローバルに挑戦しようとする起業家たちの4ヶ月間にわたる成長の集大成となる。プログラムでは、ソニーのアクセラレーションプログラム「Sony Startup Acceleration Program」や日本貿易振興機構(JETRO)などのパートナーと連携し、アイデアの創出から英語でのロジカルな事業ピッチまでを包括的にサポートしてきた。

デモデイでは、スタートアップ10社の起業家・創業者らが、多岐にわたる革新的なビジネスアイデアを発表した。審査員には、STRIVE の堤達生氏、インキュベイトファンドの Paul McInerney 氏、守屋実事務所の守屋実氏らが務めた。ピッチが終わるごとに、審査員からは鋭い洞察と豊富な経験に基づくコメントがなされた。起業家たちの更なる飛躍を後押しすることが期待される。オーディエンスも参加しての評価により、1位から3位と奨励賞のチームが評価された。

以下、ピッチしたスタートアップを紹介する(入賞したスタートアップを除き、登壇順)。なお、主催者によれば、今回採択されたスタートアップは、いずれもプレシードステージとのことだった。

【優勝】Creator’s X

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Creator’s X は、生成 AI を活用してアニメ制作プロセスを革新するサービスを提供している。従来のアニメ制作では、1本30分のアニメに約7万枚の絵が必要とされ、その多くが中国などの海外に外注されている現状がある。このサービスは、特に中割り作業(動きを滑らかにする作業)と背景制作に焦点を当てている。

このサービスの特徴は、アニメ制作会社が保有するデータをAIに学習させ、既存のイラスト制作ツールと連携させることにある。これにより、背景制作の工数を5分の1程度に削減することが可能となる。また、AIによる生成結果を人間が部分的に修正することで、高品質なアニメ制作を実現している。

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Creator’s X は、単なるツール提供にとどまらず、自らアニメ制作会社となることを目指している。AI を活用したアニメ制作プロセスの設計とマネジメントを行い、そのモデルを業界全体に展開することを計画している。さらに、将来的にはグローバル展開を視野に入れ、製作委員会への参画も検討している。

このサービスは、アニメのグローバル市場の成長を背景に、大きな可能性を秘めている。東映アニメーションの時価総額が5,000億円に達していることを参考に、Creator’s X も同様の成長を目指している。アニメ制作のデジタル化と AI 活用を推進することで、日本のアニメ産業の競争力強化と、グローバル市場でのさらなる成長を支援することを目標としている。

【準優勝】ミドリク NbS

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ミドリク NbS は、自然資本と生物多様性の可視化および開示支援を行うサービスを提供している。生物多様性の喪失要因の50%が土地利用と原料採取によるものとされる中、企業の自然資本に関する開示要求が高まっている背景を受けて誕生した。同社は、カーボンニュートラルに続き、自然資本の可視化とモニタリングが重要になると予測している。

同社のサービスは、企業の自然資本に関する影響を可視化し、開示を支援する。特に、ヨーロッパの森林伐採規制(EUDR)など、厳しい規制に対応するためのソリューションを提供している。従来のコンサルティングサービスでは高額な費用がかかっていたが、ミドリク NbS はソフトウェアを通じて内製化を可能にし、コストを抑えつつ継続的な対応を実現する。

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ビジネスモデルとしては、自社開発と顧客企業との共同開発の二2つを展開している。自社開発では、大学との共同研究を通じてパイプラインを構築し、有望なものを事業化する計画だ。顧客企業との共同開発では、企業の課題に応じたカスタマイズ開発を行い、達成報酬や共同研究費を得る仕組みを構築している。

ミドリク NbS のチームは、製造業や生態学、テクノロジーなど多様なバックグラウンドを持つメンバーで構成されている。国立環境研究所とのプロジェクト実績もあり、アカデミックな知見と実務的なアプローチを組み合わせた評価が可能な点が強みとなっている。今後はグローバル展開も視野に入れ、自然資本の分野で世界をリードする企業を目指している。

【3位】TypeGO by Swell

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Swell は、英語学習とタイピングスキル向上を同時に実現する次世代教育 IT プラットフォーム「TypeGO」を開発する。このサービスは、学校の教科書に準拠したコンテンツを使用し、ゲーム感覚で英単語を学びながらタイピング速度を向上させることができる。従来の手書きによる学習方法と比較して、5倍から10倍の速度で単語を覚えることが可能となっている。

TypeGO の特徴は、教員の業務効率化にも貢献する点にある。単語テストの準備や集計にかかる時間を大幅に短縮し、1クラス3年間で最大105時間の時間削減を実現する。また、教員用の管理画面を通じて、生徒の学習進捗を容易に把握することができる。

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このサービスは、日本の GIGA スクール構想による1人1台端末の普及を背景に、公立中学校をターゲットとしている。すでに27校の教員から導入希望の申し込みがあり、4200名以上の生徒に対してサービスを提供する準備が整っているそうだ。文部科学省の ICT 予算から資金を捻出するビジネスモデルを採用している。

Swell は、日本国内での展開を皮切りに、グローバル展開を視野に入れている。韓国では現地の教育団体と連携してプロジェクトを開始しており、将来的には世界中の小中高生に向けてサービスを提供することを目指している。教育にまつわる社会課題の解決と、誰もが自由に生き方を選択できる社会の実現を掲げ、グローバルチームで事業を推進している。

【奨励賞】Theta カプセル by Theta Therapeutics

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Theta Therapeutics は、東京大学発スタートアップで、環状中分子に特化した製剤開発を行っている。環状オリゴ糖など、生活に身近な環状中分子の特性を活かし、薬剤の標的への送達を制御する技術を開発している。従来の創薬では、臨床試験の通過率が8%と低く、多くの薬剤候補が失敗に終わっていた。Theta Therapeuticsは、この問題に取り組み、薬剤の安全性と安定性を向上させることを目指している。

同社の技術は、環状中分子を「ロケット」として利用し、薬剤を目的の場所に正確に届けることを可能にする。これにより、副作用の軽減や薬効の向上が期待できる。また、水に溶けにくい薬剤の問題も解決し、より幅広い種類の薬剤に対応できるようになる。

ビジネスモデルとしては、自社開発と顧客企業との共同開発の2つを展開している。自社開発では、東京大学との共同研究を通じてパイプラインを構築し、有望な候補を臨床試験フェーズ2以降まで開発することを目指している。顧客企業との共同開発では、製薬会社の課題に応じたカスタム開発を行い、達成報酬や共同研究費を得る仕組みを構築している。

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Theta Therapeutics チームは、創薬や生物学、エンジニアリングなど多様なバックグラウンドを持つメンバーで構成されている。グローバル展開も視野に入れており、半年以内に海外進出を計画している。環状中分子技術を核に、創薬プロセスの効率化と成功率の向上を実現し、製薬業界に革新をもたらすことを目指している。

Omiisay

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Omiisay は、日本企業向けの海外進出支援 Web サービスを提供する。歴史的な円安により国内企業の倒産が増加する中、円安のメリットを享受できる海外進出企業への転換を支援する。従来の海外進出には長期間と高額な初期費用が必要だったが、Omiisay のサービスを利用することで、大幅な時間とコストの削減が可能となる。

同社のサービスは、海外進出前から進出後まで一貫してサポートする。現地法人設立から会計、税務申告までをワンストップで対応し、会計 SaaS「freee」の海外進出版のような Web サービスを目指している。特に飲食店や美容院、小売店などの店舗事業者向けに、現地法人を設立せずに海外出店できるサービスを提供している。

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Omiisay のサービスを利用することで、例えばラーメン店がロンドンに出店した場合、1時間に5杯売るだけで黒字化できるという試算を示した。為替レートが変動しても利益を確保できるビジネスモデルを構築している点が特徴だ。

同社は、ASEAN 諸国へのサービス展開を視野に入れており、300兆円規模の巨大市場の獲得を目指している。日本の製品やサービスが世界中で売れることで円安を食い止め、2030年に1米ドルが80円水準になるような未来の実現を目標としている。

最強 AI ダンサー by マッドソフト

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マッドソフトは、AI を活用したダンスモーション生成サービス「最強 AI ダンサー」を提供している。音楽を入力するだけで、AI が自動的にダンスモーションを生成する世界初のサービスとして注目を集めている。様々なダンスジャンルに対応し、クラシックなブレイクダンスからジャズダンス、ヒップホップまで幅広いスタイルのダンスモーションを生成できる。

従来のダンスモーション制作では、モーションキャプチャーや専門のスタッフが必要で、時間とコストがかかっていた。最強 AI ダンサーを使用することで、制作工程を大幅に簡略化し、初心者でも簡単に高品質なダンスモーションを作成できるようになる。また、リテイクも範囲指定するだけで簡単に行えるなど、ユーザビリティにも配慮されている。

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このサービスは、個人クリエイターから企業まで幅広いユーザーをターゲットとしている。料金プランは、個人向けの100円プランからプロ向けの5,000円プラン、エンタープライズ向けの200万円プランまで用意されている。将来的には、日々アップロードされる動画からトレンドの振り付けを生成できる AI モデルの開発も視野に入れている。

マッドソフトは、このサービスをグローバル展開し、世界中のクリエイターや事業者に利用されるプラットフォームの構築を目指している。また、ダンス以外の身体表現にも対応を広げ、より大きな市場への進出を計画している。既にアルファ版のリリースでさまざまなニーズを発見しており、メディアにも注目されるなど、今後の展開が期待されている。

FINOBLE

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FINOBLE は、金融のプロのための証券セールスプラットフォームを提供する。近年の経済環境の変化や資産運用への関心の高まりを背景に、証券会社以外のプレイヤー(保険代理店、税理士、銀行など)による金融商品販売が増加している中、これらの新規参入者向けに、効果的な販売支援ツールを提供している。

同社のプラットフォームは、AI 技術を活用して、従来は属人的だった証券営業を定型化し、誰もがトップセールスと同等の提案ができるようサポートする。具体的には、顧客属性や案件内容に基づいて、最適なマーケットレポートのレコメンド、提案資料の自動作成、アフターフォローのタイミング提案などの機能を提供する。

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ビジネスモデルは、SaaS としてのプラットフォーム提供と、OJT を含む教育サービスの二本柱で構成されている。プラットフォームは月額利用料を徴収し、教育サービスは研修料として提供する。これにより、ツールの提供だけでなく、実践的なノウハウの伝授も含めた総合的なサポートを実現している。

FINOBLE のチームは、大手証券会社でトップクラスの営業成績を残したメンバーや、若手育成カリキュラムの設計経験者など、豊富な実務経験を持つ人材で構成されている。現在、5社と PoC を実施中で、β版リリースを目指している。まずは保険代理店や税理士などの新規プレイヤーへのサービス提供を開始し、その後地域金融機関へと展開を広げる計画だ。

ecoeats

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ecoeats は、食品業界に特化した GX(グリーントランスフォーメーション)およびカーボンニュートラル対応を支援するサービスだ。近年、環境に配慮した食品選択の重要性が高まっており、消費者の87.5%が環境に優しい食品を選択したいと考えている。しかし、食品企業はこのニーズに十分に応えられていないのが現状だ。

ecoeats は、食品の再生可能性管理ソフトウェアを提供し、食品のシミュレーションを可能にする。リアルタイムでコンセプトの仮説検証と評価を行うことができ、食品企業のコスト削減とリスク低減を図る。また、海外の事業モデルを日本市場向けにローカライズする機能も備えており、フランス、イスラエル、スウェーデンのモデルを参考にしている。

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ecoeats のビジネスモデルは、フリー、カスタム、アドオンの3パターンで構成されている。まずは無料版を提供し、その後、企業のニーズに応じてカスタマイズやアドオン機能を追加できる仕組みとなっている。主なターゲットは食品メーカーと食品小売業だ。現在、複数の企業と PoC を実施していて、来年初頭にはサービスのリリースを予定している。

食品業界のでは新商品企画サイクルが従来の年2回から毎月へと移行しつつある中、ecoeats は、こうした業界のトレンドにも合わせたものとなっている。同社では食品業界やデータ分析の経験を活かし、業界特有の課題解決に取り組んでいる。今後は経験豊富なエンジニアや B2B セールスの専門家の参画も予定しており、人と地球に優しい食の未来の実現を目指す。

Minato by エンジョイライフ

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エンジョイライフは、クルーズ船旅行に特化したオンライン旅行代理店(OTA)サービス「Minato」を開発する。従来のクルーズ予約は、電話やメールでの個人情報のやり取りや、FAXでのクレジットカード情報の送信など、セキュリティ面で課題があった。このサービスは、そうした問題を解決し、ホテル予約のように簡単にクルーズ船の予約ができるプラットフォームを目指している。

このサービスの特徴は、各クルーズ会社のデータベースと API 接続し、リアルタイムで予約状況を確認し、即時に予約が可能な点にある。既に旅行業登録を完了し、日本旅行業協会の正会員として加盟している。また、世界中の100種類以上のクルーズの在庫提供を受けており、幅広い選択肢を顧客に提供できる体制を整えている。

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市場規模について、現在日本のクルーズ利用者は年間36万人程度だが、2035年までに770万人近くまで成長すると予測している。特に、2028年に予定されているディズニークルーズの日本進出により、日本でのクルーズ人気が高まると見込んでいる。これにより、クルーズ市場の急成長が期待されている。

エンジョイライフは、IT業界とクルーズ業界の専門家によって立ち上げられた。今後の展開として、グローバル市場でのシェア獲得を目指しており、クルーズ業界における Booking.com や Airbnb のような存在になることを目標としている。将来的には、企業価値100億米ドルを目指し、クルーズ業界のデジタルトランスフォーメーションをリードする企業として成長を図る。

Qube by Ceed

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Ceed は、Web3特化型のアフィリエイトネットワーク「Qube」を提供する。従来の Web2アプリケーションと比較して、Web3ゲームの顧客獲得単価が12倍にも達する課題に着目し、その解決を目指している。主な原因として、仮想通貨プロジェクトが既存のプラットフォームで効果的なマーケティングができないこと、および国ごとの代理店による多重下請け構造が挙げられる。

このサービスの特徴は、ブロックチェーン技術を活用していることにある。これにより、アドフラウドのリスク削減、アフィリエイターへの即時報酬支払、仮想通貨によるボーナス制度の実現が可能となっている。実際に、フィリピンにおける3D ゲームアプリの顧客獲得単価を、従来の10分の1から3分の1程度まで低減させることに成功している。

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Ceed は、主に Web3ゲーム業界に特化してサービスを展開している。現在、18社のクライアントを獲得し、そのうち7割が海外企業となっている。アフィリエイターは日本、中国、韓国、フィリピンを中心に3000人以上が登録しており、合計で20万人以上にリーチできる状態となっている。

今後の展開として、ゲーム業界だけでなく、金融やエネルギー分野など他の業界へのアプローチも検討している。また、Web3ネイティブなアフィリエイターの育成にも注力し、従来の企業との差別化を図っている。最終的には、ブロックチェーンを活用したグローバルなアフィリエイトネットワークを構築し、Web3に限らず様々な市場でのシェア獲得を目指す。


プログラム第1期はデモデイを終了としたばかりだが、第2期の募集はすでに始まっている。第2期の応募締切は8月31日で、審査・採択を経て、10月から開始される予定だ。第2期のデモデイは、2025年1月末に予定されている。

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