福岡はアジアに進出できるか。エニセンス市江さんが語る福岡とアジア諸国の関係性

ゲストライター by ゲストライター on 2015.12.15

福岡を拠点に活動する二人のメディア人、市來孝人小松里紗による福岡現地取材シリーズ。“福岡のスタートアップ事情に興味のある人”に向けて、現地のキーパーソンの生の声をTHE BRIDGEを通して発信していきます。


Fukuoka, Japan

福岡で働く面白い方をゲストに迎えるラジオ番組「福岡移住計画ラジオ」(〜2015年9月)にDJとして出演してきた市來孝人と、福岡IT界隈で知る人ぞ知る会員制バー「Bar Sumica」オーナーを務めつつ、WEBメディアで取材なども手がける小松里紗による、福岡現地取材企画。二回目は、エニセンス 取締役 市江竜太さんにご登場頂きます。

エニセンスでは取締役として、自社で開発するアプリのアジア展開を軸に中長期での海外戦略を担当。と同時に、アジアでの福岡のスタートアップの存在感を高めるためのリレーションづくりを実施。テクノロジーとクリエイティブの祭典「明星和楽」にもコアメンバーとして初回から関わり、登壇者の新規発掘などコネクター的な役割、全体の分析や仕組化を担っています。

先月11月15日(日)に開催された今年の「明星和楽」。開催前、一番最初に発表されたのはアフターパーティーの開催と、DJ陣の顔ぶれでした。「アフターパーティーを先に発表する」という”明星和楽らしさ”は、実はシンガポールでの原体験にあった?

そんなエピソードから、エニセンスでのアジア進出を通して感じた、福岡のスタートアップとアジア諸国との関係性、今後の課題などを、直近はバンコクに3ヶ月滞在していた市江さんに伺いました。

「明星和楽」の原点はシンガポールでの一夜にあり?

株式会社エニセンス 取締役 市江竜太さん

株式会社エニセンス 取締役 市江竜太さん

小松:「明星和楽」に初回から関わっているということで、市江さん視点で「明星和楽」が立ち上がった頃のことを振り返ってお話頂けますか?

市江:6年前にムラジュン(同じく「明星和楽」スタッフ・村上純志氏)とヌーラボの今はNYにいる田端辰輔さんと一緒に、シンガポールでのAsia On The Edgeというイベントに呼んで頂く機会があったことが大きいです。アート、テクノロジー、ライフスタイルなど様々なテーマがあって、その時にNDAを書いている投資家しか入れない中でアーティストがプレゼンをしてその場で出資するというピッチもありました。

このイベントのアテンドがすごかったんですよね。飛行機やホテルはもちろん、二次会は美味しい料理屋さん、三次会はお洒落なメキシコ料理屋に連れて行かれて、その後福岡だったら中州のようなところにあるビアバーに連れて行ってもらって、その時点で12時くらいなんですが「すごいね、このアテンド」ってムラジュンと言い合ってたんですよ。

で、海外でクラブに行くのが楽しみで、Zoukというアジアで有名なクラブに行きたいねと事前に調べていたんですよね。すると、そんな時に配られてきたのがZoukの入場券だったんですよ。さらにZoukに行ったら行ったもうフリードリンクのチケットを配りまくっていて。5、6軒先までアテンドのプログラムが組まれているわけです。

その時はそんなに意識していなかったんですが、明星和楽の回を重ねるごとにそのシンガポールでのアフターパーティーの盛り上がりは、原体験としてかなり影響は受けているなと感じますね。SXSWにも昨年初めて行ったんですが、またSXSWはフェスに近くてちょっと性質が違うものかなと。

どちらというと明星和楽は、このシンガポールでの経験や、ヌーラボ橋本さんの「アジア×スタートアップ」というテーマ、また福岡愛あふれるデザイナーの山田ヤスヒロさんや異業種の運営スタッフ、nomad小笠原治さんやTHE BRIDGE平野武士さんをはじめとする東京の方々の想いが混ざり合って出来たものなのかな、という印象です。

小松:橋本さんとムラジュンさんもおっしゃっていたんですよ(前回記事リンク)。SXSWは近いものかなと思ってイメージしていたら、中身を見てみると全然違うものだったって。

市江:SXSWを見ずにスタートして、オリジナルでやったのは良かったかもしれないですね。それまでずっと福岡で10年ぐらい、ムラジュンや僕もプログラミングの勉強会を主催したりしていて、それより前にヌーラボ橋本さんもやっていたし、そういったIT系のコミュニティと、インターネット上のSNSの発展と、グローバルでのカンファレンスやフェスの盛り上がりみたいなものが、ちょうど程よく織り混ざった印象ですね。

小松:回数を重ねてきた上で、変わってきた点はありますか?

市江:ひとつは以前の福岡開催の時と比べると複数の会場で実施出来ることと、福岡のスタートアップ支援の機運が盛り上がっているということですね。

小松:今年の開催を終えて感じた成果・課題などはありますか?

市江:今回は福岡でも一番人通りの多い場所(「岩田屋」前や「ライオン広場」)で開催できたことで、3万人を超える集客ができました。ご登壇いただいた方や、複数の分散した会場でのコンテンツも幅広い分野になり、より多様性の高いイベントになったと感じています。

反面、カテゴリなどがぼんやりしているため「何のイベントなのか」がわかりにくい点や、スポンサーがITベンチャー企業に偏っている面は改善の余地があります。今後はファッションや飲食などよりたくさんの方々を巻き込めれば楽しそうです。福岡に戻ってきた今年の盛り上がりの間に次の展開、つまりアジアと繋げていきたいですね。

また将来的には2020年のオリンピックイヤーに、九州各都市で明星和楽を同時開催してみたいです。1週間ほど、さまざまな地域のイベントが九州くらいの広さで同時開催されることが数年続けば、世界的にも話題性があるのではないでしょうか? 例えば、JR九州様などにスポンサー頂いて、各地の移動は乗り放題でイベントチケットに出来たりすると面白いですよね!

バンコク視察で感じた「東南アジアへの進出」の仕方

バンコク郊外「Software Park Thailand」にて。

バンコク郊外「Software Park Thailand」にて。

小松:アジアといえば、市江さんは最近よくバンコク視察をされているようですが、それは何故ですか?

市江:エニセンスはグローバルベンチャーとして日本国内にとどまらず展開していきたいので、目的の半分はエニセンスの事業としてですね。昨年から台湾にも6,7回行ってアプリを広めたりしていたんですが、それをバンコクでもビジネス展開することが出来るかというリサーチです。

残り半分は自分のライフワークと言いますか、今福岡のスタートアップ支援の機運は盛り上がっていますが、その先を考えた時にどうしても東京のスタートアップエコシステムの小さい版という感じになってしまうのではという危機感です。

ファンドが投資して、事業が大きくなったときにそれを売るときのキャピタルゲイン自体がビジネスモデルになっていますが、エコシステムの規模が小さいとファンドの規模も小さくなるし、結果売り上げも小さくなるので。

小さくなればなるほど自由に投資出来なくなったり、支援もしにくくなったりして、結局数の経済になってくるので、それは福岡より東京、つまり大きい都市でやった方が絶対に有利なんですよね。さらにいうと東京よりシリコンバレーの方がさらに沢山のお金が動いているので、さらに有利となるわけです。

こうなると福岡のブームの先が見えない状況ではあるんですよね。ならば福岡の特徴であるアジアとの近さを活かして、アジアのネットワークと相互に協力し合ってエコシステムを大きく出来るのではという仮説のもと動いています。例えば福岡のスタートアップがアジアでマーケットを取ったり、逆に例えばアジアのスタートアップが日本で展開を始める時にテストマーケティングを福岡でやるとか。

小松:具体的にはどのような試みをされているのでしょうか?

市江:福岡を中心とした日本のベンチャーと現地課題のマッチングです。例えばタイ科学技術省からヒアリングした自動車工業系の課題と実情を福岡のIoTベンチャーと共有しながら、どんな技術で解決できないか?などという議論をしたり。

また逆にバンコクのスタートアップや日系企業などの、日本におけるテストマーケティングを実施したり、コラボレーションの促進も進めています。上記のような活動を軸に、各都市のメディアやキーマンとの連携を活発にし絡み合っていくことで、多様性の高いスタートアップのネットワークができる可能性を感じています。

小松:実際にそういった活動を通して、チャンスはありそうと感じますか?

市江:そうですね。すごくあると思います。バンコクをはじめとする東南アジアの各都市はまだまだ隙間だらけなのは事実だなと感じます。一方でその隙間が多すぎて、ビジネスチャンスがすごく多く見えてきてどう絞り込むかが大変なくらいなので。現地の文化にどうやって合わせるかが出来ればかなりチャンスはあると思いますね。

小松:ということは、壁として感じる部分はやはり「文化を理解する」ところですか?

市江:はい。あと東南アジアは都市ごとにバラバラなんですよ。例えば同じ国でも都市によって全然環境や背景が違ったりするので、都市毎にマーケティング戦略も全く変わってくると思います。

それを例えば僕一人がアジア担当として全都市カバーしていくのは非現実的で、アジア展開するスタートアップ同士が、それぞれ進出した都市ごとのネットワークをうまく構築出来れば、さらにやりやすくなるだろうなと感じましたね。

以前台湾でテストマーケティングをした時に、ユーザー数は増やせるなという手応えはありました。プロモーション施策もFacebookやLINEなどオンラインで出来るので。問題はそのあとユーザーサポートをしたり、現地の反応を踏まえてローカライズをしたり、現地のユーザーコミュニティを作っていくこと、これらはやはりコストがかかるなと。

それらをケアする為に、各都市で手伝ってくれる繋がりや、例えば現地でのリクルーティングなどのノウハウの共有といった動きをしておけば、一気にアジア市場を攻めていけるのではと思っています。このフレームを3〜5年くらいでじっくり構築して、エニセンスとしてはもちろん、九州や日本のスタートアップがアジアに展開する時に「使える」座組を作っていこうと。

今はLCCでの移動、Airbnbなどの現地の宿泊、さらにSkypeやハングアウトを使ってのオンラインでの打合せなど、コストを抑えられる部分が沢山出てきているので、それらを有効に活用していけば、福岡にいながらにして、東京と遜色ない形でアジア各国との繋がりが作れるのでは、もっと面白いことが出来るのではというのが今のフェーズですね。

バンコクのコワーキングスペース「LAUNCHPAD」にて。

バンコクのコワーキングスペース「LAUNCHPAD」にて。

アジアの中での福岡の存在感をどう高めるか

小松:今後はバンコク以外の都市も視察されるんですか?

市江:実は昨年アジアの主要都市は一通り回ったんです。その時に一番バランスがいいかなと思ったのがバンコクでした。クアラルンプールと悩んだんですが、バンコクにはスマートフォンのマーケットがしっかりあったので。マーケットを取りながら各都市との接続も良く、文化背景的にも比較的ニュートラルだったのがバンコクだったんですよ。すでに自動車産業や飲食産業などで日本人の方も沢山進出していて日本人コミュニティもありますしね。

本当はシンガポールの方がハブ都市としては優秀なのですが、物価が高かったり、同じような動きをしている人が沢山いたりすることも考えると、バンコクだなと。空気感も3年程前の「これからちょっと盛り上がりそうだ」という福岡の雰囲気に近いなと個人的に感じたのも大きかったです。

小松:ちなみに向こうの空気感の中で、日本、特に福岡は視野に入れてもらえているのでしょうか?

市江:いや、まだないですね。やっぱり東京や京都の方が知られていると思います。そもそも九州を知らない人も多くて。福岡の街を歩いていても、中国や韓国など東アジアからの方は多くいらっしゃいますよね。まだタイから来ている方って少ないなぁと。

ただ今はインバウンドの需要も高まっていますし、福岡、九州全域をうまくブランディングしていけばアジア各国から呼び込んでいけるのではとも感じています。福岡市が「スタートアップセレクション」というイベントをしたり、トーマツさんもスタートアップパビリオンをしたりと、九州全体で動いていこうという機運もありますしね。

バンコクで色々動いてみて、現地の方もすごく乗ってきてくれるので、頑張ればもっと色々繋がりが出来るなという手応えはあります。

小松:今、福岡が盛り上がっている中で、福岡、九州ならではの成功モデルを作っていかないといけないということですね。

市江:そうですね。福岡のスタートアップとしての成功モデルが出来て、そのお金が福岡や九州に落ちて、さらにまた次が出てくる、という形でどんどん規模として大きいムーブメントにしていかなければと思っています。

福岡市スタートアップカフェにて。

福岡市スタートアップカフェにて。


市江さん曰く「福岡にはインターネット的なオープンソースなどの思想を受け継いだ考え方が根付いており、いままで培ったその空気をさらに広げていく機運がいま高まっている」とのこと。

「スタートアップカフェ」で、ITに限らずどのようにアジア展開やグローバル化を進める方法について議論しアクションを起こす会合を実施したり、福岡版スタートアップエコシステムの構築を目指す組織として設立された「スタートアップ・サポーターズ」などの事業での、これらのリレーション・熱量を活かす座組も考えているそう。

アジアとの近さを活かしてチャレンジしようとしている福岡の今後の展開には注目です。

聞き手・執筆:小松里紗、構成:市來孝人

プロフィール

hiro小松里紗:「ad:tech tokyo 2012」に「Club売れるネット広告つくーる」のキャストとして参加したことがきっかけでWEB業界へ。福岡のITベンチャー・株式会社エニセンスを経て、WEBメディアの立ち上げや運用に携わりながら福岡で会員制バー「Bar Sumica」を経営。WEBや飲食業にとどまらず、MCやライターとしてもマルチに活動。
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Twitter:https://twitter.com/komatsu_risa

hiro市來孝人:メディアプランナー/プロデューサー。PR会社勤務の後独立し「ラジオを通し地域を盛り上がる試みをしたい」と考え、「福岡移住計画ラジオ」を企画し自ら出演(〜2015年9月)。ラジオをきっかけに繋がった福岡の方々の声を、さらにWEBを通し広く・定期的に伝えていくべく当連載を企画。「SENSORS」「AdGang」等でも編集・執筆を担当。
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