合計時価1兆円、チャイニーズユニコーンが描く日本市場進出の戦略と将来展望 #IVS10

by Masaru IKEDA Masaru IKEDA on 2017.6.14

本稿は6月6日〜7日、神戸で開催された Infinity Ventures Summit 2017 Spring Kobe 取材の一部。

世界中でユニコーン企業(評価額10億ドル以上)が生まれる中、アジアのユニコーン輩出の基地となりつつあるのが他ならぬ中国だ。彼らは中国国内の貪欲な消費を燃料に成長してきたが、最近になって、中国から世界へと市場展開を始めている。国内に大きな市場がありながら世界を目指す姿勢には、スタートアップが目指すべきグローバリゼーションの真髄が見て取れる。

スタートアップにとってのグローバリゼーションの意味は企業によって異なるが、中国企業にとっては日本市場への進出のコンテキストを含むことが多いようだ。今回の IVS では、日本市場への進出に意欲的な姿勢を見せるユニコーン3社のエグゼクティブが一同に会した。

  • Tang Binsen(唐彬森), Co-founer and CEO, Elex Technology(智明星通)
  • Andrew Chang, VP of Content and Marketing, Next Entertainment(未来趣娯
  • Chris Martin, Head of International, Beijing Mobike Technology(摩拜単車)

モデレータは、ゲームデベロッパ向けの運用リサーチやコンサルティングを提供する、スパイスマート代表取締役の張青淳氏が務めた。


Elex(智明星通)は2008年に設立された、北京に本社を置くモバイルゲーム・パブリッシャーだ。全世界でインストール数1.4億件に及んだ、Clash of Kings のパブリッシャーと言えばわかりやすいだろう。中国に活動拠点を置きつつ海外市場向けに特化したゲームを配信しているのが特徴で、この分野では中国企業の中でも随一の10億ドル(昨年)の売上規模を誇る。事業の主軸はモバイルゲームだが、最近では、中国スタートアップの海外市場進出を意図して投資にも力を入れている。同じ文脈で、日本のスタートアップへの投資にも意欲的だ。

Next Entertainment(未来趣娯)は、MAU 200万人以上を誇る中国のライブ中継アプリ「Inke(映客)」とモバイルゲームデベロッパの Fun Plus(趣加)が手を組んだ JV で、海外市場向けに「Meme」のブランドで Inke と同様のサービスを展開している。同社の国際展開は始まったばかりで、現在進出している市場は台湾のみ。台湾に進出を果たした昨年10月から今年4月までに、売上ベースで6倍、ユーザリテンションとしては2倍の成長を遂げている。今年の第3四半期には日本進出を予定しているほか、韓国や東南アジアへの進出も視野に入れている。

以下は、Meme が台湾でまもなく放送開始するテレビ CM だ。

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パネリスト紹介の最後を飾っのは、中国市場で今最もホットのバーティカルの一つであるバイクシェアリング(自転車レンタル)スタートアップの雄 Mobike(摩拜単車)だ。エアレスタイヤでパンクの心配が無く、ペダルの動きを車輪に伝える部分もチェーンではなくシャフトドライブが採用されているなど、耐久性を追求して設計された同社の自転車は4年間メンテナンスフリー。中国でのサービスローンチから14ヶ月が経過し、現在は中国とシンガポールで450万台の自転車が稼働している。スマートな自転車とテクノロジーで、社会と街をどう変えられるかというのがテーマだ。

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Chris Martin, Head of International, Beijing Mobike Technology(摩拜単車)

日本市場の可能性をどう見るか?

Elex の Binsen(唐彬森)氏によれば、同社のヒット作「Clash of Kings」で、全世界のユーザに占める日本ユーザの割合は15%。日本ユーザのモバイル消費の力は、世界的に見ても阿東的に強いという。基本的には「世界はフラットである」という信条に立って、グローバルなサービスを心がける Elex であるが、それでも日本市場は参入にあたってのハードルが高く特異な要素が多いため、プロモーションもかなりローカライズしたという。世界の他の市場については、北京の本社からオペレーションしているが、日本市場については Elex Japan という現地法人を作り、日本人社員らによってオペレーションが行われている。

一方、モデレータの張氏は、中国では Inke が二級都市(中国の都市区分で、北京や上海などの一級都市よりは郊外にある中規模都市)に住む若年女性の(バーチャルアイテムの販売による)小遣い稼ぎといったユースケースが多いのではないか、と指摘。Inke の国際版である Meme が日本に参入したときに、果たして流行るのか、もし流行るとしたら、どのような流行り方をするかについては未知数だ。これについて、Chang 氏は Meme が、アジアで流行するセルフィー(自撮り写真)などとは違い、視聴者とのインタラクティブなユーザエクスペリエンスを提供できることが重要との述べ、このアプリの国際展開に賭ける意気込みを語った。

Mobike の Martin 氏は、Mobike が日本に進出する可能性について名言は避けたが、この日、会場に日本で初めて Mobike の自転車の実機を持ち込んだことから、張氏は、これはまもなく日本でサービスを開始する意思の現れではないかと、Martin 氏をけしかけた。張氏は、大都市圏では電車通勤が主流の東京や大阪で、中国での成功モデルを日本に持ってくることは難しいだろうと指摘。これに対し、Martin 氏は、日本に限らず、どの市場にも中国と同じモデルでサービスを持ち込めるとは考えていないと語った。

日本の都市部でも地方自治体がレンタサイクルを提供している事例は存在するが、何より興味深いのは、地方自治体は税収財源からコストを捻出しているのに対し、Mobike ではサービスを提供した上にビジネスとして儲かるという点だ。したがって、地方自治体にとっても自前でサービスを提供するより、Mobike に来てもらってオペレーションしてもらった方が、コスト支出が無く市民の満足度も高まるのである。Mobike の自転車には GPS で捉えた位置情報を送信する SIM カードが搭載されており、空き自転車の需要が高いエリアには、そうでないエリアからユーザが自発的に自転車を移動させるよう、Hongbao(紅包)などのロケーションベースのゲーミフィケーションが巧みに組み込まれている。移動情報を元にしたビッグデータも、さまざまな公共サービスやビジネスに応用できる。

以下は、Mobike の北京市内でのある1日の利用状況を、位置情報に基づいて可視化したものだ。北京は地下鉄が普及しており、道路も整備され、人々も日常的に電動二輪車で移動している便利な街だが、そこに新しいコンセプトの都市交通(アーバンモビリティ)の需要を生み出していることが、このアニメーションからわかる。PM2.5 の問題解消にも少なからず貢献していると言えるだろう。

日本市場への進出に期待すること

Elex の Binsen 氏は、今後も日本市場のさまざまな事業分野に進出することを考えたとき、基本的には、現地企業とのパートナーシップベースになるだろうと述べた。

日本による中国企業への投資で、最も効果的だったと言われるのは、ソフトバンクによる Alibaba への投資。日本ではヤフーが勝って eBay が負けたように、中国でも同じようにやって Alibaba が Taobao を作った。

中国は法的整備が追いついてない部分があるので、スタートアップを始めるには向いている国。Mobike 以外にも新しいビジネスがたくさん出て来ている。

日本では、医療や消費財(特に食品関係)に興味がある。スターバックスがコーヒーをイタリアから持って来てアメリカで成功したように、中国企業が日本のスタートアップと提携して、そこからグローバル展開や中国に逆輸入するというようなことがやりたい。

これからの時代、国という枠にこだわっていても仕方なく、グローバルを視野に入れないと生きていけない。日本への進出というよりは、日本企業と手を組んでやっていくことが競争力につながると思っている。

Andrew Chang, VP of Content and Marketing, Next Entertainment(未来趣娯)

Meme の Chang 氏は、日本に優秀な人材が豊富にいることを賞賛した。

日本は優秀な人材が豊富なので、買収(acqu-hire)よりも自分のチームを作りたい。

かつては、日本の優秀な人材は欧米企業に入社したがる傾向があった。今なら、中国企業でも日本の優秀な人材を採用できると思っている。ローカリゼーションやカスタマーサポートは、世界中どの国でもローカルの人がやる必要がある。

現在、Meme でも日本人チームがサービスを開発中だ。

Mobike の Martin 氏は日本語も堪能なイギリス人だが、日本市場が持つ特異点という表現には、終始懐疑的だった。国際展開の責任者である彼は、事業の将来戦略について語るのは適任ではないと遠慮しつつも、個人的な見解を次のように述べた。

Mobike は、特に中国らしく何かをしている会社ではない。サービスをローンチしてから1年間で、トランザクションやデータの基盤がここまで完成した。これだけでは面白くないので、今のユーザベースやデータをもって、サービスを次のレベルに持っていきたい。

例えば、不動産とか、決済とか、いろいろな企業との面白い話が既に始まっている。

Mobike はサービス開始から1年間で中国の90都市で利用されるようになり、四川省成都市では、通勤で電車を使う人よりも Mobike を使うユーザの人口が1.2倍に上るという、超絶なパラダイムシフトが起こっている。日本市場に参入した際には、社会のどのような変化をもたらすのか楽しみだ。

今回のこのパネルには、Toutiao(今日頭条)を運営する ByteDance(字節跳動)副総経理 Josh Liu 氏も登壇予定だったが、都合により欠席となった。彼は昨年の IVS にも登壇しているが、その後、Toutiao は日本法人を設立し、Bitstar などスタートアップとの提携や協業を開始するなど、日本市場でも存在感を高めつつある。4月にはシリーズDラウンドで10億ドルを調達している

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