新社会人へのメッセージ「道は一つだけではない」【ゲスト寄稿】

mark-bivens_portrait本稿は、パリと東京を拠点に世界各地のスタートアップへの投資を行っているベンチャー・キャピタリスト Mark Bivens によるものだ。英語によるオリジナル原稿は、THE BRIDGE 英語版に掲載している。(過去の寄稿

This guest post is authored by Paris- / Tokyo-based venture capitalist Mark Bivens. The original English article is available here on The Bridge English edition.


Image credit: choneschones / 123RF

友人である Atomico の岩田真一氏との最近の会話で、私は、今日の若い人たちが職業キャリアを始める際に直面する選択肢について、考えるきっかけを与えてもらった。

岩田氏は、日本での職業上の文脈において、stability と security という言葉の違いについて、鋭い記事を投稿した。この2つの言葉は、日本語ではいずれも「安定」という同じ単語で表現される。私は岩田氏のエレガントな作品を正当に評価することはできないが、彼が提起した重要な論点の一つは、日本の若者が目標を遂げる上でどちらの意味の「安定」を選ぶかを意識すべきというものだ。なぜなら、stability(変化しないことの「安定」)と security(他の不安要素から環境を保証する意味での「安定」)は、意味するところが異なる場合があるからだ。

昔から日本の教育システムでは、若い人々に職務上の security を追求するよう求めてきた。小学校では熱心に勉強し、放課後は一流大学に入れるよう塾に通い、そして、大企業に雇用される卒業生になることが求められた。卒業した若い人々は大企業のいずれかに入社し、生活が保証された仕事に対する暗黙の了解により、数年間がむしゃらに働く。この現象は何も日本だけに限った話ではないだろう。

生涯雇用の社内的な取り決めは、労働者に完全な雇用の安定(security)と同時に、高い安定(stability)をもたらしたので、security と stability という2つの概念は、人々の心の中で同じ意味で捉えられるようになってしまった。そして、グローバリゼーションの到来とともに、2年から5年間、異国の地で駐在を求められるかもしれない条件が生まれたことで、この2つの概念の違いがまず明らかになった。

私は異国出身の駐在員の子供として育ったので、若い頃に世界をうろうろできるのは利益以外のなにものではないと考えていた。しかし、私は、父が彼の会社に依存していることを目の当たりにすることになる。父の会社が我々家族に転任の話を持ちかけたとき、父は少なくとも、その依頼を断ることを強くなだめられたのだ。日本企業なら、断るようなことは考えられない。

私は、過去十年間で stability と security が今までになく相反する概念となり、そのトレンドは加速していると考えている。それをもたらしている主因は、インターネットなどの第二次情報技術革命だ。

安定を求めるなら、大企業ではなく、イノベーティブな企業を目指すべき

私は、第一次情報革命(半導体の発明と、それによるコンピューティングリソースの普及)が、持続可能なイノベーションを実現しているという、説得力のある議論を聞いたことがある。言い換えるなら、シリコン革命のイノベーションはドラマティックなものだったが、それは disruptive(破壊的)というよりは sustaining(持続的)だったわけだ。このイノベーションの波は、大企業が規模経済に新しい効率性を取り入れること可能にし、大企業に不均衡な形で恩恵をもたらした。

それとは対照的に、その後のイノベーションの波は、インターネットによって導かれ、根本的に破壊的だ。この波の大一派は、テクノロジー業界に現れた(Microsoft にとっての Slack、Oracle にとっての MongoDB、Cisco にとって AWS が意味するものがそうだ)。現在、インターネットのパラダイムから生まれ、〝レガシーな荷物〟に束縛されていないテクノロジースタートアップは、所帯が大きくテクノロジーの浸透していない業界を追いかけている。交通なら Lyft、消費者製品なら Dollar Shave Club、金融なら TransferWise、農業なら The Climate Corporation などがそうだ。以前にも述べたように、インターネットのサービスが実世界とのつながりを増すことで、工業、農業、環境などの業界の中で物事が完結するようになっていく。

したがって、大企業は今でも、自分たちの業務規模、従来からの流れ、保護的労働規制の文脈から、労働者に一定の security を提供することはできるかもしれない。しかし、そのような企業の stability は保証されない。

私から新社会人へのメッセージはこうだ。キャリアを始めるにあたり、自身の最終目標について考えてほしい。両親にとってうまくいった道は、時代が変化した今、同じ目標を達成するにも、もはや必ずしも有効なものではない。そして最後に、世間がそう言うからといって、他の人と同じ道をたどろうとする必要はない。道は一つだけではない。

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